第16話 バレーボール部の裏の顔(下)
「美香。作戦は覚えているか」
「.....うん。先輩を呼び出すんだよね」
「そうだな。鈴木に呼び出してもらう。そこで俺と麻里子先生と国広さんでその様子を伺う。そして未来と恋がその様子を録音するんだ。平然を装うから」
「.....上手くいくかな」
「それは大丈夫です。私も未来先輩も上手くやりますので」
昼休み。
恋が笑みを浮かべて美香を見る。
頼りになる後輩だな、と思う。
そんな会話をしながら。
先輩を呼び出す為に俺達は木陰に身を潜める。
それから先輩がやって来た。
と同時に。
何故かしらないがアイツ。
つまり豚の顧問がやって来た。
気持ちが悪いな.....アイツ。
女子を見下している。
「.....良いか。作戦決行だ」
「はい」
「だね」
そして録音し始めた。
すると大和。
つまり山田大和という先輩の男が喋り始めた。
何だお前は、と。
お前が鈴木に頼んで呼び出したのか、とも。
「先輩。意地悪を止めて下さい。私はそんなの望んで無いです」
「.....お前は何を言っている?俺がそんな意地悪な真似をするとでも?」
「はい。私は.....意地悪を受けています」
鈴木がやって来た。
かなりの怒り混じりにマジな目で観察している。
俺達は様子を伺いながら計画を進めていた。
そうしていると、まあまぁ、と豚が喋り出す。
君は良い感じの成績だ。
そんな事はないと思うんだけどねぇ、と。
エロい目付きで美香を見ている。
吐き気がするな.....くそう。
「大和もそうだが.....君には期待しているんだよぉ?」
「私は.....もう辞めたいです。この為にバレー部に入った訳じゃ無いです。悲しいです」
「辞めたいって.....そんな事を言わないでおくれ?」
「第一.....その。私は.....バレーボールを真剣に打ちたいから入った訳で.....先生の.....そんな変な指導を受けるつもりは無いです」
「ふーむ。.....大和。これは分からせる必要があるねぇ」
そこまで言ってから。
まるで洗脳したかの様に大和の背中を押す。
そして拳が美香に迫る。
俺は愕然としながら、ま、待て!、と言おうとしたら。
その前に麻里子先生が飛び出した。
「な、何だ!?」
豚が驚く。
すると麻里子先生は激昂した様に睨んだ。
これまで見た事の無い様な視線だ。
俺達は見合わせる。
そして観察する。
「川原先生。偶然通り掛かったのですが.....今のは教師としてあるまじき姿ですね」
「.....何がだい?麻里子先生。僕はあくまで大和の背中を押しただけだよぉ?」
「.....川原先生。.....一つ良いですか。貴方がもしかしてバレー部の人間を自分の欲望のままに支配していませんよね?」
「.....何を根拠に言っている」
「.....根拠ですか。.....それは貴方からセクハラを受けたと女子生徒が何人も申し出ています。男性部員は、洗脳された、と話していますので」
「そんな些細な生徒の言葉を信じるのですか?私達教師が正しいのに?」
馬鹿かテメェは!それでも教師か!!!!!生徒を蔑ろにして神聖な職業を汚しやがって!!!!!、とブチキレた麻里子先生。
圧巻された俺達。
それから落ち着いて、今までの音声は実はそこに何気無く通り掛かった様にしている生徒も録音しましたから、と告白する。
俺達も立ち上がってみる。
「この音声は学校の放送室からBluetoothを通じて全校生徒に試聴して聴いてもらっています」
「.....は?は.....そ、そんな馬鹿な.....!?」
「.....私が指示したんで。もう言い逃れ出来ませんよ。生徒の証言も全部纏めて教育機関。第三者委員会など校長各位に伝えます。掲示板。つまり学校新聞にも記載しましたので」
「貴様!!!!!このアバズレが!!!!!」
豚が鬼の形相で両手を構えて麻里子先生に走る。
