第25話 居候キャラではありません

 招き猫作戦は、大成功……とまではいかないもののサブローの姿を見たいという人が来た。商売繁盛に絞ったことは悪くないかもしれない。


パンッ

パンッ


"お店の売り上げが上がりますように……"

"商売が軌道に乗りますように……"

"もっとたくさんの人に食べてもらえますように……"

"重版してもらえますように……"


 商売繁盛と、今までとは違いかなり絞り込んだ内容にも関わらず、それでも願いの種類は十人十色、だがそれまでと確実に変わったことがある。


 願いに来る人の目的がはっきりしているので小さくても叶えやすいのだ。


 雑誌や新聞記者の探している人に見つけてもらえる様にしたり、インフルエンサーが立ち寄るきっかけを作ってみたり、些細な事なのかもしれないが確実に少しは願いが叶えられる。沢山の人の願いを叶える工夫はこういうところにあった。


「神さん、最近結構忙しなったんちゃうか?」

「平日でもちらほら来るようになりましたよね~」


「でも、流石に招き猫ずっとやるのはしんどいなぁ……」


 サブローは小さい声で漏らした。招き猫を始めてサブローに負担をかけているのは間違いない。今まで自由奔放に過ごしていたサブローにとっては制限以外の何物でもなかった。


「サブローさん、ありがとね……」

「いや、ええんやで。これで安心して食っていけるんやったら」


「でも、何かうまい事考えないといけないとは思う」

「わしも考えてくれたら助かるけどなぁ……」


「そういえば、神様の猫を呼べる能力って直接会ったことが無いとだめなんですか?」

「そういうわけじゃないとは思うけど、会ってへんかったら誰を呼ぶんかわからへんからちゃうか?」


「じゃあ、写真とかでも大丈夫なのかな?」

「絶対とは言われへんけどなぁ、写真でも分かれば大丈夫やと思うで?」


 俺は、サブローの代打……というわけではないが、神社にもっと猫がいてもいいのではないかと思っていた。


「まぁ、神さんの思うようにしてみたらええんちゃうか? 間違うとか、正解とかそんなんは結果論や。やってみいひん事にはなんもあらへんで」

「サブローさんは時々いい事を言う……」


「時々ってなんやねん。名言しか言わへんわ」


 その晩、ミイコにも少し相談をしてみる事にした。最近のミイコは財政難がましになったせいか以前より少し丸くなった様な気もする。だが、どう展開するにしても彼女の協力が必要になる。


 食器を片付け、居間に帰ってきたミイコに話を振った。


「あのさ、サブローさんの件なんだけどさ」

「どうしたにゃ? もしかして招き猫が嫌になったとかにゃーか?」


「嫌というわけではないみたいなんだけど、流石に一人でずっとさせるわけにはいかないなって思っていてさ」

「にゃるほど。それで、神様はにゃにか考えているにゃ?」


「招き猫をやってくれる猫を増やしたいんだ。それで、ローテーションすればサブローさんも毎日来る必要はなくなるんじゃないかって」

「ふむふむ」


「それに、他の猫にもファンが付けばさらに来るだろ?」

「確かにそれはいい案にゃね」


「それで……できれば野良猫になり切れない様な子たちを呼びたいんだけど」

「なりきれにゃい? 家が無い時点で野良猫は野良猫にゃよ?」


 それは送なのだけど……上手く伝わらない感じがもやもやする。


「神様は忘れてないにゃあか?」

「何を?」


「ふつうの猫に猫神や猫又だらけの所は精神的に良くないにゃ……」

「それなんだけどさ……1匹じゃなければ気にならないんじゃないかな?」


 そういうとミイコは、目を丸くし虹彩を広げた。


「何匹呼ぶきなのにゃ?」

「いやさ、前はお金もなかったからどうしても1匹2匹のイメージしかできなかったわけだろ?」


「今は入る見込みがあるから……って事にゃ?」

「そう。あれから考えたんだけど、タマみたいになんだかんだで本人が納得できる形ってほとんどないと思うんだよ」


 俺は、タマの件のもやもやを引きずっていた。あの時は自分の中でも納得したのだけど、考えていくうちに本当に捨てられる猫はこの街にどれくらいいるのだろうと思った。そしてそれは、徐々に胸の中で大きくなり、どうにかしたいと思うようになった。


「神様、そんなに考える人だったかにゃ?」


 そういったミイコは、どこか嬉しそうにも見え少なからず理解はしてくれているのだろうと思う。


「それなら、ちょっと待って居るにゃ!」


 ミイコはそういうと、別の部屋にある物置の様な所に行き、何やら漆を塗られた高そうな木の箱を持ってくると俺の目の前に置く。


「これは……?」

「ふふん。神様の秘密道具みたいなものにゃ!」


「秘密道具って、なんかドラ〇もんみたいだな……まぁ確かにドラ〇もんも猫? いやタヌキか」

「猫にゃ……」


 その箱を開けると、少し古ぼけた本が出てくる。ほかにも人形や、手紙の様なものと色々なものが入っていた。


「今回は、この本を使います!」

「本? また、難しい字で書いてあるんじゃないだろうな……」


「ご心配なく、神様のちっちゃい脳みそでも分かる様に自分の知っている言葉になりますにゃ」

「……」


「他の道具はなんなんだ?」

「にゃ? 使うときでいいにゃ。でもこの人形はすぐ使えるから持っておくといいにゃ」


 ミイコはそういって、人型の人形をを俺に渡した。


「これを神棚に置いておくと柏手が来ても転送されないにゃ!」

「なんでもっと早くくれなかったんだよ!」


「だって、神さまが願いを大切にするかはわからなかったにゃ」


 それを聞いてハッとした。確かに普通に外に出れていたなら好きな事をし始める可能性もあったかもしれない。願いを叶えず、バイトなんかを始めだしたらとりあえずは生活していく事が出来る。ミイコはそういう事も懸念して今までこれらを出さなかったのだ。


「それはさておき、この本の事にゃのですが、探したいものをリスト化してくれる本にゃ」

「どういう事?」


「もし、神様がこの街のCカップ以下の女の子を探したいとすると、それをこの専用の筆で書けば自然にその子たちの情報が出て来るにゃ!」

「なるほど、それは便利ってなんで俺がそんな条件で探すんだよ!」


「あれ? おっぱいはサイズより形と言っていなかったにゃ?」

「いやいや、いつ言ったんだよ! それはそうと、めちゃくちゃ便利そうじゃないか!」


「これを使えば、神様の探したい猫も探せますにゃ!」


 それを聞いて俺は、早速その本を試してみる事にした。

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