第13話 父親への説得

「「「あー!怖かった!」」」


未来を化け物って言うか。

モンスターペアレントから奪い返してこのリビングに未来、恋、奏多が再び集まりながら話し合う。

俺は心臓がバクバクでマジに高鳴りすぎて血管が破裂しそうな感じだ。

でも、アハハ、と何だか笑いが止まらない。


人っておかしいよな。

追い詰められれば追い詰められる程に笑顔になるし。

そのせいでみんな笑っているし。

俺は周りを見て考える。


でもな割とマジに怖かった。

俺は仮にも対人が少し怖いボッチだし。

あんなモンスターペアレント相手とかそれ相応に膝がガクガクだしな。


本当に恐怖極まりない。

マジに小便漏らすかと思ったしな。

膀胱が狂った。


「でもでも本当に怖かったね。お兄ちゃん」


「そうだな」


その様に会話しながら俺達は未来を見る。

未来は必死に涙を拭ってそしてまた拭きながら泣いていた。

何で私の為に、と言いながら。

そこまでしてくれるの、と言いながら。

俺は立ち上がってから未来の頭に手を添える。


「未来。もう泣くな。ただ単に大切なお前を奪い返しただけだから」


「でも花奏ちゃん.....許嫁って.....!お母さんの怒りを買う.....!」


「大丈夫、大丈夫だ」


俺は言うなり未来を抱きしめた。

それから俺は恋と奏多を見る。


「恋。これで良いかな。御免な」


「.....はい。花奏さん。花奏さんのやりたい様にやって下さい。それが.....私の切なる願いです」


「.....」


俺は恋を見ながら複雑な顔をする。

そう俺は.....許嫁にすると言ってしまったのだ。

これは.....どうしたものか、と思う。

すると恋が立ち上がった。

それから俺を見てくる。


「花奏さん。別れましょう」


「.....え.....!?」


「.....え!?」


恋の言葉に。

奏多も未来も俺も衝撃を受ける。

だけど恋は、でもそれは嫌いになったから、じゃ無いです、と切り出してくる。

そして俺を柔和に見てくる。

私は.....花奏さんが想う心を大切にしたいです、と言ってきた。


「花奏さんの意志を尊重したい。だから別れましょう、と切り出しました」


「つまりお前は.....俺の為に?」


「そういう事です。私達が付き合っていては未来さんを取り返した意味が無いです」


「.....お前.....」


最高の彼女だな本当に。

俺は考えながら恋を見る。

そして俺は恋の手を握った。

恋は俺に対して笑みを浮かべる。


「.....彼氏彼女じゃなくなっても私達は私達ですよ」


「そうだな会えなくなる訳じゃ無いからな」


「だから私の愛は変わりません。愛しています」


「.....分かった」


こうして.....俺は恋と別れた。

それは恋が嫌いになったとか。

俺が嫌いになったとかそんなんじゃない。

全ての調和の為に別れる事にしたのだ。

本当に感謝しか無いよな。


「.....本当に良いの。恋ちゃん」


「私は全てを決意しました。でもその中で貴方を守りたいと思っていますので」


「.....」


こんなはっきりとした良い彼女は他には居ない。

俺は考えながら未来と恋を見る。

未来と恋は抱き合った。

それから握手をし合ってから見つめ合う。


「.....未来先輩。頑張っていきましょうね」


「.....そうだね。有難うね。恋ちゃん」


そして未来と恋は笑みを浮かべ合う。

俺と奏多は未来達を見ていると。

こっちに未来がやって来た。

そしてニコニコしてくる。


「花奏ちゃん」


「.....何だ?」


「.....私を許嫁にしてくれて有難う」


「.....当たり前の事だ。.....だけどその恥ずかしいな」


「私は.....」


涙を浮かべながら号泣し始める未来。

そして俯いて涙を零した。

俺達はその姿に抱き合ってから。

そのまま涙を浮かべる。


「それから。私はずっとみんなと一緒に居たかった。怖かった。だから.....本当に本当に本当に感謝しかない.....」


「ああ。ここまで来たからには一緒に幸せに暮らすぞ。これからは言葉の暴力も無い。大丈夫だからな。頑張るぞ」


思ったけど。

何だか未来の精神が少しだけ幼く感じる気がする。

これはきっと大塚さんのせいだろうとは思う。

思いながらそのまま未来を強く抱きしめる。

すると奏多が切り出した。


「此処からが一歩だね。.....お兄ちゃん」


「そうだな。奏多」


「私も絶対に協力します」


「有難うな。恋」