だがその手を麻里子先生が仕留めた。
そして、グァ!手がぁ!、と痛がる豚。
麻里子先生は、テメェの様な卑怯者の教師はこの学校に.....それも全国の教師としても要らない。出て行け!!!!!、と絶叫する。
「何なんだ貴様ら!そんな事をしてタダで済むと思うな!僕はこの学校の理事長の.....」
「すいませんがその理事長さんは貴方を見放しましたよ。.....何なら音声を録音していますが聞きますか」
「.....グゥ.....!!!!!」
そして黙り込む豚。
それから美香は泣きながら俺に縋って来た。
有難う.....有難う。花奏、と言いながら、である。
そして俺はその頭をみんなで撫でる。
学校の窓からは、最低だな!豚先生!、とか聞こえた。
「何故こんな事をしたのか知りませんが。.....貴方に教師の資格は無い」
「.....」
豚は一瞬だけ麻里子先生を睨み。
そして観念した様に俯いた。
俺はその姿を見ながら大和を見る。
先輩は俯いて、俺が悪かったのか?、と呟いていた。
「.....先輩」
「加瀬馬.....俺は.....お前になんて事を.....」
「.....貴方のやった事は許される事じゃ無いです。.....でも正直言って.....何も言えない立場です。.....みんな洗脳されていたんですから」
「.....お前が好きだったんだ。.....それで漬け込まれたんだ。.....川原先生に」
「.....そうなのですね.....」
だが今気が付いた。
俺は何をしていたのか、と。
それから涙を浮かべ始める先輩。
俺達は顔を見合わせながらその光景を見ていた。
そして豚だが。
そのまま生徒への。未成年への強制わいせつなどで警察に捕まった。
それから豚は消えてから。
麻里子先生の部屋に戻って国広さんが頭を下げてきた。
「すまなかった」
「.....何がですか?」
「この学校の不正を見抜けなかった。.....これは私も悪い。OBとしてこんなに大きな不正を見抜けなかった」
「.....顔を上げて。お父さん。.....大丈夫だよ」
そして俺達は頷き合う。
みんな国広さんに、大丈夫です、と言う。
それから麻里子先生を見る。
麻里子先生は、あースッキリした、とか言っていた。
そうしてから満面の笑顔を浮かべる。
「今日は記念すべき日だな!よし!酒でも飲むか!」
「馬鹿なんじゃないですか。それこそあの豚と同じ様になりますよ」
「そうだな。それは冗談だが。.....君達も有難うな。鈴木。そして千草。加瀬馬。大塚と矢澤」
「.....いえ」
「何もして無いですよね。花奏さん」
「だな」
ただこんなに事がデカくなるとは思ってなかった。
それだけの話だ。
俺は思いながら美香を見る。
すると美香は一歩を踏み出してくる。
有難う花奏、と言いながら。
「.....録音してBluetoothで全校放送で流しただけだろ。.....しかし引き付けるだけとは言えお前も頑張ったな。美香」
「.....でもね。私は.....嬉しかった。凄く」
「.....」
「.....だからこれはお礼だね」
そして頬に赤くなりながらキスをしてくる。
俺は数秒考えて。
ホァ!?、と絶句した。
周りも固まっている。
特に麻里子先生が、ほほう?生徒指導室の教師の前で.....良い度胸じゃないか、と竹刀を片手に持ってから立ち上がる。
今のは許せない、と言いながら未来は頬を膨らませる。
恋も、花奏さんの馬鹿、と言いながら横を見る。
「美香!お前のせいで何だか全てが狂ってんぞ!」
「エヘ。えへへ」
「おい!聞いてんのかお前は!?」
俺は逃げながらそのまま話を聞く。
本当に楽しい日常だった。
しかし.....こんなに大きくなった問題を解決出来るとはな。
と思ってしまう。
まだ現実じゃ無い様だ。
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