第24話 美鶴って呼んで良いか

この世界は何時だって巡っている。

そのスピードは俺にとっては考えさせられるスピードだった。

つまり.....まあ単純に考えると。

世界は歪だなって思うのだ。


俺と霧島は2人きりでファミレスに居た。

学校から帰宅している時にこうなったのだが。

ファミレスに居る理由としては.....色々あったから。

実はこの前にこんな事があった。

30分前に遡るのだが。



「.....」


俺は不愉快げにその2人の女子を見る。

その女子どもは身長差があるにも関わらず俺を見ていた。

確か関口と高島だったか。

俺を.....イジメていた霧島と一緒に居た女子どもだ。

霧島の残党と言える。


「いやはやアンタ久々だねぇ。早速だけど持っている有り金を全部寄越しな。実はさ。デート代が足りなくてぇ」


「そしたらさ。噂でアンタの事を聞きつけてさ。やって来たんだよ。霧島と絡んでいるそうじゃん?」


「.....」


ギャルのままで不良化している。

結局クズは何も変わらないクズも居るって事か。

そんな事を考えながら見ていると。

あの、と声がした。

背後を見ると.....何故かその。


霧島が立っていた。

俺は愕然としてモジモジする霧島を見る。

すると関口が、アレェ?弱くなった霧島ちゃんじゃん、と言った。


それから、最近アンタ何だか病弱になったって言うじゃん?、と高島が言いながらいきなり駆け寄ってから嫌がる霧島の髪の毛を引っ張った。

そしてカツラが落ちてから。

ギャハハ!、と馬鹿にした2人。


「アンタさ。最近だけどこの辺りフラフラしているってんじゃん?良い気味だわ。昔からリーダーがアンタって鬱陶しいって思っていたからさぁ。田中くん呼んでさ商店街で襲わせてみたんだけど」


