第83話 向かうは極東の地
「——本当に荷物はそれだけでいいのかい? なんだったら資金の援助ももっとしてもいいけど……」
俺は小型のドラゴンの上に設置された三人掛けのそれほど大きくない乗り場に座っていた。
ドラゴンの足元には心配そうなジェームズさんと、大汗をかいているマセスさんの姿がある。
「いえ。大丈夫です。すぐに帰還する予定ですので」
目的を終えたら早急に帰還するつもりでいるので、これ以上厚意に甘えるわけにはいかない。
「そうかい。気をつけるんだよ」
「はい。俺が留守にしている間は三人のことを頼みます」
「ああ、任せてくれ」
知能の高いドラゴンなのか、ドラゴンはジェームズさんが小さく頷いたことを会話の終わりだと察すると、バタバタと翼を動かし始めた。
「小型なのに力強くて頼もしいな」
「あっ! 申し訳ありません! こちらのドラゴンの名前を言い忘れておりました!」
俺が小型のドラゴンの力強さに驚いていると、ここまで静かにしていたマセスさんが言葉を発すると同時に、ドラゴンははためかせていた翼を止めた。
「そういえば、名前を聞いていませんでしたね。何と呼べばいいのでしょうか?」
俺は小型のドラゴンからマセスさんに視線を移した。
「名はグルーヴ。小型とはいえ力のあるオスのドラゴンです。どうか優しく扱ってあげてください」
マセスさんが名前を呼ぶと同時に、小型のドラゴン——グルーヴは「グルゥ」と返事をするかのように唸った。
名前の由来は鳴き声から来ていると見た。
「俺が付けたんだ。いい名前だろう?」
ジェームズさんはグルーヴの頭を軽く撫でながら言った。
「ええ。とても凛々しく、素敵な名前ですね」
俺はジェームズさんの問いに対し、思っていたことをそのまま答えた。
「さあ、このまま話していても何も進まないし、君たちは目的を果たしに極東へ向かうといい! さっきも言った通り、三人のことは俺に任せて構わない!」
「はい。グルーヴ……よろしくな」
俺はグルーヴの背中を撫でて小さく言葉をかけた。
グルーヴは再び翼を動かし始め、グッと足を折り曲げた。
おそらく空へと羽ばたいていく準備をしているのだろう。
「お気をつけてー! グルーヴは既に当施設の管轄外になりますので、もしも帰還時に傷や欠損が発見された場合の責任問題につきましては私どもではなく、『帝』の皆様に委ねられておりますので何卒お見知り置きを!!」
「はぁ……お前はつくづくがめついやつだな。そんなこと言われなくても大丈夫だよ……」
おそらく経営があまりうまくいってないであろうドラゴンロードのことだ。
マセスさんは念を押すようにして早口で言葉を捲し立てていた。
「いえいえ! あっしも商人の端くれですから。それに———」
やがて二人の声はグルーヴの羽音で聞こえなくなり、周囲の何もかもを吹き飛ばしてしまいそうな勢いで空へと飛び立った。
「サスケ。極東への案内を任せてもいいか?」
「御意。とりあえず東へ進みましょう。海が見えてくれば到着も近いはずです」
俺は姿勢良く隣で鎮座し、地図を眺めていたサスケに声をかけた。
サスケは地図の上を指でなぞりながら、向かうべき方角を判断している。
「どうだ?」
「ふむ、おそらくこちら側でしょう。王都からはかなり遠いので、彼には悪いですが少し急ぎで向かってもらいます」
すると、グルーヴはサスケの指示を待つことなく、グンっと方向転換をした。
これはかなり頭が良さそうだな。
「グルーヴ。悪いが無理にならない程度にスピードを出してほしい。どうだ?」
「グルゥ!」
グルーヴは返事をすると、ゆっくりと前進し始めた。
そして、次第にスピードが上がっていき、数分後には周囲の視界が歪むほどまでになっていた。
あと数時間で日が暮れてしまうので1日で到着するのは無理でも、極東の場所にもよるが、この分なら早いうちに到着できそうだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。