第27話 猫又のおうち

 猫又に会うと決めた俺は、準備を始める。会えたとして攻撃されたりしたら流石にまずい。そこでもうすでに猫又になっている二人から情報を集める事にした。


「見つける事は出来ると思うのだけど、何かしてくるのか?」

「せやなぁ、恨みに囚われた猫又は人を襲うんや……」


「そんなのが町に居たら目立って仕方ないだろ?」

「本気で動き出したらなぁ……」

「大体はどこかに隠れて居るにゃ」


 サブローやミイコが言うには、猫又になっていたとしても基本的には何処かに隠れているらしい。そういう場所に来た人間などを襲うことはあっても自分からはめったに出ないらしい。


「そしたら居ない可能性も?」

「いや、おるで……1匹だけなぁ」


「サブローさん、みやこのことにゃ?」

「そうや、あいつがおるやろ」


「なんだよ? 二人とも知っているのか?」


 俺がそういうと、二人は顔を見合わせた。サブローはミイコに合図を送ると口を開く。


「あいつはヤバいで」

「攻撃的ってことなのか?」


「それはそうなんやけど、恨みの深さが別格なんや……」


 猫又は人間への恨みから来ると言うのは最初に聞いた。だけど、それが他とは違うとなるとかなり厄介な存在なのかもしれない。


「猫又には普通の恨みじゃなれないにゃ……だけど、わたしみたいに環境的な恨みでなったのと、人為的な恨みでなったのとは違うのにゃ……」


「ちなみにわしは人為的なほうや」


「サブローさんは人為的って」

「その方がの力は強いんや。最近はほとんどないんやけどわしの育った時代は焼け野原でな……人間も余裕が無かったんや」


 それを聞いて、俺は続きを聞くのを躊躇う。というか、サブローは戦時中にはもうすでに生まれていたという事なのだろうか?


「サブローさんってそんなに前から生まれてたんですか?」

「まあなぁ……」


 おばあちゃんが招き猫のモデルと聞いていたからあまり驚きはしなかったが、改めて年季の入ったこの猫の人生というか猫生にゃんせいがきになる。


「せやけど、今の時代人為的に猫又になるなんてそうあるもんやないんや、大体は捨てられたり食べるものが無かったりといったところからなる奴がほとんどや」


「それだとその猫又は……」

「そうや、環境的な奴は呪いや食べ物を盗むくらいで済むんやけど、人為的になった奴は人を襲う。直接手を下すんや……」


 という事はかなり、危険が伴うのか。それと人為的になった奴が神様とはいえ人間のいう事を聞いてくれるのかはかなり希望が薄いだろう。


「せやから、悪いことは言わん。今は何もしてへんねんから会うのはやめた方がええ」

「ほんとに都は危ないにゃ……」


 そう言われて俺は余計に会いたくなった。人間に恨みを持ったままなんて良いわけが無い。


「でも、一度会ってみるよ……」

「会うことで都が人を襲いだすかもしれへん。それでもええんか?」


「そうならない様に頑張るしかないと思う」

「わかった。わしも付いていくわ、暴れた時に止めるくらいはできるやろ」


 都に会いに行くと決め、本を出すとサブローが止める。


「探さんでええ。わしが場所はしっとるさかい」


 なるほど。サブローは少し覚悟を決めた様な目で俺についてくる様に言った。


 前を歩くサブローについていく。小さな町ではあるがはずれの方になるとさすがに遠く感じる。歩いている間彼はほとんど話さなくなり、その雰囲気が都の怖さを物語っている。


 川沿いの道を降りていくと、少し古い民家の立ち並んでいる。ちらほらと新しい家も見えるが昔から住民が住んでいるのかもしれない。そんな中塀の内側に木々が生い茂り、中の家が見えなくなっている所に着くとサブローが足を止めた。


「ここや……」

「いかにもって雰囲気の所だな……」


「もう一回聞くけど、ええんか?」

「ああ、サブローはやっぱり反対なのか?」


「神さんの決めた事には逆らうつもりはないねんけど、気はのらへんなぁ……」

「そっか。なんか付き合わせて悪い」


「ええんや、今までしてきた事を考えて付いて来たんや。せやから信じてるで神さん!」


 足を止め、大きく息を吸う。まるで妖怪退治にでも行くような雰囲気だ。妖怪退治にきているのか? いや、退治するんじゃない。


 門にて手をかけ中に入ると、少し奥に古年季の入った縁側のある家が顔を出した。


「なんか文豪でも住んでいそうだ……」

「一応廃屋のはずなんやけどなぁ……」


 だが、特に何かの気配があるわけではない。もしかしてどこかに行っているのだろうか?


「誰もいなさそうなんだけど」

「いや、おるで……」


 サブローがそういうと、声が響いた。


「サブローさん、何しに来たの?」

「おう、都。猫神さま連れてきたんや……」


「猫神さま?」

「そうや、お前にちょっと協力してほしいことがあるんやけど……」


「なに?」


 サブローは言葉に詰まってしまう。彼にだけ任せるわけにはいかない。自分で伝えなくてはいけない事なのは分かっている。


「すみません、神社の手伝いをしてほしいんです」


 勇気を出して、言葉にした。


「神社……なぜ? 神様は……人間?」

「今は微妙なところだけど、元々は人間だ……」


「神さん!」


 サブローは叫びながら、俺を押し倒した。


「痛っ……サブローさん、急になんだよ」


 そういってサブローを見ると、何処か怪我をしている様に見える。


「どうしたんだよ?」


 彼は、屋敷の方を見つけて叫ぶ。


「都! お前なにやっとんや!」

「サブローさんもなんでそんな奴を庇うの?」


「だから、神さんや言うとるやろ!」

「でも……人間……」


「そんなんいうて、お前も人化しとるやんけ……」


 屋敷の前に眼帯を付け着物を着た少女の姿があった。髪は長く、肌は不健康を通り越して神秘的ななほどに白い。何よりギザギザの猫耳が付いている。


「これが……都さん?」


 彼女の恐ろしくも綺麗な立ち姿に目を奪われた。

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