第4章 揺らぐ心

何も言えない姿

第20話 花奏と美香をイジメたイジメっ子と

鳴さんのやった事は全然許されない。

しかし.....その彼女の過去を見た時。

俺は.....多少でも許してやっても良いんじゃ無いかって思った。

そんな事を思いながら俺は未来と歩く。


因みに話し合った結果。

未来は家に帰る事になった。

それだけで前進であろうと思う。


それは.....本当に.....良かったと思える。

鳴さんは仕事に戻り。

そして国広さんは帰宅した。


「.....これも全て花奏ちゃんのお陰だね」


「もう一度言うけど俺は何もしてない。全てお前が導いたんだ」


「.....でもきっかけをくれたのは君だよ」


未来は言いながら笑みを浮かべる。

そして周りにある化石とかを見ていく。

俺はその姿を見ながら、そうか、と返事をした。

すると未来は、ねえ。花奏ちゃん。ちょっとしゃがんで、と言ってくる。

どうしたんだ?、と思いながら俺はしゃがむ。


「今は人が居ないよね」


「ああ。そうだ.....」


「.....」


「!?」


次の瞬間。

未来の唇が俺の頬に当たっていた。

つまりキスをされている。

俺は!!!!?と思いながら未来を見る。

未来は赤面しながら、エヘヘ、と言う。


「.....か、花奏ちゃんの頬って柔らかいね」


「ばっ?!お前!?」


「今のはお礼だよ。.....これしか出来ないしね。.....言っておくけどファーストキスだよ」


「.....お前な.....」


俺は真っ赤に赤面しながら頬を触る。

ヤバいんですけど。

何というか美香にキスをされた時もそうだが。


一体何故に女の子ってこんな良い香りなんだ.....?

