第29話 新しい巫女

 あれから俺は特に変わったことはなかった。しいて言うなら、招き猫に会いに来る人が増え、何とかやっていけるくらいになったとミイコが言っていたくらいだ。


「神様、都さん話してこれたんですよね?」

「ああ。一度来るとは言っていたけど、どうなるかはわからないかな……」


 数日が過ぎても都がくる気配が無かった。ただ、あの猫耳で歩いてきたら騒ぎになるとは思うから人間にしっかり化けるか、見えない様にしてから来るほうがいいと思う。


 サブローはというと、あの時怪我が思っていたよりひどかったらしい。直るのは早いみたいナノだけど、ここ数日療養中というのを彦助が伝えに来た。


 お昼時になり、ミイコがご飯を作っている。俺はとりあえず商売繁盛系の願いを淡々と叶えていく。とはいっても一日20件程度なのだが、それでも以前より大分多くなったと思う。


「神様ご飯できましたよ?」

「はーい!」


 俺はそういって、拝殿に向かい招き猫組みを呼びに行く。最近はこれが日々のルーティンの様になっていた。ごはんを食べにテーブルのあるダイニングに向かうとミイコがこちらを見る。


「え……」

「どうした?」


 少し青ざめた様な表情が気になる。


「何かついてる?」

「後ろに憑いてます……」


 なんだろうと後ろを振り向くと目と鼻の先程の距離に都が居た。


「うわぁ!」

「どうしたの?」


「都さん……来るならくるっていってくれよ」

「いったとおもう」


 確かに、都はそのうち行くと言っていた。何となく納得できないのだけど間違ってはいない様に思う。


「声かけてくれたらいいのに……」

「うん」


 都は屋敷で見た時と同じ格好で立っていた。ここに来るまで姿を消していたのかもしれないが、今まで気付かなかったことを考えると多分気付かれてはいないのだろう。


「ところでミイコと都さんは面識あるのか?」

「以前あったことはありますけどそこまで話したことはないです」


「そしたら、あんまりわからないのか」

「でも、まさか都さんがくるなんて……」


 都の事情を知っているなら違和感しかないだろうな。それでも、来てくれたと言うのが俺は嬉しかった。


「ところで都さん、まさか手伝ってくれるとかじゃないよね?」

「あ……」


 彼女は、少しうつむきボソボソと呟いた。


「どうしたの?」

「私が手伝ってもいいの?」


「うん、いいよ」


 俺がそう答えると、彼女は少し笑ったように見えた。でも、ミイコは少し複雑な表情を見せる。


「ミイコ、都さんに教えてあげてよ?」

「わかりました……都さん、少しこちらの部屋に」


 ミイコがそういって居間に案内した。多分何を手伝ってもらうかを話したりするのだろうと思う。


 あの時、都は様子を見ると言っていた。今のこの神社での俺たちの雰囲気を見てもらうことが、彼女にとって何かきっかけになるのではないかと思う。


 ふと、テーブルを見るとミイコが忘れたのだろう。新しいお守りが入っているカゴが置いてあるのがみえる。俺は、忘れているのだと思い、居間にいる彼女に渡しに向かう。


 ガラガラ……


「ちょっと、神様!」


 襖を開けると、ミイコは都を巫女服に着替えさせていた。


「ご、ごめん……お守りを届けようと思っただけなんだ」

「せめてノックしてください!」


 一瞬だけ見えた都の身体には、生々しいほどの傷が見えた。俺は感情を誤魔化そうとして、テンションを上げる。


「まさか着替えてるとは思わないしさー!」


 傷の事は触れない方がいい。

 そう思った。

 だけど、ミイコは遠慮なくそのことに触れた。


「都さん何も言わないけど、見られたくなかったと思うんですけど?」

「み……都さんごめん」


「私こそごめんなさい」

「なんでです?」


「え?」

「今のは完全にあのクソ神の失態ですよ? 都さんが誤る事ではないと思います」


「ちょっと、クソ神ってひどすぎない?」

「多分、見たくなかったんじゃないかと思って」


 都さんはそういって、少しくらい表情を見せた。


「ああ、傷の事?」


 ミイコは遠慮なく聞く。あまりにもストレート過ぎて心配になってくる。都さんはコクリとうなづいた。


「あの人の事だから思っていても『痛そう』とか『大丈夫かな』とかその程度の思考しかないですよ? むしろ裸見れてラッキーくらいじゃないですかね?」

「俺のイメージひどいな!」


 ミイコと俺のやり取りを見ていた都はまた、少し笑ったように見えた。


「あのさ、俺としては都さん的にどうか? の方がきになるよ?」

「私が?」

「仕事したりするの辛くないかなって……体調的に?」


 俺がそういうと、ミイコが都さんを見て言った。


「ね?」


 都はミイコに微笑んだ。


「というか、都さんミイコより遥かに美人だからな?」

「は? 聞き捨てならないんですけど?」


「でも私……」


 そういって、都は眼帯に触れる。


「それもアニオタには要素でしかないと思う!」

「そうなの?」


「そう、だからルックスではミイコの全敗! せいぜい仕事で見せてくれたまえ」


 膨れるミイコをよそに俺はいじり倒した。


「あ、でも猫耳はまずいかも……コスプレに見える」

「隠せますよ」


 そういって隠す都に俺はサムズアップした。





 その日の晩、今日の写真をUPするために内容を考えているとミイコが部屋に入ってきた。


「作業してるにゃ?」

「うん、今日も色々あったなって」


「今日の神様はいつもより自然だったにゃ」

「自然? 俺はいつも自然体だと思うけど?」


「多分、都さんに気が回ってたのにゃ」

「まぁ、一度殺されかけてるしなぁ……でも、いい人だと思うんだよね」


 俺は、そういってパソコンを打つ手を止める。


「殺されかけていい人って、なにか矛盾しているにゃ」

「わかんないかなぁ……」


「それにしても、神様はいつからこんなに面倒見がよくなったのにゃ」

「確かに気付けば大所帯だよなぁ」


 そういえば、最初はミイコと二人だった。気付けばサブローが来て、たこ焼きたちに都さん。確かに大所帯だな。


「そろそろ人間も欲しいにゃね?」

「まぁ俺しかいないからなぁ」


「まだ人間のつもりにゃ?」

「中身はそうだと思ってるんだけど……違うのか?」


 俺がそういうと、ミイコは少し黙って何かを考えている様に見える。


「神様、明後日話があるにゃ……」

「なんだよ、ちょっと怖いんだけど?」


「サブローさんいる時の方がいいと思うから明後日にするだけにゃ」

「何の話だよ?」


「それは秘密にゃ……」


 特にニヤニヤしているわけでなく秘密というミイコが気になった。

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