第10話 矢澤恋と未来と

この.....何というか。

昔と送迎が全く同じであれば未来は両親の迎えを利用すると思うのだが。

今日はそうはいかない。


何せ俺が誘ったとは言え俺の家に来る事になったのだ。

その点は未来の両親に察されない様にしないといけない。

俺が提案したのだから。


そして万が一にバレた場合が.....。

どうするか、と考えていると未来が笑みを浮かべながら呟いた。

自然の景色を見ながら。


「花奏ちゃん。自然って良いよね。.....そう思わない?」


「ん?いきなりどうしたんだ?」


「私ね。自然がとても大好き。四季折々も次々に変わっていって。それって幸せに感じるよ私。たったそれだけでも本当に私にとっては世界が輝いて見える。嬉しい事なんだ」


「そんな事は当たり前の事すぎてロクに考えて無かったな。.....俺としてはな」


うん。じゃあだったら考えてみて自然の事。

宝石の様な幸せが目の前に常に有る幸せをね、と相変わらずのニコッとした柔和な笑みを浮かべる未来。

俺は少しだけ笑みを浮かべて、そうだな、と言いながら自然を見る。


当たり前すぎ、か。

そうして暫くして目の前を見てみる。

奏多が歩いているのに気が付いた。

俺は声を抑えながら呼ぶ。


「奏多!」


「え?あ。お兄ちゃん.....あれ!?もしかして未来さん!?」


「奏多ちゃん!.....久しぶりだね。ひさひさだねぇ」


「え。.....ほ、本当に未来さんですか?.....信じられないです。.....お久しぶりです!」


俺達が幼稚園高学年の時に奏多は当時4歳だったと思う。

だけどその中でも未来とは一緒にそれもめいいっぱいに遊んだ仲であった。

その為に覚えていた様だ。

奏多がゆっくりと涙目で未来の手を優しく握るのを見つつ思う。

そんな奏多は未来のしているノイズキャンセリングイヤホンに気が付いてハッとして複雑そうな顔で見つめた。


「.....その。やっぱり治ってないんですね。その耳.....聴覚過敏.....」


「.....耳は気にしないの。これは個性だからね。.....それよりも元気?奏多ちゃん」


「相変わらずですね。.....そんな優しげな心配も。本当に何も変わって無いですね」


「私はバリバリ元気だからね。耳以外は。アハハ」


拳を握り締めて胸を叩く。

奏多は、あはは、と控えめにその姿に笑みを浮かべる。

俺はその様子を見ながら未来を見る。

それから申し訳無いと思いながらも奏多に言った。


「奏多。すまないが荷物を持ってくれないか。俺の。御免な」


「え?あ、良いよ。.....どうしたの?」


「未来が少しだけ不安定な動きだから、支えが要るかと思ってな」


「.....あ、成る程ね。分かった。.....任せてちょうだい」


奏多は笑顔で頷く。

そしてそれを見てから俺は未来の手を握る。

そうしてから、未来に大丈夫か、と聞いてみるが。

未来から答えが無かった。


そんなに重症なのか?、と思い未来を見る。

かなり赤面していた。

こ、これはまさか、と思いながら赤面する。


「えと。は、恥ずかしいね。改めて手を握られると。何だか.....その」


「お、お前.....俺も恥ずかしいから赤くなるな。何でだよお前」


「い、いや。御免なさい」


奏多は?を浮かべている。

その姿に俺は首を振りながら周りに気を付けながら歩く。

トラックの音、車の音とかを。

そうしていると奏多が途中で言葉を発した。

そして聞いてくる。


「なんでお兄ちゃんと同じ学校に行ったんですか?未来さん」


「花奏ちゃんと美香ちゃんと同じ学校に行きたかったからね。絶対にって思って。だから一緒なの」


「でもその.....ご両親のご反対がかなり有ったんじゃ無いですか?」


「まあそうだね。でも私は絶対の絶対に花奏ちゃんと美香ちゃんには.....勿論、奏多ちゃんにも。絶対に、絶対に会いたかった。こっちに戻って来てからずっと。.....だって.....私の大切な幼馴染達だから。私は虐めを受けていたのもあったから」