思いながら俺は赤くなる。

すると未来は真剣な顔になった。


「例えば花奏ちゃんが私を選ばなくてもね」


「.....ああ」


「.....今、私はとても幸せだから。.....有難う」


「.....」


そしてあろう事か。

未来はノイズキャンセリングイヤホンを取った。

それは人が増えてきたにも関わらず、だ。

俺は!?と思いながら未来を見る。

青ざめていたが。


だがそれでも耐えながらイヤホンを仕舞った。

それから俺に手を差し伸べてくる。

私はもう大丈夫、と言いながら。

そして笑顔になった。


「.....花奏ちゃんが私を選んでくれる事を願っています」


「.....未来.....」


「.....でも無理はしないでね。.....花奏ちゃんの未来は花奏ちゃんのものだから」


「有難うな。.....未来」


「うん」


そして俺達は手を繋いだ。

次のコーナーは.....博物館のメインだな。

大きな模型のあるコーナーだ。


思いながら歩いていると。

目の前のガラスに背後が映ったのだが。

そこに何故か.....サングラス姿の恋と美香が居る様に見えた。


「.....!?」


「あ」


「.....あれま」


「.....何やってんだお前ら!?」


未来は?を浮かべて背後を見てから。

驚いた顔になる。

俺は美香と恋を見る。

美香と恋は顔を見合わせて、バレちゃいましたね、と言ってくる。


「まさかずっと観察していたのか!?」


「いや。途中からです。こっちに用事があったので」


「そうだね。私は用事が終わったからそれで恋を拾ったって訳」


「.....あのな.....お前ら。俺達は見せもんじゃねぇ」


「.....でもイチャイチャラブラブじゃん?」


「揶揄うなよ」


いや?揶揄ってないよ。

良い感じだなって思ったの、と言ってくる美香。

そして恋は、ですねぇ、とほんわかした。

俺達は顔を見合わせる。

それからクスクスと笑った。


「.....一緒に行くか」


「.....そうだね。バレちゃったし」


「迷惑じゃなかったら」


「.....まあ良いよな。未来」


「そうだね。花奏ちゃん。途中からデートじゃなくなってるし」


それから俺達は4人であちこちを巡る事にした。

そして何があったかを説明する。

美香も恋も驚いた様な感じだった。

俺達は頷き合いながら見る。



「楽しかった」


「.....ですね」


「そうだね。おーちゃん」


「全く。これじゃデートにならない」


「良いじゃない。花奏ちゃん」


空はオレンジ色に染まってきていた。

俺達は顔を見合わせる。

それから、どうする?こっから、と言う。

すると、そうだねぇ、とニコニコし始めるみんな。


「取り敢えずは家に帰ろうか。皆さん」


「そうだな。まあ夕暮れだしな」


「ですね」


「それは良いと思う」


じゃあ楽しかった、という事で。

という事で帰宅を開始した。

それから家に帰る途中で.....奏多から電話が掛かってくる。

かなり深刻な様子で、だ。

お兄ちゃん。霧島って覚えている?、と。



電話を切って慌てて家に帰ると。

霧島美鶴が確かにそこに居た。

だがもうギャルで.....いじめっ子だったその面影は何処にも無い。

そこに居たのは眼鏡を掛けてそして俺を恐怖の目で見てくる霧島だった。

俺をイジメていた面影は全然無い。


「.....奏多。一体何故コイツをこの家に上げた」


「.....話を聞いてみたくて。.....お兄ちゃんが激しいイジメを受けていた時の事を。それに何だか雰囲気が全然雄々しく無いから」


「.....花奏ちゃん。まさかと思うけど」


「.....そうだな。俺が小学校時代にかなり激しいイジメに遭った時の主犯格だ」


荷物を取りに来た未来もそれなりに軽蔑する眼差しで霧島を見る。

霧島美鶴とは.....俺を水の入ったトイレ用のバケツに顔を突っ込ませ。

嘲笑っていた様な.....そんなゴミクズだ。

小学校時代はPTSDに近い思い出しか無い。

美香の事も.....イジメていたのだが。


「.....許せない」


「.....未来.....」


「花奏ちゃんを。美香ちゃんを。好きな人を、大切な人をそんな目に遭わせた人なんでしょ。絶対に許せない」


未来は静かに怒りを覚えている。

俺はその姿を見ながら取り締まりを受けている様な。

尋問を受けている様な霧島を見る。


緑色のジャージを上と下に着ており。

ボサボサの髪に黒縁眼鏡を掛けているが.....何なんだコイツ。

茶髪は何処行った。

性格もこんな弱い感じだったか?


「.....霧島」


「.....はい」


「.....お前本当に霧島か。.....何でそんなボロボロな感じになっている」


「.....私.....だけど。.....もう余命が無いの」


「.....は?」


霧島は俺を見てくる。

申し訳無さそうな顔で、だ。

それから涙を浮かべた。


私は.....小児癌のメラノーマになっています。

脳腫瘍が酷くて開頭手術を受けました。

時間が無いんです、と。


「.....は?冗談でしょ。お兄ちゃんをあれだけボコボコにしていて?元気いっぱいだったじゃない」


「.....本当です」


「.....」


「.....傷もあります。.....胸にも傷があります。.....手術を3回しました。末期癌です」


「.....いや。だから何しに来たの?」


「今までの事を許しを乞うために来た訳じゃ無いです。.....ただ反省も兼ねて一度だけでもと謝りに来たんです。.....御免なさい。貴方をイジメて御免なさい」


未来は、貴方.....、と唇を噛んで怒った様な顔をする。

俺はそれを抑えながら、霧島。今の話は本当か、と切り出す。

すると霧島はウィッグを外した。

どうも髪の毛は地毛じゃなかった様だ。

坊主頭に酷い傷跡。


「.....末期癌は嘘じゃ無いんだな」


「.....貴方がイジメを受けていてどういう感情になったか。ようやっとわかりました」


「今更ってか?それでも許せないんだけど。何?弱者になったから許せってか?」


苛立っている奏多。

俺はその姿を見ながら目線を霧島に戻す。

正直言って許せないのは俺もだ。


コイツがやった1年は。

戻らないのだ。

6年生の1年間は、だ。


美香に水をかけたり。

俺を馬鹿にしたり。

美香のクラスメイトを欺いたり。

教師すら欺いたのだ。

悍ましいし許される行動では無い。


「御免なさい。.....御免なさい」


「.....」


ただそう言いながら涙を浮かべる霧島。

また新たな問題が起こりつつあるのか?

俺はそんな気分で.....霧島を見ていた。

まるで文学少女の様な.....全く覇気の無くなった霧島を。

そして盛大に溜息を吐いた。

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