しかしこうなると.....最後に引っ掛かる点。

何というか親の許可だ。

全ての言い出しっぺは俺だけど。


何というか親父を説得するのは難しいだろうな本当に。

クソガキの身分でこんな事を言い出して実行して何やってんだって感じだろう。

その事を思いながら、本当の戦いはこれからか、と思う。

そして俺は考える。


あの寡黙で厳しい親父がこんな横暴を許すのだろうか。

だけどそれでも俺は必死に伝えたいと思っている。

未来は.....大切な一人だと。

俺達の大切な仲間だと、だ。

大切な許嫁だと。


「今日はパーティーでもすっか」


「え?花奏ちゃん。.....その。勉強は.....?」


「そんなもん。お前を奪い返した時に比べれば今はどうでも良いだろ。赤点取ろうが人生は繰り返せば良い。やり直しはきくんだ。だけどお前との関係はやり直しがきかない。それは間違い無いからな.....」


「.....あはは.....あはは.....花奏ちゃんも.....馬鹿だね.....でも有難う」


未来はまた泣き出した。

だけど今度は違う。

それは嬉し泣きの様だった。

俺はその姿を見てから恋を見てから。

奏多を見てつつ柔和に笑みを浮かべた。



「あのさ親父。話が有るんだが」


恋が帰ってから。

夜になって夕方帰って来た母さんと共に。

俺は新聞を読んでいる目の前の親父に声を掛けてみる。


親父は、何だ、とだけ返事をする。

リビングで寡黙な感じで居る親父に奏多と共に頷きながらゴクリと喉を鳴らしてそのまま言葉を発した。

その、と言いながら俺は親父を見据える。


「その。未来。.....大塚未来さんを覚えているか」


「ああ。.....知っているが。その子がどうしたんだ」


「その子とこの家で一晩だけとか泊まるんじゃ無くて暫く一緒に暮らしたいんだがその。許可が欲しいんだが.....」


流石にその言葉はかなりの衝撃なのか新聞を読む手が止まる、親父。

それから顔を上げて俺達をその目で見る。

そのタイミングでリビングのドアが開いてから未来が顔を見せた。

先ほどまで俺の部屋に居た未来だ。

親父は『.....』と言う感じで無言で俺と未来を新聞を畳みながら見る。


俺達はその住むという事を証明する為にバッグというか荷物を持っていた。

それから未来と頷きながら親父を真っ直ぐに見る。

因みに信じられないかも知れないがこの荷物は.....未来の父親が持って来た。

そして俺を真っ直ぐに見てきた。


『未来を.....今だけお願いします』


とその一言だけ言ってからそのまま去った。

まるでツンデレの様な反応だったが未来へ渡した鞄の中にはちゃんとした生活用品が詰まっており服も綺麗に有った。

何というか全て用意されていたのだ。

つまりまあ未来の事を仮にも心配していたんだろう。


未来の親父もそうだな。

俺と美香の事は妬んでいた、だけど.....未来の母親を見ている間に考えが変わったんだと思える。

その為にこの道具と服を持って来てくれたのだろう。

そんな事を思いながら親父を真剣な顔で見る。


「年頃の男と女が一緒に暮らすなんてそんな事が出来る訳無いだろう。お前は何を言っている。花奏。子供のわがままにしてはやり過ぎだ」


その事に関して母さんが真剣な顔で口を開いた。

俺達は既にだが母さんの許可は得ている。

事情を知ってもらっている。

母さんは必死に話した。

花奏も奏多も未来ちゃんも真剣なの、と。


「花道さん.....お願い。未来さんはかなり追い詰められているみたいなの。それでうちで保護したいの。これまでの事を考えて.....」


「お前まで何を言っている。薫」


「お父さん!お願い.....お願いなの!」


「奏多。お前まで」


これでは駄目か。

揺れ動いている様な感じには見えるが、と思いながら俺はその場で膝を折った。

そして.....力強く土下座をする。

もう残されていると言えばこれしか無い。


床に土下座しながら俺は気にせず頭を床にダァンと音を立てて付ける。

額から血が出ているがそんな事は今はどうでも良い。

親父が、おい.....、と言う中、考えている言葉を発した。

それは全ての願いを込めて。


「親父。俺としては本当にガキのわがままな無理極まりない願いだって分かっている。だけど未来は耳にも心にも障害が有る。その中でストレスを受け続けているんだ。このままだと未来が未来の母親に言葉の暴力で殺されるかも知れないんだ。.....一時的で良い。俺は.....親父の許可が欲しい。頼む親父!お願いだ.....!」


