第26話 招き猫事業
『神の古典』
その本の事を俺はそう名付けた。アナログのグーグル先生の様なその本は、この街の事であれば何でも教えてくれる。すごいのか、すごくないのか。でも誰かが書いたわけではない正しい情報が記載されると言うのはすごい事なのだろう。
俺は、その本を使い、街の野良猫として生きてはいけない猫たちを探してみる。生きていけないと言うのは曖昧な表現なのだが、それでも神の古典は1匹の猫を記した。
たこ焼き……たこ焼き? これ、猫の名前なのか?
「ミイコ、勝手に文字が出てきたのだけど……」
「そうにゃ、その猫の名前で呼び出すといいにゃ!」
「名前を叫べばいいのか?」
「その本に触れて、念じてみるにゃ」
彼女にそういわれ、俺は本に手を当てる。猫の名前を思い浮かべると頭の中にイメージが浮かぶ。
たこ焼きはひ弱そうな八割れの猫が浮かぶ。
「白黒の猫がみえる……」
「そしたらその子に話しかけてみるにゃ」
「えっと……元気ですか?」
すると、たこ焼きは驚いたように周りを見渡す。多分声が届いているのだろう。
「周りにはいないです。猫神と言えばわかりますか?」
「え、神様でやんすか?」
変なしゃべり方のたこ焼きは、何となく納得した様に見える。
「たこ焼きさん、困ってますよね?」
「はい、以前はごはんをくれるお店があったやんすが、つぶれてしまったでやんす」
「それで、今は……」
「ご飯を探しているんでやんすが、なかなかきびしいのでやんすよ……」
なるほど、捨て猫というわけではないのか。だが確かに、今まで餌をくれていたところが無くなってしまい路頭に迷うと言うのはあるのかもしれない。
「よかったら、うちの神社で働かないですか?」
「……いいんでやんすか?」
「少し大変かもしれないですけど……」
「ご飯がたべれるならなんでもいいでやんすよ!」
そういうと、たこ焼きは走り出した。多分神社に向かっているのだろうと、俺は本から手を離すと本に記載されていた文字がきれいに消えていくのが見えた。
「再利用可……なんてエコなシステム」
「それはそういうものですにゃ」
しばらくして、たこ焼きが神社に姿を現した。
「すみません、呼ばれてきたんでやんすー」
「本当に来た!」
俺は、少し驚いたが神様の能力自体なんでもありなのを見てきて慣れていた。
「ようこそ、たこ焼きくん!」
そういうとミイコが俺の裾を叩く。
「なんだよ、ミイコ……」
「あの子、雌猫にゃ、君付けは失礼すぎるにゃ」
猫の状態で、雄か雌かなんてわかるわけないだろ。それに雌猫にたこ焼きってどんなセンスしているんだよ。
「あー、なんか申し訳ないでやんす……」
「すみません……」
「それで、自分は何をすればご飯が食べれるでやんすか?」
「招き猫をしてもらいたいんだ」
俺がそう言うと、たこ焼きは驚いた顔をして、前足を片方耳に当てた。
「招き猫って、こういうやつでやんす?」
「そうそう、そうやって参拝しに来る人にしてもらえたら十分だよ」
そういう事ならと彼女は意外とノリノリで体をくねらせた。
「神様、あれでいいでのですかにゃ?」
「うん、そうやって参拝客も増えれば一石二鳥だろ?」
それから、本を使い猫を増やした。サブローが引率力を発揮し計4匹の招き猫部隊が結成されることになった。
それから数日が立ち、神社の招き猫は近隣で噂になり始め、商売繁盛のご利益を求め参拝客が以前の2倍ほど来るようになる。俺も願いを叶える事に慣れてきたのか少しづつスピーディに叶えられる様になっていた。
「神様、順調に人気が出てきていますにゃ!」
「ミイコも大変だよな……」
「仕方ないですにゃ、招き猫は普通の猫でも問題にゃいですけど、巫女はしっかりと人化出来る猫じゃにゃいと無理ですにゃ」
そう、普通の猫は集まるのだけど、人化出来る猫又はそうそう居ない。ミイコ一人で巫女の対応をしなくてはいけないのだ。
「あのさ……猫又ってどうやったらなれるんだ?」
俺の知る限り、長い事生きている必要はありそうなのだが、ミイコはそれほど長寿には見えない。もしかしたら見えないだけなのかもしれないのだけど。
「猫又は……きっかけがあるんですにゃ……」
「きっかけ? それってどんな?」
「それは……人に恨みをもつことですにゃ……」
「え。人に恨みって……そしたらミイコもサブローも?」
「そうですにゃ。ただ、私たちは恨みを消化して現在に至っているの大丈夫にゃのですが、本来猫又は恨みが強く退治される運命にあるのですにゃ……」
「退治って、そしたらこの街にもいるのか?」
「まだ、陰陽師が来ていないのならいる可能性はありますにゃね……」
猫又にそんなルールがあったとは知らなかった。サブローもミイコもどう見ても普通にエリート猫みたいなイメージだったから、そんな過去があったなんて。
「そしたら、猫又に会いに行こう!」
「神様、正気ですにゃ?」
「うん、人間に恨みを持ったままなんてそんなの悲しいだろ?」
「それでも……」
ミイコは何かを言おうとして飲み込んだ。サブローの変化を見る限り、すごい力を持っているのは間違いないと思う。だけど、そんなのがこの街に居るのは危険というより悲しすぎると思った。
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