第7話 2人目の幼馴染の約10年ぶりの手紙
俺は、また後で会いましょう花奏さん、と笑顔で言う恋と別れてから。
そのまま2年生の下駄箱が山の様に積み重なっている昇降口へ向かった。
それから俺は下駄箱を見ながら靴を履き替えようとしていると横に誰か居る事に気が付き、俺は?を浮かべて横を見る。
何とそこには申し訳無さそうな顔でこっちを見ている鈴木が立っていた。
さながらゴーストの様で、なんて言ったら駄目だがマジにビビった。
その為に俺は、ウオ.....、と少しだけ声を出しながら青ざめつつ鈴木を見る。
ちょ。いや。な、何でしょうか。
顔を引き攣らせながら困惑していると鈴木がモニュモニュと口を動かしながら頭を思いっきり下げて言葉を発した。
俺は!?と思いながら鈴木を見る。
「昨日の件ですが色々とすいませんでした。腕を無理に掴むなどの暴力的な行為。それは許される問題では無いと思います。謝罪します。大変申し訳有りませんでした。取り乱していました」
俺はその事に、は。はぁ、と一言発する。
別に気にも留めてないが.....でも。
謝罪というか謝りが出来るんだなコイツ。
俺は若干苦笑しながら見ていると顔を上げた。
それから自らの律儀さを保つ為か。
少しだけ複雑な顔ながらもスカートの端を整えながら俺を見てくる。
そして改めてな感じで俺に真剣な顔で聞いてくる。
その。こんな事を聞くのは申し訳有りませんが、と言いながら。
何だろうか。
「美香の事ですが.....」
「ああ。それか。.....考えたよ一応」
「.....!」
「じっくり考えた。それも勉強出来ないぐらいにな。俺の妹の力は借りたがな」
そこだけは譲れないと思い真剣な顔になる俺。
それから答えを口に出した。
結論から言って俺は美香とは付き合えない、との考えを。
アイツは俺を一度、振った事は事実であって俺はその責任を負う必要は無い、と。
その言葉に思いっきり見開く、鈴木。
そしてかなり真剣な表情になる。
ヤバイなこれ。
殴られるか?と思いながら青ざめて慌てる。
だけどそれ相応に怒っている様子に見えた感じではあるが俺の目線から下に目線をずらしながら、そうですか、と鈴木は呟いた。
まるで下にスライドする感じで、である。
殴られる様子ではない。
俺は目をパチクリしながら鈴木を見る。
すると鈴木はこう話した。
少しだけ紅潮しながら。
「美香を貰います」
「おう。.....は?.....今何つった?」
「変な事は言ってないですよ。私が美香を貰います。確実に幸せにしてみせます」
「.....いや。極論だな.....お前」
だけどそんな事はお構い無しな感じで鈴木は俺にキラキラな眼差しを向ける。
そして目を輝かせていた。
妄想に浸っている。
俺は青ざめながらだったが落ち着いてから聞く。
その考えを。
「.....お前やっぱり好きなんだな。女だけど」
「私は美香が全てなので。心から大好きです。あの日から変わらず」
「あの日?」
「.....イジメられて日記を無くした時も。ずっと」
だから今度は、と決意をする鈴木。
俺は?を浮かべながらも。
その怒りに触れるのはマズそうだったので止めた。
それから鈴木を見るが。
なんかこの姿.....ヤバイと思うんだが。
モジモジしてからかなり紅潮しているしな。
スカートの乱れなんぞ気にしない的なぐらいに。
何これ?、と苦笑気味に居ると鈴木の背後から美香がやって来た。
美香は俺を見て鈴木を見る。
「何しているの?七子?」
「あ、別に何も無いよ。美香。大丈夫」
平常心になった。
一瞬で。
気持ちが悪いなコイツ。
その鈴木は俺にキッと睨んで、この事は話すなよ、的なオーラを出す。
流石にその目線を俺にされては何も言えずただ美香にこう告げた。
取り敢えずは何も無い、と言いながら。
美香は???を浮かべていたが、そう、とだけ答えた。
しかしその。
「美香。お前も.....その、割と大変だな」
「ちょっと七子。花奏に何を言ったの?花奏の顔.....引き攣っているんだけど」
「何も言ってないよ。.....ほらほら行くよ。美香」
それから美香は鈴木に引っ張られて連れて行かれる。
え.....あの、と美香は言っていたがそのまま連れて行かれる。
その話なら多分、恋愛に関する事とかだろう。
だけど.....な。
俺は盛大に溜息を吐きながら下駄箱を開いて靴を取り出そうとしたのだが。
そこに何か白い便箋の様なものが入っているのに気が付いた。
縦向きの封筒である。
俺は?を浮かべながらそれを取り出した。
純白の手紙である。
何だこれは?一体何故こんなモノが入っている。
