第22話 霧島美鶴という少女とその周りと

俺達は鳴さんとアドレスやらを交換してから。

カフェを出てから近所の河川敷に来ていた。

雑草の上に腰掛けてから。

それから一緒に空を見上げる。

空は今日は晴天だ。


「晴天だけど.....曇っている様に見える」


「そうか。お前の感情だよな」


「.....そうだね。ねえ。花奏」


「.....何だ?」


「私はどうアイツに接したら良いのかな」


「正直に言って俺も分からん。どう悩みどう理解して行くのか.....」


そうだね、と言いながら美香は目の前の煌びやかな川を見る。

それから俺を見てから、でも私は許せないよ、と言う。

それはそうだろうな。

美香も女子から差別される様に誘導された。

当たり前だと思う。


「仲の良かった子も離れた。アイツのせいで。全て壊された」


「.....そうだな」


「.....アイツが居たから小学校時代は最悪だった」


「.....そうだな.....」


「.....引っ越せば良いとかそんな話だったと思うけど。そんな事をしている暇すら無かったから。それにこっちが引っ越したら負け組とか思われちゃうしね」


「.....当時は何も出来なかったろ」


そうだね、と言いながら俺を見てから立ち上がる美香。

それから川を見つめる。

何故今なんだろうか、と呟きながら。

俺はそんな美香の頭を撫でた。


「.....どうしたの?花奏」


「.....いや。ついつい撫でたくなったから」


「.....そう.....有難うね。花奏」


「.....ああ」


そんな会話をしながら居ると。

背後から声がしてきた。

千草花奏?、と、だ。


俺達は背後を見る。

そこに.....自転車を転がす霧島と自転車を転がす霧島の母親らしき人物が居た。

女性であるが.....。

俺達は警戒しながら聞く。


「.....霧島。その人は母親か」


「.....そ、そうだね」


「.....そうか」


すると霧島の母親は自転車をガタンと置いた。

それから霧島の頭を掴んで下げさせる。

俺達はビックリしながらその姿を見てみる。

そして、申し訳ありません!、と涙声になる霧島の母親。


「.....貴方がたがこの馬鹿からイジメを受けていた子供達ですね.....!?」


「そうですが.....」


「大変.....申し訳ありませんでした。.....もう謝っても謝りきれません」


「.....仮にも和解は成立したから。何も言わない」


「.....!」


美香はイラついた様に母親を見る。

だが感情は複雑の様だ。

俺はその姿を見ながら霧島の母親を見る。

顔を上げて下さい、と。

それから2人は顔を上げる。


「正直。俺はどうでも良いです。霧島に受けたダメージは。.....だけど美香には反省して下さい。美香にやった事は絶対に許せないです俺は」


「花奏.....」


「.....俺は美香だけは大切な幼馴染と思っています。お金でどうこう出来る問題じゃない。だから受けたダメージは許せない。.....反省して生きて下さい」


「.....はい......」


そんな会話をしていると。

もし良かったらその。

お茶を出したいのですが、と控えめに言ってくる霧島の母親。

俺は美香を見る。

美香は何とも言えない顔をしていた。


「.....私も.....話が出来ればと思います」


「.....」


「.....美香。どうする」


「.....正直嫌だけど。.....でも何時迄も嫌っていても仕方がないよね」


そうして、じゃあお願いします、と美香は答えた。

それから俺達は霧島の家に向かう事になる。

そして衝撃を受ける事になった。

何故か。

それは.....霧島の家が貧乏だったから、だ。



「美鶴は一人娘です」


「.....そうなんですね」


「.....廃屋なんて言ったらそれまでだけど。.....この場所が家」


「.....そうなのね」


この町の工場の空き地。

そして排ガスでも多くありそうな感じの場所に。

まるで.....その。


健康に悪そうな場所にボロボロの一軒家があった。

俺はそれを見上げながら、霧島、と尋ねる。

するとビクッとしながら霧島は、何、と話す。


「お前父親はどうした」


「.....亡くなってる。肺癌だった」


「.....」


「.....そうなのね」


だから家が貧乏なんだな。

俺は思いながら霧島の母親を見る。

霧島の母親は、私達はパートで食い繋いでいます。娘も働いていましたが.....倒れてしまい.....今は私だけです、と答えた。

俺達は困惑しながら顔を見合わせてみる。


