第7話 雷魔法使い

 弟子のルークがクエストへ向かい、アンがパーティーメンバーの募集をかけてから、早一時間が経過していた。


「やっぱり来ないねー」


 まさかこんなに来ないとはな。募集掲示板に秘密があるかもしれない。


「ああ。ちょっと見てくる。位置が悪いのかもしれない」


「はーい」


 アンはだらしなく椅子に座りながら机にぐでーっとなっていた。


 募集掲示板の前に来たのだが、とてつもない量の紙が貼ってあった。

 これは、人が来ないのも頷ける。

 ルークが俺たちのところに来てくれたのも奇跡に近いのかもな。


 アンの身長が低いせいか、俺たちの紙は一番下の端っこに埋れていた。


 真ん中にドーンと貼り直すか。


「あっ……すみません」


 俺が紙を剥がそうと手を伸ばすと、アンよりも五センチほど身長が低い女の子と手が触れてしまった。


 同時に同じ紙を取ろうとしてしまったようだ。


「もしかして、パーティーに入りたい人ですか?」


 女の子は、自身の身長と同じくらいの杖を持ち、全身を覆うような黒いローブを着ていた。

 そして、首元には顔が全部隠れそうなほど大きいフードが付いていた。


「……ぁ、はい! も、もしかして……あなたもですか?」


 おどおどした様子で聞いてきた。


「いえ。俺はパーティーリーダーのタケルというものです。詳しい話はこちらで伺いましょう」


 この娘……魔力が桁違いに多いな。


「は、はい!」


 俺は紙を取り、アンが退屈そうに待つ席へ向かった。


「アン。起きろ」


 幸せそうな顔で寝ていたアンの頬をペチペチする。


「……んぁ。あぁ。だ、だらしないところを、見せちゃった」


「ほんとだよ。あ、すみません。そちらの席にお掛けください」

 

 俺たちのやり取りを見て少し驚いた様子の女の子を、向かいの席に座らせた。


「失礼します……」


 女の子は両手で杖をぎゅっと握りながら座った。


 緊張した様子だな。


「名前と年齢と冒険者ランクを教えてください」


「僕は、シ、シフォンと言います。十六歳です……。ランクはEです」


 小動物のような感じがする。

 シフォンさんね。


「アン。オークの討伐を受注してきてくれ」


「え? う、うん」


 戸惑った様子だが、受付の方に走って行った。


「いきなり魔法を見せてもらいたいんですが、大丈夫でしたか?」


「だ、大丈夫です! でも、その……」


 突然もじもじし始めた。


「なにか?」


「い、いえ! なんでもないです……」


 ほんとに大丈夫かな。

 シフォンさんはずっと俯いていた。


「クエスト受けてきたよ! もう行くの?」


「ああ」


 








「でねでね。タケルさんは私のほっぺたを、むぎぃーって摘んできたの!」


「ふふっ。仲がいいんですね」


 道中、あっという間に打ち解けた二人の後ろをひっそりと歩いていた。


 俺と話してた時は言葉に詰まってたが、アンとは楽しそうに話していた。


「タケルさん。もっとシフォンと話したいから、パーティーに入れてあげてね?」


 それに関しては答えられなかった。

 ルークのような危険な戦い方なんかされたら、流石に厳しいな。


「二人とも。着いたから気を引き締めろ。オークとはいえ油断はするな」


 ギルドを出発する際、気軽に接してほしいと言われたので、アンと同じように接する。


「じゃあ、シフォン。早速魔法を見せてほしい」


 ルークのような魔法戦士ではなく、純粋な魔法使いなので期待ができる。


「楽しみだね!」


 アイはそういうが、シフォンは既に集中しているようだった。


雷槍サンダースピア!」


 数秒間魔力を練り上げ、無詠唱で発動した魔法は中級魔法の雷槍だった。

 すごいな。どれだけの努力でここまでの練度になるんだ。


「次は一つ奥のオークに頼む」


 言葉を聞いたシフォンが小さく頷いた。


雷槍サンダースピア!」


 また雷槍か。威力もなかなかだな。


「じゃあ、その近くの岩に撃ち込んでみてくれ」


雷槍サンダースピア!」


 またまた雷槍か。まさか無詠唱とはな。


「も、もういい。別の魔法を頼む」


雷槍サンダースピア!」


 またまたまた雷槍か。

 もう四回目だぞ。


「シフォン? 他の魔法を使えばタケルさんにアピールできるよ!」


 アンが呼びかけると、杖を強く握ったシフォンがこちらにゆっくりと振り向いた。


「じ、実は、僕、この魔法しか使えないんです……」



 


「「え?」」










「すみません。大事なことなのに黙ってて」


 一旦ギルドへ戻り、シフォンの話を聞くことにした。


「全然いいよ! 私より何倍も強いもん! ね、タケルさん」


「ああ。アンより何倍も強いな」


「ちょっとは否定してよ!」


 膨れっ面で睨んできた。

 先に言ったのはそっちだろ。


「中級魔法の雷槍。それに無詠唱。魔力も相当なもんだろ? どういうことだ?」


「四年ほど前に『漣』の皆様に助けられたことがあって、その時に賢者候補のサラリー様が雷槍で助けて、それがカッコ良くて。だから僕も必死に覚えたんです。やりすぎたせいで、他の魔法を覚えていないんですけど」


 シフォンは自嘲気味に笑った。


 そういうことか。四年前なら、まだあいつらと俺の仲が良かった頃だな。


「良かったな」


「はい! でも、一つ疑問があって」


「なにがあったんだ?」


 俺はシフォンの話を聞きながら隣でうとうとしているアンの頭に軽めのチョップをかましながら、質問をした。


「はい。ほっそりとした男性にお姫様抱っこをされて、とてつもないスピードで近くの街まで運ばれたんです。途中で気絶してしまったので、顔は見ていないんですけど。今でもあの時のことが忘れられなくて……」


 なんか知ってるエピソードだな……。

 俺も傷だらけの少女を未完成の縮地で街まで運んだ記憶があるな。

確かBランククエストのキングリザードから小さな村を守るクエストだったな。

 多分、俺たちがAランクに到達する少し前の話だな。


「そ、そうか。いつか思い出せるといいな」


「はい! そ、それで……僕は、パーティーに入れますか?」


 シフォンは途端に悲しい顔になった。

 アンもこちらをジッと見ていた。


「……ああ。もちろんだ。『一閃』にようこそ。歓迎するよ。そして、オークの報奨金は全てシフォンが受け取って構わない。アンもそれでいいか?」


「いいよ! 私のことをぶったことは許さないけどね!」


「はぁぁ」


 アンの言葉についつい大きめの溜め息がでた。


「ふふふっ」


 それを見て楽しそうに笑うシフォン。


 前途多難だな。

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