その何つうか、ゴリ押しだろうが何だろうが俺は。

俺は未来が。

ただ守りたいんだ!

思いながら地面に頭を叩き付けたまま、お願いします!、と思いっきり叫んだ。

未来が涙声で複雑な様な声を発した。


「.....花奏.....ちゃん.....」


「お兄ちゃん.....」


そして1分ぐらい経ってから親父を見る。

親父は溜息混じりに新聞をチラ見してからリビングを後にしようと立ち上がる。

どうやら.....駄目な様だ。


トイレにでも行くつもりだろう。

ダメか、と思いながら俺は溜息を吐いた、その時。

あの寡黙な親父がドアノブを引いて立ち止まり口を開いた。

そして言ってくる。


「花奏。俺としては年頃の女の子と男が同じ家の下で暮らすのはお互いの配慮の点で申し訳無いが反対だ。だが俺としては.....お前の必死の心が響いた。何か大切な事を俺は忘れている。一生懸命にやっているお前の姿も心に響いた」


親父はその言葉を発してから柔和な顔をした。

信じられない。

それも頑固なあの親父が、だ。

そんな顔をする様な親父では無い。

俺は驚愕しつつそして出血する頭を拭ながら親父を見る。


「.....じゃあ.....」


「そうだ。.....それなりに事情が有る様だな。一時的なら許可をしよう。それなりにお互いに弁えるなら。息子のお前の頼みだからな」


親父が信じられない事に笑みを浮かべた。

何だか知らないがその言葉に涙が出て来てしまう。

すると奏多が思いっきり抱き付いた。

親父に、である。

まさかの行動に親父も驚く。


「おっと.....奏多.....お前」


「お父さん!大好きだよ!そういう所が!」


満面の笑顔で抱き付いている。

俺はその様子に苦笑した。

そうしている中で未来が親父に、有難う御座います。おじさま、と思いっきり頭を下げ、そして涙を拭う。

それから俺を見てくる。


その姿を確認しながら。

出血する額を抑えながらああ良かったと思っていると母さんが寄って来た。

そして優しくティッシュで俺の額の血を拭う。

それから苦笑いをした。


「こんなに出血する程、頭を床に叩き付けたら駄目でしょう」


「.....でも.....」


「大丈夫よ。花道さんは優しいから。私が大好きになった大切な人だからそんなに頭を打つけ無くても大丈夫よ。.....高校の同級生として手を繋いで分かり合った頃からね」


クスクス笑いながら、懐かしいわぁ、と頬を朱に染めながら頬に手を添える。

真っ赤というか赤くなっていた。

俺は目をパチクリしてドアの側に居る親父を見る。

親父は赤面して咳払いをしている。


「薫。その話を今この場でするな。恥ずかしいでは無いか。いきなり出すとは卑怯だ」


「あはははは!」


「あはは」


俺達は爆笑する。

この家族は本当に.....俺の自慢の家族だと思う。

こんな家族は他には無いと思う。

そしてこんな幸せも、だ。


この家庭に生まれて俺は本当に幸せ者だな、と思う。

思いながら。

心配していると思う美香にも伝えておこう。


その様に思いながら笑みを浮かべた。

未来も本当に久々だろう。

笑顔で楽しそうに笑っていた。


そして赤面で俺を見てくる。

俺は?を浮かべて.....確認するが。

目線を逸らされる。

つまり恥ずかしいという事だろう。


そしてその日以降。

正式に未来はうちで同居する事になった。

それから俺は柔和になる。


言い忘れていたが、俺は恋と別れた。

そして未来と付き合う可能性があるとも伝える。

全て詳しく説明した。

その事に対して親父も母親も納得した様に頷いている。

流石に許嫁は無理があるので話さなかった。

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