第24話 二人だけの戦い
先に仕掛けたのはアンとシフォンの方だった。
アンはシフォンとアイコンタクトを交わすと同時に右回りに走り出した。
抜剣もせずに走り出したので、おそらく陽動でもするつもりなのだろう。
「シフォン! まだぁー!?」
やはり陽動で正解だったようだ。
アンはプラントワームの攻撃を一身に請け負いながら声を張り上げた。
「……撃ちます!
シフォンはアンの陽動のおかげで極限まで魔力を練り上げることができたのか、俺がこれまでに見たことのない威力の雷槍を、プラントワームの根から伸びている巨大な葉を目掛けて撃ち込んだ。
「————っ!」
シフォンの雷槍によりプラントワームは声にならない声を上げ、三対ある紫色の葉はぷすぷすと焼け焦げていた。
「——シフォン! サポートをお願い!」
「わかりました!」
当然の事だが二人はプラントワームの事情なんてものはお構いなしに、間髪を入れることなく攻撃を開始した。
痛みで悶え暴れることで予測不可能な動きをしているプラントワームのツルをすり抜けながら、アンは着実に距離を詰めていく。
シフォンはアンのサポート役に徹しており、小威力の雷槍を連続で撃ち込むことで、アンの回避行動の手助けをしていた。
アンは眼前にプラントワームが姿がある中、鋭利なツルの横なぎを小さな動きで回避すると、そのツルを踏み台にすることで大きく跳躍した。
アンはプラントワームよりも高く、およそ十二メートルほどの位置にまで跳躍していた。
「——っ!
アンは滞空中にスキルを発動させ、上空から重力に任せて剣を振り下ろすことで一刀両断を試みた。
が、しかし、アンの剣はプラントワームの頭頂部に僅かな切り込みを入れるに留まった。
「えっー!?」
アンは予想外だったのか、大きな驚きの声を上げた。
何か硬い層にでも当たったような感じだろうか。
途中までは斬り込んでいったが、そこから剣が進まなくなったようにも見えた。
「——キシャァァ!」
プラントワームは葉を雷槍で焦された時よりも大きな叫び声を上げた。
「アン! 一旦距離を取ってください!」
その場に留まることが危険だと察知したシフォンの言葉に、アンはすぐさま大きく距離を取り、体勢を整えた。
「この防御の高さを考えると攻撃の手段が限られてくるな……」
無理やり剣で斬り裂くか、それともシフォンの初撃のような雷槍を撃ち続けるか。
「どう攻めたらいいかな?」
アンは目の前でゆらゆらと蠢くプラントワームを見据えながら言った。
「……頭を狙いませんか? アンがダメージを与えたので、多少は斬りやすいはずです!」
いい判断だ。
雷槍で根元の葉にダメージは与えたが致命傷という感じではなかったので、別のところから攻めるべきだろう。
どちらにせよ、苦戦は強いられることが予想される。
二人がどう戦うか見ものだな。
◇
俺の前にはアンとシフォンが立ち、自分達だけで勝つとでも言いたげな強気な背中を見せてはいるが、大きく肩を上下させながら息をしていた。
「——っっ! はぁはぁ」
プラントワームは鋭利なツルや天高く伸びる茎、もとい頭を自在に操りながら、じわじわと二人の体力を奪っていった。
だが二人も負けておらず、手数や体格の差を覆す俊敏な動きで、目的としていた頭頂部へのダメージを着実に与えていき、プラントワームの頭頂部は斬り傷と雷槍によって茶黒く染まっていた。
「……ふぅ……。シフォン、あと何回撃てる?」
アンが呼吸を整えてシフォンに問うたが、シフォンからは中々答えが返ってこない。
「…………おそらく、中威力のを一回だけです」
シフォンは長い沈黙を挟み、弱々しい声色で答えた。
その間、プラントワームも警戒しているのか、二人と睨み合うような形でジッと対峙していた。
「——じゃあ、次で最後だね!」
一進一退の攻防もいよいよ次の攻撃で最後になりそうだ。
アンは剣を両手でしっかりと構え、シフォンに目配せをした。
「……はい! いきましょう!」
アンはシフォンの掛け声と同時にプラントワームに向かって強く地面を蹴った。
右へ左へ、縦横無尽に繰り出されるプラントワームの鋭利なツルを躱しながら少しずつ前進していく。
シフォンはアンの対応だけで手がいっぱいになっているプラントワームを姿を静かに見据えていた。
「シフォン! 丁度いいタイミングでお願い!」
「わかりました!」
シフォンはアンの叫びに応えるように、最後の残された魔力を練り上げ始めた。
アンはその間に、焦りからか激しく暴れ回るプラントワームの体を上手く蹴り上がっていき、あっという間に頭頂部に到達した。
一体何をする気だ? 斬撃だけだと深い傷は負わせられないはずだが……。
「おっとっと」
アンは頭頂部でバランスをとりながら、何かが起きるのを待っているようだった。
「——キシャァァァァッッ!」
プラントワームは頭頂部に乗られたことで焦りながらも怒り狂った声を上げ、鋭利なツルをアンの視覚の外、頭上から突き刺そうとしていた。
「アン! 死ぬぞ!」
俺は二人が何をしたいのかが全く読めなかったので、目一杯声を張ることで警告を促したが、アンはその場を動こうとはしなかった。
しかし、ここで予想外のことが起きた。
「おい! 一体何を——ッッ!?」
アンは鋭利なツルとの距離が残り一メートルというところで横に小さなステップを踏み、攻撃を回避したのだ。
「キシャァァァァ!」
当然、プラントワームは不意打ちを狙っていたはずなので、アンの突然の動きに対応することができずに、勢いそのままに自分の頭に鋭利なツルを突き刺すことになった。
「シフォン、お願い!」
アンはそれと同時に高く飛び上がり、シフォンに合図を出した。
「
魔力が枯渇する寸前の体に鞭を打ち、自身の鋭利なツルが突き刺さるプラントワームの頭頂部に雷槍を放った。
「いくよっ! 戦翔斬《せんしょうざん》!」
雷槍の直撃を確認したアンは上空でクルリと回ると、腕が取れてしまいそうなくらいの勢いで剣を縦に振った。
「キシャァァッ……ァァ——」
プラントワームは紫色の血飛沫を撒き散らしながら、フロア中に甲高い断末魔を響かせたが、すぐに横に倒れていったので、絶命したことがわかった。
「……すごいな」
俺は素直に感嘆の念を抱いた。
二人には悪いが、咄嗟の意思疎通でここまでの戦いができるなんて思っていなかった。
「——シフォン! 危ない!」
剣を抜き、いち早く離脱したアンが危険を知らせた。
シフォンは魔力の枯渇が原因でその場を動けなかったようで、プラントワームの下敷きになりそうになっていた。
「っ! 縮地!」
俺は縮地を用いてすぐに助けに行き、ギリギリのところでシフォンを抱き抱え、その場を離脱することに成功した。
「シフォン? 大丈夫か!?」
シフォンは全身の力が完全に抜けてしまっていた。
「……あ、ぁ。だ、大丈夫……です」
息を荒げながら言葉を紡いだ。
「良かった……」
何はともあれ、討伐は成功だ……。
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