そんな言葉に俺はビックリしながら未来を見てみる。

そんな未来は少しだけ苦笑していた。

本当に珍しい反応だ。

俺はその言葉に複雑な顔をする。

きっとそれも俺達の.....せいか。


「全部.....俺達のせいだな」


「授業中にヘッドフォンするなとか。その。私の事情を分かってもらえない教師に言われちゃったりしてね。だから悲しかったんだ。それで転学したって言う感じ。アハハ」


「それってかなり苦痛ですね.....」


奏多が未来に対して心配そうな顔をする。

未来のはヘッドフォンじゃ無いのに、と思いながら俺は悲しげに考える。

何も分かっちゃいないな。


教師だろうが.....。

眉を顰めて考えて思っていると俺の家に到着しそうだった。

と同時に奏多が明るい顔で未来に話す。

未来もニコッとする。


「えっと。.....未来さんは何で私達の家に来るんですか?」


「そうだね.....あ、主に勉強だよ。試験勉強。アハハ」


「あ、成る程です。未来さんは勉強。.....うーん。お兄ちゃん。未来さんにお手本じゃ無いけど勉強を真面目にしないといけないよ?」


「.....あ、はい.....」


奏多に、スマホゲームとかで遊ばない事、とビシッと指差されて忠告を受けた。

俺は、あ。はい、としか言えない。

確かにその、勉強しながら遊んじまうからな、と思った。

そして苦笑いを浮かべる。

もうね、と言いながら奏多が未来を見る。


「その。未来さん」


「何?奏多ちゃん?」


「お兄ちゃんのお馬鹿さんをきちんと見張ってて下さい。お願いします。本当に直ぐに遊びますから」


「.....おい.....奏多.....」


信頼度0なのか俺は。

ひっでぇ。

思いながら溜息を吐く。

それから頬を掻く。


そして帰宅した。

それから玄関ドアを開ける。

未来を案内しようとしていると未来が呟いた。

懐かしむ感じで。


「何も変わってない」


「俺達が3人で遊んだ頃と変わってないか?」


「うん。その。何だか嬉しくて涙が出て来る」


「.....いやお前.....そんな.....泣くなよ.....」


未来は思いっきり目尻に涙を浮かべた。

でもね、やっとここまで戻って来れたんだよ、と呟き未来は涙を流す。

そして嗚咽を漏らした。


駄目だ泣いちゃう、と言いながら手の甲で涙を拭う。

そして、嬉しい本当に。戻って来れた事が、と呟いた。

俺達も何だか知らないが複雑な顔になる。


「この元の場所に.....暖かい場所に.....帰りたかったんだ。私。.....10年ぶりなのに歓迎してくれて有難うね。花奏ちゃん。そして.....奏多ちゃん。美香ちゃんもそうだけどみんな歓迎してくれた」


「これからめいいっぱいに遊ぼう。お前の体力を考慮しながら、な」


「そうだね。.....お兄ちゃん」


勿論だが未来の両親にバレない範囲で、だ。

考えながら俺は靴を脱いでそして室内に入った。

今日は遊びだけじゃ無く試験勉強もしないといけない。


と言うかその。

何だか未来が居るだけで世界が違って見える。

未来自身が本当に.....明るいから、だ。

まるで宝石の様な向日葵だな。



「あ。そっちは別の計算式だよ。花奏ちゃん」


「.....お、おう」


「そっちは計算式が間違ってる


「お、おう、すまん」


母さんも父さんも今は居ない。

そんな家の中で未来の指摘が次々とありつつ。

俺は勉強を進めていく。

未来はそうだった。

相当に頭が良かったんだったな。


幼稚園でその。

お絵描きで優秀賞を受賞するぐらいだし。

それは今でも変わらない様だ。

その証拠に馬鹿な俺は半分しか計算式の説明について行けてないしな。


まあ問題としては俺の勉強不足なんですけど。

根本の全ての問題が、だ。

思いながらまたも額に手を添えて盛大に溜息を吐いた。

それから横に有るジュースを飲む。

そうしていると奏多が顔をノートから上げた。


「どう?お兄ちゃん。勉強は進んでる?」


「おう。バッチグーよ。ははは」


「本当に.....?」


「.....お、おう」


ジト目をしてくる奏多。

さっきから俺の扱いって信頼度が0に近い様な扱いですね。

と考えながらジュースの入ったコップを置いてからノートに計算式と計算法を書く。

すると未来が俺を頬杖をして見ているのに気が付いた。

俺は?を浮かべて見る。


「うん?どうしたんだ?未来」


「ね?付き合ってる後輩ちゃんってどんな子?可愛い?優しいのかな」


「ブッフォ!」


なん!?思いっきりジュースが吹き出た。

いきなりマジに何を聞いてくるのだコイツは。

相変わらずだが天然でグイグイだな!

