第23話 ボスモンスター
分かれ道を左に進み始めてから五分ほど時間が経過したが、先ほどの鎧の番人以降は特にモンスターが現れることもなく順調に歩を進めていた。
「タケルさん。ダンジョンってこんな感じが普通なの?」
モンスターもおらず、道も単純。
今のところは全く起伏のないダンジョン探索になっている。
「……普通はもっと苦戦するはずだ」
もしかすると、このダンジョンの普通がこれなのかもしれない。
このDランク試験における最重要事項はパーティーでの夜営であり、ダンジョン探索はただのおまけという可能性もある。
Dランク試験の度に行き尽くされたダンジョンなので、これがギルドの思惑だと考えられる。
「そうなの? 全然戦い足りないなー」
「僕もです。最奥のフロアにモンスターは出たりするんですか?」
俺の前を歩くシフォンはこちらに軽く体を向けながら聞いてきた。
「ああ。最奥のフロアにはそのダンジョンに応じた強力なボスモンスターが現れる。俺もこれまで一回しか遭遇したことがないから、あまり期待はできないな」
俺が最奥のフロアでボスモンスターに遭遇したのは、Cランクの頃に訪れた隣国のダンジョンで、たったの一回だけだ。
何度もダンジョンに潜ってこの結果なので、相当確率が低いはずだ。
「そうなんだ……。でも、これで終わりってなんかモヤモヤするね」
「全てタケルさんに任せっきりで達成感がないです」
同時に二人が小さなため息を吐いたその時だった。
「……!? この揺れは……。下からか?」
地面が大きく揺れ始めた。
「な、なんですか——ってタケルさん!?」
アンとシフォンは小さな体で恐怖を分かち合うように抱き合っていた。
「ついてこい! この先に多分階段があるはずだ!」
ダンジョンでこんな揺れを経験するのは初めてだったが、最奥のフロアにさえ行けば答えが出るはずだ。
「わ、わかった! シフォン、走るよ!」
俺は二人が走り出したことが足音で分かったので、スピードを上げて、道なりに走っていった。
◇
「タ、タケルさん? いきなりどうしたんですか?」
道なりに走り、俺が目的の場所に到着してから数十秒後に、軽く息を切らした二人が追いついた。
「これを見ろ」
「……? これはさらに下に行けるってこと?」
いち早く呼吸が落ち着いたアンが聞いてきた。
目の前には遥か深くまで先の見えない直階段が伸びていた。
「そうだな、今日は運が良い。こんなことは初めてだ」
「さっきの揺れと関係があるんですか?」
「この先に行けばわかるはずだ」
俺は二人を先導するようにゆっくりと階段を下っていった。
「……この先になにが……?」
「え? え? なになに?」
アンが俺の顔を覗き込むようにして顔に疑問符を浮かべていた。
「ほら、見えてきたぞ。これは凄いな」
「わっ! 外かと思うくらい明るいですね!」
「それに地面が石から草になってるよ!」
階段を下りた先には異質な空間が広がっていた。
壁は上の階と同じく石造りなのだが、地面には草が生い茂っており、天井は二十メートルはあろうかというくらいの高さがあった。
それでいて、外と同程度の明るさがあり、綺麗な円形のフロアの中にはモンスターらしき姿は見当たらなかった。
「おそらくここが最奥のフロアだろう。そしてさっきの揺れの原因はあれだ」
俺はフロアの中央を指差した。
「あの真ん中に咲いてる紫色の……花? 植物?」
「確かに怪しいですけど……あれはなんですかね?」
このフロアの中央に咲いているのは二メートルほどの紫色をした植物だった。
その植物は天井に向かって真っ直ぐ伸びており、毒々しい紫の体色は緑色の草原の中で異彩を放っていた。
「仮にここで戦闘が始まるのなら二人だけで戦うか?」
二人は訳がわからないというような表情だったが、迷いなく首を縦に振った。
「そうか。シフォンがあの植物に雷槍を撃った瞬間から戦闘開始だ」
俺の予想が正しければ、あれは植物型のモンスターだ。
茎の先端の蕾のような部分なこちらの姿を確認するように小さく動いており、ほんの僅かにだが地面の揺れも感じる。
「よ、よくわかりませんが、
シフォンは言われるがままといった感じで植物の真上から雷槍を発動させ、そのまま垂直に突き刺した。
「なっ、なにあれ!? なんか伸びてきたよ!?」
「モンスター……ですか?」
シフォンの雷槍が直撃すると同時に地面は小さく横に揺れ始め、そいつは地面を掻き分けるようにしてゆっくりと姿を現した。
「プラントワームか……」
プラントワームは以前討伐したメルトマンドラゴラの上位互換のモンスターだ。
メルトマンドラゴラのように服は溶かさずに、根元から伸びる柔軟かつ自在なツルを用いて、捕らえた者を自身の養分にする凶悪かつ残忍なモンスターだ。
「お、おっきい……」
アンが驚くのも当然のことで、俺たち三人の首が痛くなるくらいに見上げるようなサイズ感であり、十メートル以上はあるだろう紫色に覆われた禍々しい体躯は、見る者全てを威圧する。
「なんなんですか……このモンスター……っ!」
「アン、シフォン。一つだけ注意だ、絶対に捕まるな」
アンとシフォンの力では一度捕まってしまえば逃げるのは至難だろう。
俺は荷物を全て置き、戦いの行く末を見守ることにした。
さあ、相手はDランク級のダンジョンのボスモンスターだ。
二人はどう戦う。
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