そんな事なら俺は未来を許嫁にする。ガキの妄想でも
第12話 未来を許嫁にする
ピンポーンとインターフォンが鳴った。
俺達は身構える様にその音を聞く。
そして眉を顰めた。
それから.....俺は呟いてみる。
「.....来たか.....」
インターフォンを恐る恐るのぞく。
そこには律儀にスーツを着込んだメガネを掛けている未来の母親が立っている。
整われた髪型にかなり厳つい目。
そして凛とした顔。
背後にそれなりに高級な感じに見える黒い車が見えた。
俺は少しだけ唾を飲み込む。
スタイルの良い.....変わらない様子。
相手に全く引けを取らない眼光の威圧。
全く変わらないな、と思いながらも俺達もキチンと服装を整えてからそのまま玄関を開けてみる。
そして目の前の女性を顔を上げて見つめる。
彼女から目を逸らさない様に。
「大塚さん」
確か過去に聞いた噂によるが.....大塚鳴(おおつかめい)さんは大学教授。
それも有名な教師と聞いた事が有る。
その大塚さんは不愉快そうに眉を顰めながら俺と奏多と恋を各それぞれに見てくる。
そしてその眉を顰めたまま言葉を発した。
鋭い眼光で。
「未来は此処ですね?.....連れて帰りますので。あなた方にもお話がありますがひとまずは未来を帰して下さい」
「.....」
「答えなさい」
まさに火蓋が切られた。
戦いが始まった感じがする。
俺は繰り返す言葉にそのまま息を吸い込んだ。
そしてそのまま進言しようとしたがその前に恋が割ってから言い出した。
あの、とおずおず手を上げて言いながら、だ。
「その。本当に子供のわがままかも知れません。でも.....私。.....未来先輩を連れて行ってほしくないです」
「初めましてかしら。.....貴方どちら様?それから何を言っているのかしら?そんな馬鹿な事が出来る訳ないでしょう」
「私は未来先輩と花奏さんの知り合いです。未来先輩は心から嫌がっています。なのに無理矢理、親の元に連れて行くのはおかしいと思いませんか」
「貴方が何処のどちら様か分かりませんが未来は約束を破りました。それは事実。今から直ぐに連れて帰って学校の事を話し合います」
それはつまり.....まさか。
すると恋が、いや、だから!、と恋はもどかしい声を出す。
乗り出したその身体を俺は手で止めた。
そして膝を震えさせながらも意を決して顔を上げて言葉を発する。
膝をバシッと叩いた。
こんな俺が進言して良い訳が無いとは思う。
だけどみんなが頑張っている。
それを見過ごす程にクズじゃ無い。
なりたくないのだ。
って言うか俺は男なのだから。
「お久しぶりです。大塚さん。その。未来は本当に貴方の元へ帰るのを嫌がっています。何か他の方法は無いのでしょうか。連れて帰るのは良いですが罰を与えないとか.....その」
「私達家族の人生を狂わせたのは貴方と美香さんですよね。そんな貴方に何かを言う権利が有りますか?これは家族の問題ですので。口を出さないで頂ければ」
「.....それは違います」
「何が違わないと言うのか教えて欲しいのですが。.....まあ良いです。.....とにかく今直ぐに未来を連れて来て下さい。尻を叩いてでも連れて帰りますので」
無茶苦茶でしかも無理矢理。
それで出しなさいと言われて出せる訳が無いじゃないか。
お茶でも出してそれなりに説得してみようか、と冷やかしの冗談半分で思って汗を流して考えながら居ると背後から未来の声がした。
もう良いよ、と。
「有難う。.....花奏ちゃん」
「.....未来.....!」
「私、帰るよ。これ以上、花奏ちゃん、恋ちゃん、奏多ちゃんに迷惑は掛けられないからね.....此処に来たのは私が決めた事だしね。エヘヘ」
「馬鹿野郎.....お前、このまま帰ったら.....多分.....!!!!!」
恐らくは未来とこのまま二度と会えなくなると。
そんな.....そんな気がした。
それは絶対に駄目だ.....ってか嫌だ!
俺は心の中で絶叫する。
美香も嫌って言うに決まっている。
思いながら歯を食いしばりつつ未来を見る。
未来は次々に歩を進める。
そして涙を浮かべながら俺を見てきた。
恋と奏多も見る。
「短い間だったけど楽しかったよ。花奏ちゃん。奏多ちゃん。恋ちゃん。美香ちゃんに宜しくね」
「駄目です未来さん!」
「恋ちゃん。花奏ちゃんを宜しく」
涙を拭ながら未来は歩みを進める。
これで良いのか?いや。
これで.....どうすれば.....良いんだ.....!?
恐らく未来の両親は直ぐにこの街から離れる。
高校も退学だろう。
今度こそマジに未来に会えなくなる可能性が有る。
これがラストチャンスだと思うし。
会わせてくれなくなるだろう。
俺は必死に考える。
「早く行くわよ未来。15時から飛行機。この街から引っ越しますから」
「.....はい。お母様」
「未来さん!」
「未来さん!!!!!」
泣き叫ぶ恋と奏多。
マジに離れる気の様だ。
駄目だ考えろ花奏。
千草!!!!!
俺に出来る最善の手は何だ?
今この場で出来る筈のその最善の手だよ。
それが有る筈だ。
なのに何も!!!!!