思いながら俺は困惑しつつ頬を赤くしながら答える。

未来に対して失礼の無いように。


「まあその可愛い。とっても。良い子だと思う」


「へぇ!そうなんだ!うーん。ますます会ってみたいな。私。その後輩ちゃんとやらに」


「.....」


本当に誰でも仲良くなろうとするよな。

しかし会ってみたい.....か。

まあその今はいろいろ複雑.....というか。


後輩と美香と俺と。

重苦しい空気が有るとは言えないしな.....。

俺は誤魔化す様にジュースをまたそのまま苦笑しながら飲む。

そうしていると。


ピンポーン


インターフォンがいきなり鳴った。

俺は?を浮かべてインターフォンに出る。

インターフォン越しには何故か.....恋が立っていた。

俺は、は.....、と思いながら直ぐに玄関に向かう。


「宅配便?.....お兄ちゃん」


「.....違う。恋だな」


「.....え?恋さん?」


言いながらそのまま玄関を開ける。

そこには恋が、ヤッホー、という感じで手を思いっきり振りながら立っていた。

ニコニコしながら。

俺は驚愕しながら聞いてみる。


「お前さんどうしたんだ恋」


「はい。その。一緒に帰れなかった分、花奏さんと勉強したいと思いまして」


「.....へ?.....あ、ああ.....そうなのか.....」


そうしていると俺達の背後から、花奏ちゃん?何?、と未来がやって来た。

すると恋が。

見開いて指を震わせてから驚愕する。


それから、だ、誰ですか!?、的な感じになる。

恋は、もしや浮気ですか?最低です!、的な反応を見せた。

いやお前。


「待て待て!説明するから落ち着け!」


「花奏さん!見損ないましたよ!」


涙目になる恋。

マジに落ち着け近所迷惑だから、と考えながら恋に向く。

そして俺は背後に居る未来を紹介する様に前に出して俺の幼馴染の一人だ、とゆっくり説明した。

恋は目を丸くしてから唖然とする。


「花奏さんには幼馴染の方がまだいらっしゃったんですか?」


「.....ああ。でも恋。.....そんな警戒するな。未来は.....」


と言い掛けた所で未来が、あ、と声を発した。

もしかしてだけど花奏ちゃんの彼女さん?、と穏やかに笑みを浮かべる。

俺は頷きながら頬を掻いてから、そうだ.....な、と返事をする。

すると未来は笑顔に上乗せの笑顔になった。


「へー!?わー!すっごく可愛い彼女さんだね!.....初めまして。私は大塚未来です!宜しくです!」


まさかの行動に恋は気圧される様に目をパチクリした。

それから俺を見てくる。

どうなっているのか?的な反応だ。

俺は、そうだな、と思いながら回答する。


「こんな性格なんだ。コイツはな」


「そ、そうなんですね。.....あ、えっと.....大塚先輩はもしかして何か音楽を聴いてらっしゃる?」


「ああえっと。違う。彼女は耳に障害が有るんだ。それでノイズキャンセリングイヤホンってやつで音を抑えているんだわ」


「.....あ.....!?そ、そうなんですね.....大変失礼しました。.....大塚先輩」


恋が謝ってから意を決した様に一歩を踏み出した。

そして大塚に握手を求める。

私はその。矢澤恋です。

もし良かったから恋って呼んで下さい。

と笑顔で答える。


「うんうん。是非是非に宜しく!.....それにしても羨ましいですな!花奏ちゃんさん。恋さんという優しい彼女さん!アハハ」


「いやいやからかうなよ。未来」


「えっと。何だか気さくな方ですね。花奏さん」


恋が驚きながらニコッとする。

しかしこれはちょっと予想外で参った。

まさか今、恋がやって来るとはな。


これで美香がやって来たら少し面倒な事になるぞ、と思いながら.....恋に向く。

恋は未来とそれなりに意気投合していた。

しかし.....うーん。

これはどうしたものか.....な?

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