第21話 どんな形であれ目の前で絡まれている奴は見過ごせない

霧島には帰ってもらった。

これ以上話していると不愉快にしかならない。

俺は思いながら.....そのボロボロの背中を見送ってから。

奏多と未来を見る。

2人は不愉快そうな顔を浮かべていた。


「.....何で今更なの」


「.....奏多.....」


「.....私は絶対に許さない。大切なお兄ちゃんをそんな目に遭わせた奴なんて」


「.....」


そうだな.....。

許せないのは事実だ。

だけど.....どうしたら良いのだろうな。

この気持ちは、だ。

思いながら俺は眉を顰めながら顎に手を添える。


「花奏ちゃん」


「.....何だ。未来」


「.....許したいって気持ちは分かるよ。君はとてもとても優しいから。でも今回はね。状況が違いすぎる。.....だからよく考えて」


「そうだな」


許すとかそういう次元じゃないしな。

思いながら.....時計を見る未来を見る。

未来は、そろそろ迎えも来るし帰るね、と言ってきた。

俺達はハッとしながら、ああ、と言う。

それから玄関まで見送る。


「.....じゃあまたな。未来」


「.....花奏ちゃん」


「.....どうした?」


「本当に有難う」


未来はそう言いながら。

満面の笑顔で俺の手を握ってからそのまま鳴さんの運転する車で去って行った。

良い仕事をしたものだな俺も。

思いながら奏多を見る。

奏多は笑みを浮かべて俺を見ていた。


「.....どうした?」


「別に。何もない」


「そうか?」


そんな会話をしながら。

その日はそのまま過ぎた。

それから俺は翌日になってから。

そのまま翌日の休みの日曜日を迎える。



改めてデートしたい、という美香と一緒に。

俺達は地元の商店街を巡っていた。

それから歩きながら話す。


昨日あった事を。

そいつに会った事を。

深刻な感じの顔になる美香。

無表情だがかなり激昂している。

静かな怒りを抱いている様な。


「.....ダメだよ。そんなの許しちゃ」


「.....そうだな。そうは思うが」


「癌だから?だから許しを乞いに来たって事?.....絶対に許せない」


「.....まあな」


そんな会話をしていると。

遠くから少年少女の声がした。

『おいお前って霧島か?ボロボロじゃん』

『ありえねぇwwwマジかよ』

とかいう声だ。

俺達は顔を見合わせてから少しだけ覗いてみる事にした。

そこには.....嫌がっている霧島が居る。


「つーか頭も禿げてんだよな?うわー」


「ないわー」


通行人は行ったり来たりしているが。

誰も助けはしない。

それどころか見てみぬふりだ。

俺はその姿達を見ながら美香を見る。

美香は首を振っていた。


「.....」


俺は無言で立ち上がる。

それから、オイ、と声を掛ける。

美香は酷く驚愕していた。


だが俺はそのまま言葉を続ける。

不良達はみんな俺を見てくる。

霧島もかなり驚いていた。


「あ?何だよテメェ」


「すまないけどソイツを離してやってくれないか。俺の知り合いなんだ」


「.....え.....千草花奏.....?」


霧島はそう呟きながら見てくる。

俺は倒れているその手を掴む。

それから立ち上がってから後にする。

背後では不良どもが、おいおい。そいつと絡むとお前も病気になるぞー、とか馬鹿にする声がしてきたが。

無視してそのまま一歩ずつ歩く。


「何で.....千草花奏」


「.....俺は仮にも知り合っている様な野郎ならどんなクズでも絡まれていたら気になる」


「.....花奏.....優し過ぎるって」


「.....」


背負っていたが。

その背後で霧島は声を抑えながら嗚咽を漏らしていた。

俺はその姿を感じながら。


そのまま歩く。

そして暫くしてから降ろした。

商店街から抜けて1キロぐらい歩いてから。

さっさと消えてほしい。


「.....千草花奏」


「.....何だ」


「.....貴方には感謝しかない」


「お前に感謝される覚えはない。消えてくれ。すまないけど」


「.....はい」


それから睨んでいる美香に頭を下げてから。

ゆっくりと歩き出して去って行った。

だが途中で立ち止まり。

俺に何か紙を渡してくる。

それは.....何かURLっぽいやつだった。


「.....私のブログ。無理に観ろとは言わない。.....でも多少でも観てくれると嬉しい」


「.....」


「.....」


美香は警戒しながら睨みを効かせる。

俺はその姿を遮りながら。

霧島に聞いた。

これ何のブログだ、と。


「.....闘病日記」


「.....そうか」


「.....観るか観ないかは自由。.....だから」


それから、じゃあ、とヨロヨロと去って行く霧島。

俺はその姿を見ながら。

残されたその紙を見つつ。

盛大に溜息を吐いた。


「花奏.....どうする?」


「.....正直こんなもんに嘘を吐いても意味無いだろ。.....今度観てみる」


「花奏.....」


「正直な。.....美香。御免な。俺って優し過ぎるかもしれないけど。.....あんな姿を見ているとな.....」


花奏がそう言うなら私は何も言わない。