「マジにハゲだったんだぁ〜。うわぁ。無いわー」


きもーい、と言う2人。

涙を浮かべて泣き始めた霧島。

その瞬間。


流石の俺も内心で何かブチッと切れた。

コイツら親友という絆はただの布切れの様なカタチだったんだな、と。

全てはコイツらが原因だったのか、と思いながら。

そして俺は高島と関口に、オイ、と声を掛ける。


「は?何あん.....」


それから俺は女子に手を出したくは無かったが。

あまりの怒りに平手打ちした。

そして2人は撮影していたスマホを勢いよく落とす。

これこそ良い気味だった。

俺はその姿に冷静に睨みながら。


2人を指差す。

お前らの様なゴミクズとは二度と霧島を会わせたくない。.....だがその前に霧島に謝れ!!!!!、と大声を発する。

2人は、っ何様だよお前コラァ!!!!!、と涙目で怒号を発する。

俺はその怒号に少しだけ怯んだが。

構わず続ける。


「お前らがどう思っているか知らないが。霧島は必死に今を生きている。それを馬鹿にするなら俺が許さない」


「.....は?アンタってイジメっ子を守るの?馬鹿じゃないの?アハハ!!!!!」


「.....霧島はお前らが思っている程、軟弱な人間じゃない。俺達には強い心を見せた。だからお前らの様な軟弱者にはこれ以上語らせない」


「.....千草花奏.....」


カツラを拾った俺に驚く霧島。

俺はそれを見てから2人を見る。

それとも何か。

当時と違って俺は鍛えているが。

お前らの様な奴らだったらボコボコに出来るぞ。やるか?、と話す。


「.....チッ.....アンタ覚えてろ。.....一応は謝るけど」


「.....アンタ.....いや良いけどね。.....田中くんが絶対に許さないから。今日の事全部言うし」


「言えば良いじゃねぇか。それだけ負け犬の遠吠えだ。お前らの様なインチキ野郎にはお似合いだ」


そう言い放ち。

逃げる様に去って行く2人を見てから。

そのまま立ち尽くしていた霧島を見つめる。

霧島はビクビクしながらも。

こう言ってきた。


「.....貴方は.....敵を生んだ.....だって.....あの2人は.....容赦無いよ」


「それがどうした。俺は怖くない。そもそも黙ってられなかった。こうなったのは仕方はないし」


「.....何でそこまでしてくれるの.....」


「お前な。この状態で黙っている方が珍しいって」


「.....たまたま見つけたから声を掛けたら.....私が助けられた」


「声を掛けてくれただけでも助かった。.....有難うな」


見ると霧島は杖をついていた。

それだけ症状と病状が.....かなり悪化していると言う事だろう。

俺はその姿を見ながら、なあ。ファミレス行かないか、と提案する。

霧島は胸に手を添えながら、え?、と言ってくる。


「お前にお礼がしたい」


「.....私は声を掛けただけなのに」


「.....助かったのは事実だ。俺がな。.....だからお前にお礼がしたい」


「.....」


それから躊躇う霧島と一緒に。

俺はファミレスにやって来てから。

テーブル席を選んでから腰掛けつつ。

取り敢えずとドリンクバーを店員に注文した。


「.....霧島は?」


「.....え.....じゃあど、ドリンクバーで」


「じゃあ2つで」


そんな感じで注文してから俺は目の前に座っている霧島を見る。

これが30分前の事。

そして今に至っているのだが。

霧島と話せる機会が得られた気がする。


「.....眼鏡を前は掛けて無かったよな。お前」


「.....これは.....視力が落ちた。.....手術で」


「.....だろうな。何かしらの理由が無いとそんなレンズの大きな眼鏡をしないだろう」


「.....それからジャージなのは動き易いから」


「.....ああ。そうなのか」


杖を横に置きながらビクビクしながら俺を見る霧島。

俺はその姿に言葉を発さず。

そのまま時間だけが過ぎていく。

すると、千草花奏、と霧島が言葉を発した。


「.....有難う。私を2回も助けてくれて」


「.....当たり前の事をしているだけだ。.....俺は一日一善って思っているだけだ」


「一日一善にしては大きいと思う。.....有難う。本当に」


頭を下げながら霧島は涙を浮かべる。

そしてポタポタと涙が落ちる。

俺はその姿を見ながら複雑な顔をする。

それからこう話す。


「なあ。霧島。.....もしよかったら霧島じゃなくて美鶴って呼んで良いか」


「.....それは.....何故?」


「.....まあせっかくだしな。苗字ってのも.....何となくアレだし」


「.....貴方が呼びたい名前で呼んでいい。私は.....そんな事を指図はしない」


「そうか。.....じゃあ美鶴。.....お前さ。何で助けてくれたんだ?」


言ったでしょう。

たまたま通り掛かっただけって、と言う美鶴。

俺はその姿に首を振った。


それは嘘だな、と。

何故ならコイツは汗をかいていた。

無数の大粒の汗を額に滲ませていたのだ。

俺を助ける気で必死に近付いて来たのだろう。


「.....俺はお前に助けられて嬉しかった」


「.....そう」


「お前には.....散々な目に遭わされたけど。初めて感謝の言葉が浮かんだ」


「.....千草花奏.....」


「.....だから俺は言う。.....有難う」


その言葉が恥ずかしいのか。

真っ赤になる美鶴。

それから.....笑顔を見せた。


俺は!と思いながらその顔を見る。

こんな顔も出来るんだな、と。

そう思った。


「.....ああ。ジュースが無くなったな。.....ちょっと取ってくるか」


「私も取りに行きたい」


「.....良いよ。俺が取ってくる」


「.....そ.....」


そこまで言ってから。

美鶴がドシャッと電池が無くなったブリキの様にその場に倒れた。

俺は!!!?!と思いながら直ぐに駆け寄る。

しかし意識が無くなっている。

嘘だろ!?


「どうした!?」


「やばい!救急車!!!!!」


それから大騒ぎになる店内。

俺は直ぐに119番してから救急車を呼ぶ。

店員さんとかに補助してもらいながら。

そのまま美鶴は病院に運ばれる。

そして.....美鶴の母親とかが来てから医師の説明を受ける。


が。


美鶴の状態はあまりに深刻だった。

それはどれだけ深刻かというと。


この感じでは今夜が峠かもしれない。

つまりもう保たないかもしれない。


という感じだった。

それなりに残りの人生を自由に生きさせたいという理由から所謂、終末期医療センターには入らない感じで入院せず自由だったが。

急遽今回は末期の患者に対するモルヒネの治療など、延命治療が行われるという話になった。

だがそれを美鶴の母親は最後でも断った。


最後まで痛みがあっても自由に生きさせたい。

その様な理由で、であるが。

俺は複雑な顔ながらも。


既にもう午後8時を回った夜だったが全員を呼び出した。

ありったけの人物を。

みんな快諾して集まってくれた。

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