第8話 私は貴方が好き

大塚未来(オオツカミク)。

彼女の名前はその名の通りだが未来(みらい)を意味している。

別の読み方でそう見えるだろう。


過去も未来も全てにリンク出来る様に。

繋がる為にと付けられたと未来の両親から1回だけ聞いた覚えが.....幼い記憶だが有る気がする。

最後に未来はこんな言葉を。


私が居なくなっても未来で繋がれる。


そんな感じの言葉を俺達に残して別れそのまま遠くに引っ越して行った。

それはもしかしたら外国だったかも知れない。

未来は悲しいとずっと言っていた。


そしてずっと泣いていた。

ゴメンね、と言いながらだが。

今でもそれは忘れない。


それからだろう。

俺が泣かせた分の陰口を主に言われるボッチになって来てしまったのは。

そう。

それは俺達が未来を最悪な目に遭わせた代償だろうと思う。

考えながら俺は.....横に居る複雑な顔付きの美香を見ながら歩く。


手紙の端の方に、もし良かったら美香ちゃんと一緒に来て、と書かれていた為に俺達は一緒に屋上までやって来た。

そして屋上のドアノブをガチャッと捻る。


それから解き放たれた青い世界に未来が居た。

俺達はゆっくりと歩みを進める。

目の前の栗毛色の美少女は俺達に背を向けて手すりに触れて前を見たままだった。


「.....未来.....」


「おーちゃん.....」


そんな言葉を言うと。

本当に向日葵の様な笑顔の。

相変わらずの向日葵のカチューシャを着けた未来がこっちを向いた。


まさにそれは眩しい限りだ。

俺達に柔和な笑みを浮かべている。

そしてニコニコし出す。

だが俺達はその様子に笑みを浮かべるのは困難を極めた。


何故なら彼女の耳には。

耳を覆い隠す程のヘッドフォンじゃ無い有名メーカーのノイズキャンセリングイヤホンを相変わらず着けていたから、だ。

相変わらずだが全てが変わって無さすぎる。

時だけが過ぎて成長しているだけだ。

耳は時が止まったままだ。


俺達はその様子に複雑な顔を見せる。

未来は耳が非常に過敏すぎる、と言える。

どういう意味かと言われればその通り。


日常生活の音がほぼ苦手なのだ。

車、飛行機、ゲームセンター。

その全てが苦手に近い。

過活動過ぎる耳と言って過言ではないと思う。

何というか障がい者とかには入らないかも知れないがとにかく今現在は日常の大きな音が駄目なのだ。


吹奏楽などを聴けば失神する。

そして掃除機の音とかもあまり好きでは無いらしい。

当時の記憶だが.....今も正しいのだろうか。

携帯の通知音も音がデカ過ぎたらビクッとしてしまうぐらいである。

その為に俺達はマナーモードにして来たが。


そうなってしまった原因は本当に色々あるが。

色々.....だ。

そんな未来が俺達の元にテトテト音を出す様にやって来る。

そして俺達に丸い目を輝かせた。

本当に来てくれて有難う!、と言いながら。


「.....久しぶりだね。美香ちゃん。そして.....花奏ちゃん!」


言いながら俺と美香をそれぞれニコッと無垢な笑顔で改めて見てくる。

俺達は本当の久々に未来を見る事になる。

保健室とかなかなか行かない。

気が付かなかった今まで。


時間差があったんだろうなきっと。

それにタイミングも合わなかったし。

俺は頬を掻きながら久々なのも有って恥じらって目を逸らしながら未来に尋ねる。

大丈夫か、と。

それから。


「元気か?」


とも。

すると未来は笑顔になりながら俺の手を。

美香の手を握る。

それから満面の笑顔を浮かべる。


「うん。元気だよ。バリバリ元気だよ〜」


「何かその。.....おーちゃん。久々だね.....本当に」


「うん。だね。美香ちゃん」


美香と俺もだけど。

顔を、その。

あまり合わせれない。

いや正確には合わせようとしてない。


違うか。

合わせれないのだ。

それにはかなり大きな理由が有ると言える。


今この場で言っても良いのか知らないが。

まあ何方にせよもう分かってくるかもしれない。

未来が耳が過敏になった原因それは。


俺と美香が原因だ。


耳が.....その。

音が聞こえなくなるならまだしもストレスで過敏になった。

かつての幼い頃の若気の至りとか言えるかも知れない。

あんな事をしなければ良かった。

そうであれば今の未来は。

こんな形にならなかったのである。


まあ16歳が真面目に何を言ってんだって感じだが。

本当にいたずらっ子ではしゃぎすぎたのだ俺達は。

大きな馬鹿な真似をしたと思う。

そのお陰で未来は大きな音に過敏になった。

未来の親は発狂したのだ。


ノイズキャンセリングイヤホンが未来にとっては重要なツールになる程に。

だけど未来自身は見て分かると思うがこんな優しい性格だから全く恨んでは無いみたいだが。

それでも目を逸らしたい様である。


もしかしたら別の意味は有るかもしれないが。

俺は少しだけ未来に複雑な顔をする。

美香もそうだった。

そして言葉が途切れてしまう。


「.....」


「.....」


「.....」


するといきなりだった。

俺達の手を未来が握ってきた。

そして口角を無邪気に上げながらそれから.....俺達の手を優しく握り締める。

まるで.....小さな子供が聖母に出会った様な。

そんな感覚に襲われた。


「美香ちゃん。花奏ちゃん。.....大丈夫だよ。私は耳以外は元気だから。気落ちしないで」


「そうだね。.....まあ.....うん」


そうしているのを見ていると未来が俺を見てきた。

そして赤くなる。

俺も赤面してしまう.....って何で?

