第46話 Side by ルーク
「——ルーク。どうして相手方に対して無礼な態度を取ったのだ?」
お見合いの場から自分の部屋に逃げてきた僕のもとに、パパがノックもなく訪ねてきた。
「……僕の勝手だろ……パパは関係ない」
普段ならこんな態度を取ったら、叱られてしまうけど、今の僕は心が荒んでいるからか、簡単に不躾な言葉がでてきた。
「今からでもまだ間に合う。儂が手を貸すから後日またお見合いの場に——」
「——僕はパパのモノじゃない! どうして僕の自由を奪おうとするんだ! パパのエゴで僕に結婚を強制しないでくれ!」
僕は語気を荒げて、これまで誰にも打ち明けた事のない鬱憤をぶちまけた。
「……ルーク……」
「はぁ……はぁ……」
自分の立場とか先のことなんてものは考えずに、パパの目を見据えて想いをぶつける。
「何がお前をそこまでする。儂はただ……お前が心配で……」
「心配? それなら僕を縛らないでくれ! 僕の戦闘スタイルにそぐわない武器と防具を装備することを強制したり、難しいクエストに行かせないようにギルドと共謀したりするな! 僕はもっと強くなりたいんだ!」
僕は今とは真逆の装備、つまり師匠と出会う前の装備が魔法剣士の適正装備だと勘違いをしていた。
全ては元冒険者であるパパのアドバイスのせいで。
クエストに関しても、Cランクのクエストを受注させてもらえず、最近だと昇格試験もパパのギルドへの一言によって拒否される始末だ。
毎日毎日、努力をしても報われない日々が続いていた。
僕はそんなパパの”モノ”として扱われているような暮らしから、一刻も早く解放されたかった。
「……強くなってどうする? セシリアの仇でも取るつもりか?」
パパは目を細めて、問い詰めるように聞いてきた。
「当たり前だ! ママを殺したモンスターは僕が討ってやる!」
ママは僕が幼い頃に、闇を纏う正体不明のモンスターに殺された。僕の目の前で。
パパは怒りに任せて斬りかかったけど、そのモンスターは虚空に姿を消してしまった。
でも、僕はあの衝撃的な光景を忘れたことはない。
「それならもうお前を冒険者として活動させるわけにはいかない」
パパはその言葉とは裏腹にとても苦しげな表情だったけど、僕は感情を抑えることができなかった。
「パパはママが殺されて悔しくないの!? ママを助けられなか——」
「——儂はお前を失いたくない! 儂はセシリアを助けられなかったが、お前だけは……」
パパは僕の言葉を遮るように声を荒げた。
しかし、次第に言葉は弱くなっていく。
「どういうこと……?」
言葉の意味を理解することができなかった。
「……なんでもない。ただ、儂はおまえに冒険をしてほしくない。それだけだ」
「……わかった」
実際のところ全く納得はできていない。
でも、これ以上パパと話をするのは辛かった。
だって、パパがママが目の前で殺された時のように、ほろほろと涙を流していたから。
「それでいい」
一先ず納得した僕の言葉に、パパは小さく頷いた。
「……一つだけ、質問していい?」
「なんだ?」
どうしても気になることがあった。
「ママが死んでからそろそろ十五年が経つけど、パパはママを愛してる?」
フローノアの近くの平原に、突如としてあのモンスターが現れてから、そろそろ十五年が経つ。
僕は当時五歳だったけど、その時の記憶は脳裏に鮮明に焼き付いていて、冒険者として努力をしてきたのもモンスターへの復讐のためにすぎない。
「当たり前だ。忘れたことなんて一度もない」
「……そう」
パパは強い意志を孕んだ瞳で僕のことを見ていた。
貴族と同等、またはそれ以上の権力があるのに、たった一人の女性を愛し続けることは珍しい。
パパがママに抱いているその感情は確かなものだと思う。
「……色々と悪かったな。今日はゆっくりと休んでくれ……」
僕は表現することが難しい複雑な感情を胸に秘めて、部屋を後にするパパの広い背中を見ていることしかできなかった。
「——くそ」
やるせない自分に悪態をつくことしかできなかった。
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