思いながら差出人を見る。
だが。
「.....?」
宛名も差出人も無い感じだ。
その場で直ぐに何故か接着されているノリを剥がして開けてみた。
そして中身の便箋を引っ張り出してみる。
そこには.....こう書かれていた。
俺に宛てての達筆だ。
(千草花奏様。私です。大塚未来です。お久しぶりですね。覚えていますか?.....この手紙を早めに読んでくれる事を切に願ってから入れてます。再会は幼稚園以来ですね。今日ですがノイズキャンセリングイヤホンを着けて音に配慮しながらこの学校に転学して来てから.....また保健室登校を少しずつ始めようとしています。まだまだ音慣れが出来ず教室登校は遥かに遠い感じです。こうして文面を書くと何だか美香ちゃんと一緒に遊んだ事を思い出しますね。何で手紙でそんな事を記したかと言うと.....久しぶりでそれなりに恥ずかしかったからです。ゴメンなさい。でも会いたいと思ったから書きました。そしてえっと伝えたい事があります。もし良かったら今日の放課後に屋上で待ってます。この手紙は美香ちゃんにも同じ手紙を渡しています。宜しくです。大塚未来)
「.....大塚.....未来.....って.....」
成程な。
美香の話ってこの事か、と納得して思いながら手紙の中の差出人の名前を見る。
大塚未来(オオツカミク)。
その名前は完璧に知っている。
思い出すとするなら栗毛色の長髪の女の子だ。
顔を俺は顰める。
そして思い出してはならない記憶を.....思い出す。
浸る。
何時もお気に入りの向日葵のカチューシャを着けていた。
太陽の様な笑顔の女の子だから。
顔立ちは当時の女の子としては幼い女の子ながら美少女並みだった、筈である。
筈であるってのは記憶が曖昧だ。
身長も俺より高かった。
俺と美香の共通の幼馴染である。
そして幼稚園時代後半で耳にノイズキャンセリングイヤホンを着けていて.....何というか俺は.....その姿を見る度に申し訳無い気持ちでいっぱいになっていた。
そんな未来は俺達の元から両親の都合で引っ越して行ったのだ.....が。
実際は全てから引き剥がす為だったろう。
未来の両親が俺達から未来を遠ざけたんだ、と思う。
ただひたすらに俺達を妬み。
妬みの塊として。
未来の家。
本当にあの家は、学習、が全てで有り。
俺達に接触させた事で、耳が悪くなった、と母親は狂った様に嘆きまくっていた。
まるでイカれた人物であり。
その姿を見る度に胸が締め付けられた。
未来の親から嫌がらせも受けた事実もある。
それは全て未来の為だと言いながら。
未来は全てを洗脳されていた。
当時は携帯電話は有ったがSNSとかも無い為。
手紙で様子を伺う為に文通をしたのだが。
まあそうだな。
この文通は全てが途切れてしまったのだ。
未来側から送られて来なくなったのを覚えている。
だがおそらくそれも多分未来の親が、と考えてしまう。
狂っていたからな。
全てが。
でも申し訳無いが.....。
これは全て仕組まれていたのでは無いかと思っている。
未来の親が悪いのでは無いか、と。
だけど周りには否定される。
つまり俺達は大人には勝てなく。
ただ言いなりになるしか無かった。
ただのクソガキだったから。
何も出来なかった。
真実は嘘で塗り固められた。
でもそんな未来が.....この学校に。
かなり衝撃なんだが。
思いながら桃色の便箋を再び見つめる。
何というかグシャッと音がした。
いつの間にか便箋を歪ませて俺は歯を食いしばっていた。
何か.....何とも言えない感情だ。
何故かと言うと。
これを見ていると俺達は会って良いのだろうかと考えてしまうなどもある。
本当に久々では有るんだが。
未来に会うのは10年ぶりぐらいじゃ無いかとは思う。
本当に全てが久々だ。
あり得ないぐらいに、であるが。
でもその.....未来の親はよく納得したな。
この学校に未来が通う事を。
俺と美香が通っているのを知っている筈だ。
じゃ無ければ話の理解が出来ない。
その様に考えていると。
キーンコーンカーンコーン!
「.....え?.....うわ!?.....ち、遅刻だ!畜生!」
色々と考えていたら周りからいつの間にか人が居なくなっていた。
その様にチャイムが鳴る。
俺は驚愕しながらそのまま猛ダッシュで教室に恥ずかしながらも行く。
鞄に未来の手紙を乱暴に仕舞って、だ。
クソッ!美香め!
せめて俺に時間無いとか言ってほしかったんだが!
こんなの最悪だろ!
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