第22話 お隣さん
縁側に座り、外を見ている。暖かくなり、日陰で過ごすのがちょうどいい。タマの連絡をもらってからはサブローは神社に来なくなった。
「神様、やっぱり気にしているんですかにゃ?」
「そういうわけじゃないよ。自分でもタマの件はあれがベストだと思う」
そう、たとえあの時神の力が使えたとしても、力を使い解決するのは二人の思いを否定している様にも思えただろう。
「わたしもそう思いますにゃよ?」
「うん……でも、ベストなのと自分の気持ちがすっきりするのはまた違うんだろうな」
無力感ではない。かといって達成感でもない様なもやもやが残っていた。
「気分転換でもしてみますかにゃ?」
「そんな気分じゃないよ……」
「そうですかにゃ……仕方ないですにゃね」
ミイコはそういって、拝殿正面の方に向かった。最近は参拝や、お守りを買いに来る人もちらほらいたため、ミイコも気分転換をしたかったのかもしれないと思う。そう考えるとちょっと悪い事してしまったと後悔した。
あまり気が乗らない中、パソコンを開く。おじさんが言ったように、猫を載せたトゥイッターは参拝客に繋がっている様な気がしている。日々の更新が大切なのだが、ここ数日は写真のストックが尽きてしまって更新が出来なかった。
「何か写真をとらないとな……」
デジカメを持って、写真を回す。サブローの写真が何枚か顔を出し、あいつは最近どうしているのかと気になっていると、境内の方に不思議な気配を感じた。
「参拝客、ではなさそうだから猫……かな?」
俺は、拝殿に向かう。相手が猫なら姿を見せなくても見えるだろう。そう考え、出てみたものの底に居たのは中学生くらいの女の子だった。
「おかしいな……人だったのか? それとも、ミイコの様に人化しているだけか?」
姿を現してはいないのにこちらを見ている。やはり、普通の人間ではないのだろう。するとこちらの方にゆっくりと歩いてくると、あと3歩くらいの所で止まった。
「お主が猫神かの?」
そういった彼女は、黒い髪をたなびかせ、風を伝ってどこか草原のような香りがする。服装は着物を崩した様な服を着ていた。
「もしかして、猫ですか?」
俺がそういうと、彼女は少し驚いたような顔をしていった。
「妾が猫? お主は他の神には会った事が無いようじゃの?」
他の神、という事は俺と同じどこかの神様なのか?
「えっと、神様なんですか?」
「いかにも、妾はカヤノと申して、隣町の神じゃ……」
「その、カヤノさんはどうしてここに?」
「最近猫神が遊びにこないから来てみたのじゃ」
「えっと、遊びに行っていたんですか?」
「まぁ、交代したのなら仕方があるまいて……」
カヤノは、手に持っていた風呂敷を置いて、なかから小さなタッパーを取り出す。神様のはずなのだが、生活感あふれる持ち物に親近感がわいた。
「お土産じゃ……」
そういって彼女はタッパーを渡す。中は少し懐かしい変な匂いがする。
「これはなんですか?」
「何って、漬物に決まっておるじゃろ?」
なんで漬物に決まっているのかはよくわかないが、手作りの漬物というのはご飯のおともによさそうだなと思う。
「もしかして……漬物の神様なんですか?」
「少し違うかの、植物の神と言えばわかりやすいじゃろ、漬物は神事で漬けられたものをおすそわけじゃよ」
植物の神、八百万の神々とは聞くものの、まさか植物の神までいるとは思わなかった。だけど、猫神がいるのだからいてもおかしくは無いなと勝手に納得した。
「漬物ありがとうございます、でもうちは返すものが何もないのですが……」
「何を言っておるのじゃ、お主は猫神であろう」
「そうですけど……」
「妾は猫をモフモフするのが好きじゃぞ?」
カヤノは、そういって手をわしゃわしゃする。もしかして猫を呼べと言っているのだろうか?
「猫を読んだらいいですか?」
「ふぉ! 呼んでくれるのかの?」
「まだ、呼んだことは無いんですけど、聞いた話だと呼べるみたいなのでこの機会に試してみようかなと……」
「ほうほう……」
この神様は猫好きなのだろう、期待しているのか少し涎も出ている様に見える。食べるわけじゃないよな……と少し不安を抱きながら猫を呼んでみることにした。
「ねこねこねこねここいこいこいこーい!」
勇気を出してみたものの呼び方を知らないためか、あたりが静まり返る。
「そ、それで猫はいつ来るのじゃ?」
「えっと……いつ来るんですかね……?」
もしかして呼んだら来るものじゃないのかな? 個別で呼んでみようか……。
「ミイコー! サブロー! 彦にゃーん!」
「神様、どうしたんですかにゃ?」
「うぉっ! 来た!」
「まぁ、声が聞こえる所に居たにょで……」
「ふぉ! 白猫ちゃんじゃ!」
カヤノはミイコを捕まえモフり出した。
「カヤノ姫さま来られてたんですかにゃ~!」
「そうじゃ~久しぶりじゃのう~!」
どうやら、カヤノとミイコは知り合いの様子で仲がいいみたいだ。
「ミイコ、漬物をもってきておるから食べすぎに注意するんじゃぞ!」
猫に漬物って大丈夫なのか……
「ところで、カヤノ姫さまはどうしてきたんだにゃ?」
「猫神の様子を見に来たと言うのが目的なのじゃが……」
カヤノはそこまで言うと、何か他にもあるような素振りを見せた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます