第24話 おばあちゃんは招き猫

 議論は夕方過ぎまで白熱し、結果的に何を売りにしていくのかは、纏まらなかった。理由はそれぞれが好き放題に発言する、誰一人纏める気がないのだ。


 まぁ、猫だから仕方がないのかもしれないのだけど。


「こんばんは!」


 人が来ていたことは分かっていた。ただ、顔見知りの人というのが分かっていた事も有り、あえて声を掛けらえてから出る事にした。この人はお世話になっているパソコンをくれたリサイクルショップのおじさんだった。


「お久しぶりです~」


 俺は顔を見て挨拶をする。初めて来た時とは違い血色がよく、お店も上手く言っているのだろうと思う。


「いやぁ、あの時はお世話になりました。うちの子も少し大きくなってきていますよ!」


 そう、以前捨て猫を拾ってくれたのもこの人だった。


「そういえば、宣伝上手く行ってます?」

「以前よりはマシになったと思うのですけど……」


 俺はそういって、おじさんに売り出し方を絞るという話になっていると話す。おじさんんはしばらく傾聴すると、笑顔になった。


「なるほど、絞るのは良いかもしれませんね。神社といっても何をお願いすればいいのか知らないことには行きづらいですから」

「でも、なかなか決まらなくて……」


「そこはしっかり考えないといけないですからね。そうそう、まだ再開して間もないので大した額ではないですが……」

 

 そういうとおじさんは、"玉串代"と書かれたのし袋を取り出した。


「調べたら初穂料という方が近いのかもしれませんけど……」


 俺はあまりルールがよくわからないので、ミイコの方を見る。すると慌てたようにミイコは用意し始めた。


「あの……お守りですか、お札ですか? それとも祈祷致しましょうか?」

「いえいえ、私としてはもう恩恵は頂いていますので寄付させていただきたいのです」


 そういうと、のし袋をミイコに手渡した。ミイコは少し困りながらも、やはりうちの神社の財政は苦しいのだろうそっと巫女服の懐に直す。そしてどこかから紙垂しでをつけた榊を持ってくるとおじさんに手渡した。


「そうしましたら形だけでも玉串をお供えくださいませ」

「承知しました」


 おじさんはそういうと、玉串を回し茎を神棚にむけ置いた。


「ミイコ、これってなんか意味はあるのか?」

「神様にお供えをするのを形式的に行っているのです」


「でも榊なんかいらないのだけど……」

「神様、榊は器です、紙垂がお供え物になります」


「この紙が……どちらにしてもいらないのだけど」

「本来はお米などをお供えするのですが、次第に餅になりさらに紙垂に変わったと言われています」


 なるほど、やはりまだまだ知らないことは沢山あるのだなと思いながら、その様子を見ていた。


「ありがとうございます、また繁盛したらお礼をさせていただきますね」

「それまでうちも繁盛しておかないとですね……」


 おじさんが帰ると、ミイコは俺の袖を引っ張った。


「神様……ヤバいです……」

「どうしたの?」


「お金が……」

「今もらったんじゃないのか?」


「10万円も入っている……」


 その瞬間3人は固まった。数百円ですら貴重な財政の中見たこともない金額。社会人の時には何となく使っていた額なのだがこの1ヶ月毎日の様に金欠を聞いていただけに驚いた。


「神さん、これは決まったんちゃうか?」


 サブローは意気揚々と言う。いったい何が決まったと言うのだろうか?


「商売繁盛や! 招き猫やるで!」


 招き猫と聞いて、サブローを見るとどう見ても招き猫に向いているフォルムをしている。三毛猫でふっくらとしたボディ。関西弁なのもお金が入って来そうな雰囲気を出している。たとえしゃべらないにしても招き猫にはもってこいではないだろうか?


「サブローさんやってくれるんですか?」

「え……なんでわしなんや?」


「いや、今招き猫やるでって言いましたよね?」

「まぁ言うたけど、もっと向いている奴がおるんちゃうか?」


 サブローはそういってミイコを見る。猫に戻ったミイコは上品で綺麗な白い毛並みが煌びやかに光っている。だけど、そのスリムな体は逆に貧乏にも見えなくはない。


「どう考えてもサブローさんの方が向いているのだけど。というかモデルでしょ?」

「出来たのは江戸時代や……、うちのばあちゃんが自分の姿を人形にしたら福徳を授かるというてモデルに作ってもらったのが招き猫やからわしちゃうねん」


「ちょっとまって、おばあちゃんってサブローさんのおばあちゃん?」

「そうやで、どうかしたんかいな?」


「いや、直系の子孫だったらサブローさんしかいないじゃないですか!」

「そんなもんかいな……」


 どこか納得いかない雰囲気はあるものの、仕方がないなという感じにうなづいた。サブローの独特の三毛模様は招き猫の血をひいていたからなのか……そしたらサブローはいったい何歳なんだ?


 それから、ミイコと俺はサブローをモデルにするために準備を始めた。赤い首輪に緑の布を揃え小判のオブジェも用意する。それからデジカメで片手をあげたサブローを撮ってトゥイッターに載せた。


『商売繁盛の猫神神社へ』


 何となく載せたサブローの写真は注目されるのは時間の問題だった。

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