このまま.....未来を行かせたら未来が未来で無くなるかも知れない。
それは絶対に嫌で.....嫌だ!!!!!
すると。
助けて
その様に心の声が聞こえた気がした。
と言うか未来の背中が言っている。
俺は顔を顰めて直ぐに大声を、言葉を発する。
先も考えてない様な、だ。
まるで計画性も無いクソの様な言葉。
ただのわがままなクソガキの言葉に聞こえるかも知れず。
しかも親に迷惑を掛けるかも知れない言葉だった。
そして何も考えてない!
だったらどうした!それでも良いじゃねぇか!!!!!
一度きりの人生だしな!!!!!
「俺と奏多と.....俺の家族が未来と一緒に暮らします。それならわざわざ連れ帰って罰とか与えなくて良いでしょう」
「.....は?」
「え?」
え?という感じで全員が固まる。
全員がまさか的な感じだった。
未来が俺に、え?、と言葉を発している。
逆に大塚さんは、はい?、と怒りの顔を見せる。
何を言ってんだコイツ的な顔をされた。
どの様に俺がこの女に叫んでも届かない。
ならもうこれしか手段が無い気がする。
だってそうだろ。
未来を取り戻せる言葉ってこれ以上に有るか?
無いに決まっている。
「俺は未来をこのまま帰したく無いです。このまま会えなくなるぐらいだったら俺が.....未来を守ります。許嫁にもします!!!!!」
恋が居るにも関わらず。
馬鹿な事を言ってしまった。
恋にショックを与えてしまったかもしれない。
だけど.....もうこれしか思い浮かばない!
俺は思いながら未来を見る。
未来は愕然としていた。
「あの.....すいませんが貴方は何をすっとぼけた事を言っているのか。子供がそんなわがままな事が出来る訳無いでしょう。流石に怒りますよ私も」
「すっとぼけてません」
そして未来の手を引いて。
そのまま俺はこっちに来させた。
そんな俺達の前に奏多と恋が立ち塞がる。
想像していた通り、大塚さんの顔が歪んでいく。
それは鬼神の如き。
鬼の形相だ。
「相変わらず本当に醜いわね。貴方達。そんな無茶苦茶で横暴な事が許される訳無いでしょう。未来を直ぐに引き渡しなさい」
「今は駄目です。大塚さん。貴方の教育は未来の成長には大きな影響を残しています。俺の影響もあるかもしれませんけど。だけど俺考えたんです。.....貴方も悪いんじゃないかって。大切な許嫁にそんな真似は許せないです」
「.....え.....っと.....え?.....花奏ちゃん?」
未来が赤面で涙を浮かべてそしてポロポロと涙を流す。
地面に滴が落ちる。
俺は.....未来を見てから.....口角を上げて大塚さんを見る。
そして真剣な顔をする俺。
「言葉の暴力で、暴力で未来を追い詰めるぐらいなら俺たちが引き取るんで。このままお引き取り下さい」
「.....この.....許嫁.....などと馬鹿な事を!!!!!」
許嫁は.....確かに馬鹿な言葉だよ。
だけどな。
そう思いながら歯をギリギリしながらそんな呟きをする大塚さんを見る。
本当に情緒不安定なんだろうな.....この人。
冷や汗を滲ませて思いながらもこれは譲る気は無かった。
何故なら許嫁だけじゃない。
未来は俺だけの存在じゃ無くなったから。
みんな未来を行かせたく.....無いと思っているから。
すると歯を食いしばっていた大塚さんはいきなり笑顔を見せた。
「分かりました。仕事の影響で時間が無いので今だけ任せて失礼します」
だがそう言った後、直ぐに顔が真っ黒くなった。
背中から黒いオーラが吹き出している。
俺達は人間にこんな事が出来るのかと思いながら冷や汗を流した。
殺人でも起こしそうな.....。
「覚えておいて下さい。.....勉強をする。つまり私達の勉学などの教育がいかに正しく大切かって事を。そして許嫁などそんな真似は出来ないという事を」
「.....」
それから踵を返して近所迷惑になるぐらいにバァンと音を鳴らして自動車のドアを閉めてそして悪態を吐く様にして去って行った。
俺は去って行くその姿を見送りながら未来を見る。
未来は周りを見渡して号泣していた。
そして俺に駆け寄って来る。
「.....何で.....みんな.....花奏ちゃんも!!!!!馬鹿なの!?許嫁って.....!」
「何もかもが許せなかったからな.....二度と会えなくなるという事も」
「.....」
此処まで大規模な事件になるとは思わなかったが。
未来は顔を破顔していたが少しして笑顔をようやっと浮かべる。
そして当面の間、ホームステイという事で未来は俺の家で預かろうと思った。
しかし良いけど言い出してなんだが本当にガキの醜態だ。
うちの親に許可を取らないといけない。
忙しくなりそうな気がするな.....。
それに。
「.....恋。御免な.....」
「大丈夫ですよ。花奏さん」
「.....一番に謝らなくちゃいけないのはお前だな。恋」
「.....大丈夫です。.....負けませんから。愛しているのは私もですから」
「.....」
恋は固い決意の様だ。
本当に恋には迷惑を掛けてばかりだ。
何とかしないとな、と思う。
それから俺は顎に手を添えてから。
そのまま俺達は肩を寄せ合う様にして室内に戻って行った。
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