「霧島。本当に来て良いのか」


「.....良い」


「.....そうか」


それからがたついている玄関ドアを開けると。

そこにはカビた匂いがする廊下が出て来た。

俺達はまた困惑しながら見る。


そして案内される。

奥の部屋に、だ。

リビングと呼べる場所なのか分からないが部屋に。


「此処で待っていて下さい」


「.....ああ」


「.....はい」


周りを見渡す。

ボロボロの障子などが見えた。

電球も1個しか無い。


そしてその周りに遺影が見える。

霧島の親父だろうか。

男性が写った写真が、だ。

俺はそれを見ながら美香を見る。


「.....」


「.....美香。大丈夫か」


「.....何でもないよ。花奏。.....ちょっと思う所があるだけ」


「そうか」


「.....予想外だなって」


「.....確かにな」


それからお茶を霧島が持って来る。

よく見たら足を引き摺っている。

つまり体調が良く無いのだろうな、と思う。

そしてお茶を置いていく時に。

美香が、アンタさ、と聞く。


「.....は、はい」


「.....何で今更来たの?私達の所に。余命だからってだけじゃ無いよね。それだけじゃ少ないと思う。理屈が」


「.....逮捕された」


「.....は?」


「少年院に送られた」


俺は愕然として。

そして美香もかなり唖然とした。

それから、大麻所持、と語り出す。

俺はビックリしながら、お前マジか、と聞く。

頷く霧島。


「.....そんな事があったから.....謝りに行こうって思ったのか」


「そこまで堕ちてみないと。人間は地獄を見ないと反省していけないって思った。.....私はだから貴方に。美香さんに謝りたかった。だけど肺がんを患った父親も居て謝れなかった。そしたら今度は自分が病気になった。天罰だと思った」


「.....」


美香は俯いた。

そして何も言えなくなる。

俺も愕然としてから何も言えなくなった。

コイツ.....相当な人生を歩んで来たんだな、と。

そう思えた気がした。


「悪とは何か。正義とは何か。それをずっと考えた」


「.....そうか」


「.....私が悪かったって気が付いた。それで」


「.....」


すると美香が、アンタ.....本当に反省しているの、と切り出した。

俺は美香を見る。

霧島は頷きながら涙を浮かべた。

信じて、とは言わない。

だけど私はもう抵抗する気はない、と言い出す。


「.....じゃあこっちに来て」


「.....?」


美香は霧島を呼び寄せた。

そしてそのままハグをする。

俺はその様子にかなり衝撃を受ける。

まさかの行動だったから、だ。

霧島は、え、とだけ言って固まっていた。


「.....アンタが辛いのは良く分かった。これからは元クラスメイトとして見る。反省してでも良いから強く生きて」


「.....美香さん.....」


「.....私達の事はもう良いから。反省だけをしなさい」


「.....美香.....」


よく見ると。

霧島の母親も泣いて嗚咽を漏らしていた。

いつの間にか来ていた様だ。

俺はその姿を見ながら、霧島、と声を掛ける。

そして、お前は余命はあと何ヶ月だ、と聞いてみる。


「.....実際はそんなに保たない」


「そうか。.....もし良かったら今度俺の家に来てくれないか」


「.....それは.....どういう」


「これまでの仲間に説明したい。.....お前の事を。.....紹介したい」


「そんな事。こんな最低な私なんか紹介しても」


「.....今のお前だからこそ紹介出来る」


俺は言いながら驚く霧島を見る。

霧島は涙を浮かべた。

そして涙を流す。

俺はその姿を見ながら、お前のやった事は全部許せない。だけどな。.....それで止まって良いわけじゃない事に気が付いた。先ずはお前の幻想をぶち殺す、と言った。

最後のはジョークじみているが。


「.....あ、あはは。それ、とある、だよね」


「.....そういうジョークをかませる程.....俺達の関係はそれなりに再建されたって事だ」


「.....!」


「.....もうせっかく出来そうなこの関係を壊すなよ」


「.....千草.....花奏。貴方は.....本当に良い人だね」


俺が全部じゃない。

美香がやった事だしな。

思いながらお茶を頂いてみる。


雑草のお茶らしいが美味しい。

だけどまあ美味しいのは。

今の状態があるからだろうけど。

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