第9話 その笑顔を守る為に

大塚未来。

俺達の3人目の共通の幼馴染と10年ぶりぐらいに再会した。

そんな未来と再会したのは本当に嬉しく思っているが。

反対に複雑な思いもあった。

それは.....簡単だ。


1に俺達はまだ未来の親から認められていない。

2にまだ未来の障害は治ってない。

3に俺達はまだ罪悪感を感じている。


何故なら未来は俺と美香のせいで過敏な耳になり。

そしてノイズキャンセリングイヤホンを付けなくては生きていられなくなった。

何というか.....その。

俺達は本当に.....申し訳無いとしか言いようが無かった。


保健室登校にしてしまった現在も全てが俺達が原因だ。

引き金を作ったのは俺達なのだ。

だから酷く恨まれている。

未来の両親はきっと俺達を許さない。


当たり前だとは思う。

だって.....俺達さえ居なかったら未来は華々しくもまともな人生を歩んでいたのだから.....恨まれても仕方が無いのだ。

そう。

全ては俺達が悪い。


未来の両親は俺達に会いたいとも思わないと思う。

だけどその中でも。

未来だけは俺達に会いたいと言ってくれた。

それだけが唯一の救いだと思う。


そして.....それだけが。

俺達が報われたと思った瞬間だ。

一瞬で儚いかもしれないが。


「.....」


美香は放課後のその事が終わってから用事が有るとそのまま席を外した。

後で合流出来たらする、ともメールで送って来た。

それを見ながら俺は保健室に戻った未来の事を考える。


本来ならこのまま恋と帰るとかなるのかも.....まあしれないが。

まあ何時も1人だしな。

考えながら俺は鞄を持って立ち上がる。

それから廊下に出ると何だか人がごった返していた。


何だよ、と思っていると未来が青ざめながら歩いている。

俺が愕然とした。

恐らくは美少女だから目立ってしまっている。

本当に体調が悪そうな顔をしている。

恐らく周りの人間にあてられたのだろうけど.....!


慌てて俺は未来に駆け寄る。

そして、オイ!大丈夫か!?、と未来に聞く。

すると俺に抱えられた未来は笑みを見せる。

それからニコッとする。


「うん。バリバリ大丈夫だよ。でもほんのちょっとだけ人にあてられたかな.....♪」


「.....いやいや。そこまでしてどうしたんだ?.....この場所に来て」


「えへへー。伝え忘れていたから。えっとね。.....一緒に帰りたいなって思って.....良いかな」


「.....成る程な。分かった。じゃあちょっと待ってくれ」


と俺は考えてから恋人の恋にメッセージを送った。

今日はすまないけどちょっと用事が有るから先に帰る。また今度一緒に帰ろうな。恋、とであるが。


すると恋から返事が直ぐに来た。

分かりました花奏さん。今度一緒に帰りましょう、とメッセージが。

俺はそれを口角を上げて確認するなりスマホの画面を消して未来に向く。

未来は?を浮かべて待っていた。

俺はそんな未来に話す。


「ごめんな。その。美香とか.....部活が有るって言ってるから。お前と会うのは今日の時間じゃ遅くなると思う」


「あ、そうなんだね。......じゃあ今からもう帰ろうか。花奏ちゃん。連絡してくれているよね?」


「そうだな。帰ろう.....か?」


そう思いながら周りを見ると。

野次馬が白い目で見ている事に気が付いた。

誰をか、と言えば、未来を、だ。


アイツこの場所が学校なのに音楽聞いてやがる、的な感じで白い目で見られている。

またこういうパターンか。

クソどもが。

俺は溜息を吐きながら、分からん奴は分からんだろうな。未来の事は、と説明しようと思ったが諦めてから鞄を背負い直した。


「未来。行こう。お前の事を馬鹿にしている連中も居る。ウザいしな」


「.....あ、これかな。また.....イヤホンでかな」


「ああ。まあこの学校の連中ってあまり珍しいモノの見かたが良く無いからな。陰キャの俺に陰口をずっと叩く馬鹿も居るからな。チブサとか言ってな」


「あれ。そうなんだね。それは許せないね。花奏ちゃんはずっと良い子なのに.....」


決して自らの馬鹿にされている事を恨まない。

コイツの母親とは正反対だ。

だけどそんな未来だが。

俺が虐められている事、と聞くと不愉快そうに眉を顰めた。

だけど直ぐに気にせずに無邪気な子供になる。


何と言うか未来は優し過ぎるのだ。

そこだけが気掛かり過ぎて仕方が無い。

考えながら.....未来に手を優しく差し出してみる。


「今日はその。何処かに寄れる体力は有るか?もし良かったら俺の家に来る事出来るかな?短い時間だろうけど何か語ろう」


「あ。丁度良いかも。今日なら.....その大丈夫だよ。それにテスト有るから.....もし良かったら試験勉強とかしたいな。一緒にね」


「.....お、おう。嫌な事を思い出させてくるね.....未来さん.....」


「え?.....え?」


階段を降りながら俺は苦笑いを浮かべた。

そういう天然さも相変わらず変わらないな。

考えながら?を浮かべている未来の荷物を持った。

そして歩き出す。


未来は、ええ?!、と思いっきり慌てる。

俺は首を振った。

未来の荷物ぐらい持たないとな。

可愛い未来の為だ。


「男なんだから俺は。だから大丈夫だ」


「.....もー。そんな事をするから君が大好きになるんだよ。私」


「いやお前。この場所でそれを言うな」


学校の奴らが、アアン?、的な感じでビックリしているだろ。

ハァ?的な感じにも見えるしな。

思いながら盛大に溜息を再び吐きつつ。

そして未来の荷物を持って歩き出す。


未来は後ろから少しだけか弱い歩きでテトテト付いて来る。

ニコニコしながら、だ。

相変わらず小動物の様に見える。

俺は苦笑をまたした。


「.....お母さんに一応メールしとこうかな。図書室で勉強するって嘘を」


「そうだな。頼む。俺らの事は隠してくれ。受け付けないだろうしな」


「そうだね。良い気にはならないだろうから打たない」


「.....だな」


本当に.....本当に。

謝っても謝ってもキリが無いぐらいだと思う。

馬鹿だよな。

人の人生を壊して生きている。

だがそんな俺に、そんな顔しないで、と未来はニコッとする。


太陽の様な笑みを浮かべる未来。

俺はその事に涙が少しだけ浮かんだ。

そして歯を食いしばる。

コイツに.....申し訳無くて。


「.....花奏ちゃん。さっきもその。美香ちゃんにも言ったけど.....泣かないで。お願い。悲しい気持ちになっちゃうから、ね?」


「本当に.....御免な.....」


馬鹿だと思う俺は。

情けないが.....。

その様に思いながら袖で涙を拭おうとした、のだがその前に未来が俺の涙をハンカチで拭ってくれて。

そして未来は聖母の様な柔和な顔をした。

でもね、と言いながら。


「私の為に泣いてくれるのはとっても嬉しいよ。だって.....私、大切にされているんだなって考えたり出来るから」


「.....ああ.....そうだな.....」


「でも私、泣いた顔より笑った顔が好きだなって思う。花奏ちゃんって本当にイケメンだしねぇ」


「.....アホ。そんな事は無い。俺はブサイクだ」


俺はその言葉に恥ずかしさに目線を逸らす。

そしてそのまま校門をくぐった。

それから未来の様子を確認しつつ歩き出す。

取り敢えず大きな音を控えなくてはならないな.....。


そして車との遭遇も気を付けないといけない。

過敏にならないと。

異世界に来た様な.....そんな感覚で。

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