考えながら俺は未来を見る。

すると未来は顔を上げた。


それから、美香ちゃん、と言葉を発する。

美香は?を浮かべながら未来を見る。

そして未来はすうっと息を吸い込んで吐いた。

それから俺を見て美香を見る。


「私は花奏ちゃんが好きです」


「.....!!!!?」


「!?」


未来は笑顔を浮かべながら柔和に俺を見てくる。

とは言っても私はそんな花奏ちゃんの横の立場にはなれないと思います。

だから私はこの心だけは知っておいてほしいって思って告白した、と言ってくる。

俺達は愕然としていたが。

その中で俺は.....涙を浮かべて泣いていた。


「か、花奏ちゃん.....!?」


「未来にそんな事を言われるなんて思ってなかった。.....嬉しい。それは恋があるから嬉しいんじゃ無いけど.....」


「.....そうだね。花奏」


俺は未来を見る。

未来は、エヘヘ、とはに噛みながら俺を見てくる。

俺は涙を拭いながら、そう言えば、とハッとしてから。

そのまま、また複雑な顔をする。

そして聞いてみる。


「未来。その。聞きたいんだが.....お前の両親は俺達をまだ恨んでいるんだよな?」


「そうだね。当然だけどこの高校に行くのも反対されたよ。あの人達が通っているみたいだから行ったら駄目だって。でも私は激昂したかな。怒ったよ」


「.....おーちゃん.....何で.....」


私はこの高校が学力に最適だって決めたの。

そして幼馴染を悪い様に言わないで、って強く言ったの。

だってそうでしょ?

何も悪い事をしてないのに文句は言わせないよ。

と未来は優しげな笑みを見せる。


正直.....贖罪をすべき俺達が。

未来と再び接する事が出来たのは奇跡だと思える。

その。


未来の親は異常だから。

そんな事を言っては駄目なのかもしれないが。

それに普通は子を持つ親はそうなるだろう。

子を守る為なら。


なので子供のせいとは言え。

我が子が子供でも大人でも誰でもおかしくなったら普通はそういう事をした対象を恨んだり妬んだりし続けるだろう。

だがその中で未来はもがいている様だった。


「.....もう気にしないで。.....私の事は大丈夫だから。ね?」


「だが.....」


「だよね。花奏」


唇を噛んで俯く美香。

俺も目線をずらす。

しかし未来はその中で聖母の様な感じを見せた。

そして胸に手を添える。

もう怒らないで、と呟いた。


「こんなの仕方が無いよ。そう思わない?それに嬉しかった。私はこうなって」


「お前本当に優しいよな.....未来。.....お前を見習いたいわマジに」


「だね.....花奏」


そうだ。

あの運命の日さえ無かったら。

俺達はずっとこのままで居れた気がするのだが。

仲良く学校に通えて幸せな日々を過ごせただろうけど。


時計の針は戻らない。

だが自らで進める事は出来るだろう。

だから未来の言う通り前に進むしか無いのだろう。


そう考えながら.....美香と未来を見る。

美香はうるっと涙を浮かべていた。

そして口に手を添える。

それから嗚咽を漏らし始めた。


「.....でもゴメン。.....本当に.....馬鹿だね。ゴメンね.....」


「.....泣かないで。お願い。美香ちゃん」


「.....」


美香に対して未来が優しく抱きしめた。

俺は複雑に思いながら自殺防止柵の外の景色を見る。

そうしていると、あ。それはそうと花奏ちゃん。恋してくれた?、と言葉を発した。

俺は、あ。ああ。、と曖昧に返事をする。

未来はニコニコしながら美香にも向いて聞いた。


「美香ちゃんと付き合っているの?花奏ちゃん」


「いや。花奏は.....今.....別の人と付き合っているかな」


「.....え?そうなの?.....あれれ.....」


「.....ああ。.....すまん」


あれりゃー。

そうなっていたら良いなーって思ったけど。

それだったら邪魔をする訳にはいかないし.....身を引くしか無いね、と未来はポコッと音が鳴る様に><の目をして頭を叩く。

そこまでして、じゃあ、と呟いてそれから俺に向いてくる。


「花奏ちゃんはその子と上手くいっているんだ?」


「.....いや.....その点は.....」


「.....?」


どう説明したものかな。

考えながら俺は美香を見る。

美香は悲しげな複雑な顔をしていた。

あの時の顔だ。

俺は溜息を吐きながら未来を見る。


「その。まあそこそこだ」


「そうなんだ!アハハ」


「でもちょっとややこしい状態だ。美香とはな」


「え?それってどういう事?」


目を更に丸くする未来。

さてこれもどう説明したものか.....。

思いながらもう一度だが美香を見る。

美香は、おーちゃん、と言いながら立ち上がり苦笑する。


「何も無いよ。おーちゃん」


「え?そうなの?本当にだよね?」


「.....美香.....」


「花奏。この説明はやめとこう。未来はこんな性格なのも有るけど.....未来が困惑するしまた離れ離れとかそんなの.....嫌だし」


美香はジッと俺を見据えてくる。

まあそうだな確かに。

そう思いながら未来を見る。

すると、それより、と手を叩いた美香。

そして笑顔を見せた。


「それはそうと久々にこの3人揃ったんだし、遊びに行こうよ!行ける範囲、近場でね。ね?おーちゃん」


「あ、良いね。美香ちゃんと花奏ちゃんと一緒。楽しみ!」


「.....」


笑顔の二人はそのまま握手し合う。

今の状況を未来に解説するのはまずややこしいしマズい、か。

そして未来の両親との共存.....か。


美香は最善の選択をしたと思う。

だけど本格的に複雑だな。

マジに色々とどうしたものかな、と思う。

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