と美香は言いながら柔和な顔をしてくる。

俺はその姿に!と浮かべながら。

そうか、と返事をした。


「.....デートの続きしようか。邪魔が入ったけど」


「.....そうだな。.....するか」



それから俺達はデートの続きをする事にした。

その途中でカフェに寄る。

少しだけ注文の品が来るまで暇だったので俺はアドレスを開く事にした。


そこには.....輸血や。

何本もの点滴や。

包帯を頭に巻いた写真を撮っていて。

文章を綴っているブログがあった。

タイトルは『今の自分への日記』と書かれている。


「.....身体.....ズタズタだね」


「.....そうだな」


「.....17歳だったよね。アイツ」


「.....そうだ.....な」


俺達は文章を読む。

そこには日記と書かれている通り。

まさに日記の様な感じで色々と記載があった。

日に日に落ちて行く体力とか。

日に日に落ちて行く感情とか、だ。


「.....どうあっても私は許せないけど。.....でも考えを改めるべきなのかもね」


「.....美香.....」


「.....私は許さない。.....だけどこれとそれとは別だと思う」


「.....そうかもな.....」


余命は3ヶ月と書かれていた。

リンパ節、肝臓に癌が転移しているという。

俺は複雑な心境になる。


どう言い表したら良いのか分からないが。

俺は.....恨むべきなのか。

それとも見方を変えるべきなのか。

その様な.....感じだ。

そうしていると、あら、と声がした。


「.....?」


「.....未来のお母さん?」


顔を上げると未来の母親が俺達を驚きの眼差しで見ていた。

カフェに用事がある様だ。

俺達は顔を見合わせてから、良かったら座りませんか、と促す。

その言葉に申し訳なさそうな感じで、い、良いのかしら、と言ってくる。

俺達は、はい、と言ってから座ってもらう。


「.....」


「.....」


「.....」


とは言いながらも。

俺達は何も喋れなかった。

あまりのむず痒さに俺は、あの、と声を掛ける。

だが鳴さんとその声が重なった。


「あ、す、すいません」


「いえ.....此方こそ」


「.....その。未来の.....事なんですけど」


「.....はい」


「.....未来は大丈夫ですか」


すると店員さんが飲み物を運んできた。

それを見ながら鳴さんは、はい、と答える。

それを見計らってから俺達に頭を下げてきた。

俺達は慌てる。


「.....全て私が悪かったですから」


「顔を上げて下さい」


「.....そうですよ.....」


「.....ですが.....」


鳴さんは何も言えない様な感じで複雑な顔を浮かべている。

俺はその姿を見ながら、過去の事は洗い流せないです、と呟く。

それからビクッとする鳴さんを見る。

だけど、と言いながら。


「.....今から未来に愛情を注いでくれればそれで良いです」


「.....!」


「.....それだけが俺達の最大の望みです」


「.....貴方は本当に素敵な人ね。花奏君」


「.....素敵ってか.....何もしてないですよ」


言いながら俺はアイスコーヒーを飲む。

そして美香と顔を見合わせる。

鳴さんは顔を上げてから、キチンと未来に愛情は注ぎます、と答えてくれた。

それから、私は過去の事を反省して生きます、とも言ってくれる。


「それで.....花奏君。美香さん」


「.....はい?」


「.....何かお困りごとでもありますか。相談に乗れれば乗ります」


「.....?」


「私は相談援助に関する免許も.....一応は大学の教師として取得しているので.....何だかその。深刻そうな顔に見えましたので」


「.....!」


俺達は顔を見合わせる。

それから柔和に、じゃあ、と切り出す。

そして霧島の事を相談した。

どう接したら良いか、という感じで、だ。

すると鳴さんは顎に手を添えた。


「.....そうなのですね」


「.....はい」


「.....私から言える事は.....やはりこうあるべきかな、と思います。私みたいな人が何を言っているんだって感じですが。.....時間を有効活用して過去と向き合ってみる、って事です」


「.....!」


「.....過去を精算は決して出来ません。.....ですが.....精算出来ませんが過去に重点を置いて同時に霧島さんと向き合ってみては如何でしょうか」


「.....」


それは昔から福祉では言われている事です、と言う未来の母親。

流石は未来ママだな。

その様な感じの見方が出来なかった。

美香は、ですね、と納得している。

それから俺はアドレスを見せた。


「もし良かったらアドレス交換しませんか」


「.....!.....ええ。良いですよ。貴方が.....その。宜しければ」


「私もアドレスを交換して下さい!」


「.....分かりました。美香さん」


こうして俺達はひょんな事から頼れる大人を見つけた。

それから.....俺達は霧島の事を考える。

どうあるべきか、を。

そして前を見据えてみる。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る