第15話 おじさんと猫とおじさん猫
トゥイッターの投稿を始めたが、特に変化は訪れなかった。初日から変わることは無いのだろうが、少し期待していただけにガッカリした。
だけどここでくじけるわけにはいかない、ミイコの予定だとあと6日で資金は尽きてしまう。おじさんが寄付してくれると言っていたがもう少し先の話になるだろう。俺は焼け石に水という言葉に取り憑かれながらもデジカメをもって境内を歩き回る。
すると、椅子の上に大きな丸いモフモフがあった。この三毛模様はサブローだ。
「サブローさん何してるんですか?」
「……」
「あの……サブローさん?」
「……なんやの?」
暖かい日向で寝ていたのだろう。サブローは眠りを邪魔されて少し機嫌が悪くなっている。
「猫の昼寝を邪魔するのは重罪やで?」
「いや、昼寝は誰でも邪魔されたくはないですけど……」
「ちゃうやん、日向で寝るのは猫の特権やんけ!」
「いやいや、俺も日向で昼寝したいわ!」
と、謎の昼寝戦争が勃発する。しばらくして、双方が落ち着くと俺はベンチに座った。
「はぁ~疲れた」
「わしもや……」
「そういえばサブローさんは、結構前からここに来てるんですか?」
「まぁ、大阪うまれやからなぁ……せやけど、ミイコが子猫の時くらいからはこの街に来てたで?」
「じゃあ、先代の神様も知っているのか……」
「なんや、きになっとるんかいな?」
そもそもサブローはもともぶすっとした顔なのだが。サブローはぶすっとした顔でつぶやいた。
「ミイコがさ、結構憧れてそうなんですよねぇ……」
「まぁ、あいつを拾ってきたんが先代やからなぁ、なんか思うところでもあるんやろ」
もしかして、あの時子猫を拾う事を気にかけていたのはそのせいなのかわからないが、余計に先代の神様が気になってくる。
「その人ってどんな人だったんですか?」
「まぁ、あんさんよりは真面目で落ち着いたかんじやったなぁ。昼寝で言い合いになることはまずないで?」
「なるほど、落ち着いた感じの人格者なのかな?」
「先代がどうか? というよりは今の神さんが特殊やとわしはおもうけどなぁ」
「俺がですか? そうかなぁ……」
「なんか、わしらと近いっちゅうか目線がいっしょというか……」
サブローは少し頭を悩ませたように頭を掻いた。その姿をみて俺は、そりゃそうだと思った。なんせ元サラリーマンの神様なんて一般目線どころじゃないだろう。
「神さん猫なんちゃうか?」
「うーん、なるほど……前世が猫だったのかもしれないね……」
「まぁ、世の中は縁やからなぁ……でも、ミイコが先代の事をしたってたんは間違いないで」
「やっぱり……」
新しい上司が来たらそりゃ比較するのは仕方が無いか。
「でも、案外神さんの事も好きやと思うで?」
「そうかなぁ、いつも嫌味を言うイメージなんだけど」
「あれ? 忘れとるんちゃうか? 猫は基本的にはツンデレや」
「たしかに……」
「まぁ、ためしにミイコの横で膝をトントンしてみたらええんちゃうか?」
そういうとサブローはニンマリと笑った。そんなサブローををみて、いると昔児童書で読んだトラ猫を思い出す。あの本だと勘違いから名前がついていたけど……。
「ありがとう。ところでサブローさんはなんでサブローなの?」
「なんか難しい哲学書みたいなこといいはるなぁ……三男やからや」
「えー、おもんなっ!」
「おもんないうなや、それと関西弁へたくそすぎるわ……」
ほかにも聞きたいことはあったが、まだまだ昼寝したそうな顔をしているのでその場を去ることにした。だが、とりあえずサブローの写真を1枚撮っておいた。
「このままだと、神社の宣伝予定が猫垢になってしまうな……」
おじさんと猫の写真とおじさん猫の写真。どこか脂ぎってそうな響きなのだが、意外と写真自体はかわいらしいモフモフ感のあるものだ。
パソコンに写真を移し、記載文を考えているとミイコが入ってくる。いつも通り静かに見回りでもしている様な動きをしている。俺は、さっき言っていたサブローの言葉を思い出し、ミイコにむかって膝をトントンしてみた。
その瞬間、ミイコの動きが止まる。どこか様子をうかがっている様にも見えるので、もう一度俺は膝を叩く。するとミイコは近づいてきて首を当てた。もう、こうなってくるとただの猫だなと、心の中で笑いながらパソコンを続ける。
すると、ちょうど胡坐をかいている真ん中あたりによいしょと腰をかけるとそのまま伏せて丸くなった。少し撫で、投稿をすすめた。もっと面白い写真は撮れないものだろうか?
白い塊をみて、正月になったら鏡餅にでもしてやろうかと考える。その頃までにはもう少し仲良くなれているといいなと思う。そんなことを考えているとミイコが口をひらいた。
「わたしは神様の事嫌いじゃないですにゃあよ……」
そこは好きって言えよ。と思ったが、サブローが言っていたように基本的にツンデレの猫だからそのあたりはあきらめた方がいいのかもしれないなと思った。
気が付くと、日が沈み空が茜色に染まっているのが見えた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます