第六章 初めてのすれ違い
第47話 ルークの償い
「——お二人とも、昨日は本当に申し訳ありませんでした。私の勝手な判断で不快な思いをされたかと思います」
私服姿のルークが体を全力で折り曲げて、謝罪の言葉を口にした。
「ル、ルークさん、私は全然気にしてないから! 顔を上げてよ!」
アンはあたふたとしており、俺に懇願するような視線を送ってきた。
タケルさんも止めて! と、目で訴えかけてくる。
「で、ですが——」
「——ルーク。アンがこう言っているんだ。顔を上げたらどうだ? それに、話をするなら中に来い」
屋敷の前でずっと話をしているわけにもいかないので、屋敷の中へ入るように促した。
「す、すみません、師匠」
「ああ。というか、朝っぱらからここにいたのか?」
「ええ。六時から今まで師匠たちのことを待っていました。それと、こちらをどうぞ」
六時からって、今は昼過ぎだぞ……。
いちいち律儀な男だな。逆に気を使ってしまいそうだ。
「……悪いな。美味しく頂くよ。アン、少しの間空けてくれないか?」
俺は屋敷へ続く広い庭を歩きながら、ルークから果物の盛り合わせを受け取る。
そして、ルークと二人で話をするためにアンには席を外してもらった。
「うん。工房にいるから、何かあったら呼んでね!」
アンは昨日の疲労を感じさせない動きで元気に走っていった。
○
「——だから、武器も防具も装備していないんだな」
「はい。暫くの間は冒険者としての活動は控えようかなと思っています」
「これからどんどん強くなると思っていたから残念だな。まあ、事情があるなら仕方がないか」
ルークは詳しくは教えてくれなかったが、領主様との間で何かがあったようで、暫くの間は冒険者活動を控えるようだ。
「そういえば、師匠以外の皆様はどちらへ?」
「裏の物置……いや、工房にいるはずだ。今日は休みだからな」
最近は立て続けに色んな出来事があったので、休みにしていたのだ。
そこで、俺とアンが食料の買い出しにでも行こうと外へ出たときに、ルークの姿を発見したのだ。
「そうだったんですか。実は父上から師匠宛てに手紙を預かっていまして」
「手紙? どういう内容だ?」
ルークはおずおずと懐から一枚の紙を取り出した。
「師匠たちへの償いの意味を込めたものだ。とは言っていたんですが、中身まではまだ把握していません」
「……どれ……ほう」
「なんて書いていましたか?」
「簡単に言えば、俺たち『一閃』に土地を建物付きで譲渡するといったような内容だな」
手紙と共に地図が同封しており、場所が記されていた。
申し訳ない気持ちもあるが、これは嬉しいな。
「どちらの土地ですか?」
ルークが覗き込むようにして、俺が手に持つ地図を見てくる。
「ここだ。街の中心部に近い通りだな」
フローノアの中心部に程近く、主に商業的な建物が立ち並ぶところだ。
「いい土地をもらいましたね。ここなら人通りも多いですし、街の人々のニーズに合ったものを売れば儲けられますよ!」
「……そうだな」
ルークの言う通りだが、最も重要で見過ごすことのできない事実があった。
「どうかしましたか?」
「いや、俺に商才なんてないし、宝の持ち腐れもいいところだ。ルークは商売の経験はあるか?」
俺はただの冒険者で二十三歳。
三年間は人里から遠く離れた地で暮らしていたので、商売をするにはあまりにも知識が足りない。
「……私もさっぱりですね。昔、ガルファさんから軽い知識を教わったことはありますけど、それを形にする自信はありません」
ルークは首を横に振り、申し訳なさそうな表情で言った。
「そうか……誰か頼れる相手でもいれば——あぁ、ちょうどいいのがいた……」
考える間も無くすぐに思いついた。
「何かアテでもあるんですか?」
ガルファさんがいれば、頭を下げて教えを乞うてもいいのだが、そうもいかない。
そんな中で頭にパッと浮かんだのは……
「ああ。先に外で待っててくれ。すぐに行く」
「は、はぁ……?」
俺の言葉に、ルークは小さく首を傾げると、椅子を立ち上がり外へ出て行った。
「……アンとシフォンに留守番を任せるか」
それと同時に俺も立ち上がり、裏口から出て、工房へ向かう。
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