第14話 ひとりぼっち×2
「にゃーん」
俺は、猫の言葉が分かる……それは、自然に聞こえてくるというのに近いのかもしれない。ミイコやサブローも、そしてこの子猫でさえも……。
「……という事はだ……」
「神様、さっきから何をボソボソとつぶやいているのですか?」
「いま、この子"にゃーん"って鳴いたんだよ!」
「それは猫ですが当たり前だと思うのですが?」
ミイコは相変わらず、辛辣な口調で返してくる。
「いやいや、俺は猫の言葉が分かるのに"にゃーん"って聞こえるってことは"にゃーん"って言ってるってことなんだぞ!」
「もう、さっきからにゃーにゃーうるさいですよ?」
なんでわかってくれないのかと思いながらもやもやする。
「でも、あのおじさんが適正なのであればお願いもしやすいですね」
「たしかになぁ……初対面でいきなりこの子を飼ってくれとは頼みづらいよな」
「でも、これから同じような事が有ったらどうするんです?」
「もちろん、飼い主をさがすけど?」
ミイコは立ち止まると、柔らかい表情で笑う。
「意外と神様は優しいのですね!」
「はぁ? 俺はいつも優しいんだよ!」
「前言撤回します」
「するなよ……」
しばらくして、おじさんの家が見えてくる。前に止まっているトラックが家にいることを物語っていた。どうやらスムーズにいきそうだな。
門の前に付くと、中を覗く。すると、抱えていた子猫は俺の手を離れ中に入っていった。
「ちょっと待て待て待て!」
俺たちも追いかけて中に入ると、玄関でおじさんの姿が見えた。
「あれ? 僕に用事かい?」
そう言ったおじさんの膝の上には子猫が座っていた。
「あの……」
「この子かい? 今、入ってきたんだけど、どこの猫だろう?」
「えっと……」
「野良猫にしては、綺麗で血統もよさそうだね」
「あの……今、その子の飼い主を探してまして……」
そういうと、おじさんは子猫を抱き上げる。
「そっか……お前も独りぼっちなんだな……」
「にゃーん!」
「そうかそうか……」
子猫を撫でるおじさんは、哀愁が漂いどこか切ないような温かい様な、優しい表情で見つめていた。
「あの……」
「この猫、まだ飼い主が決まっていないのなら僕にいただけないかな?」
「え、あ……」
「もちろん、大切に育てようとおもっているよ?」
「構いませんけど……」
というより、元々そのつもり出来ているので大歓迎なのだが、話がうまくいきすぎて少し戸惑っていた。神の力はなんだかんだですごいなと、改めて関心していた。
「それで、飼っていただけるのはありがたいのですけど、一つお願なのですが……」
俺はそこで、由美ちゃんが見に来たいと言っていたことを伝えると、快く了承してもらえた。
「そうそう、SNSのほうは上手くいっているのかい?」
「いえ、まだアカウントを作ったくらいで、カメラもないので……」
「なるほど、それならデジカメもプレゼントするよ!」
「それは申し訳ないですよ……」
「いや、正直なところ古いデジカメはネットでも売れなくてね、使ってもらえる人がいたらあげようとおもっていたからいいんだよ」
スマートフォンの普及で、スペックの低い昔のデジタルカメラは売れなくなっているのかもしれない。付属のカメラより画質が悪いものを使おうとは確かに思わないよな。
おじさんから、有難くデジタルカメラをもらうと子猫を抱くおじさんの写真を撮る。
「これ、最初の投稿にしてもいいですか?」
「いいけど、はずかしいなぁ……」
神社の公式になるわけだが、こうやって願いを通じて出会った人との写真を載せていけたらいいなと思った。
「まだちょっと言うのは早いのかもしれないけれど、お店をまた開くことができそうなんだ」
「もうですか? おめでとうございます!」
「これも君たちのおかげだよ……」
「いえ、おじさんが頑張ったからですよ」
「看板娘も出来たことだし、準備をがんばらなきゃな!」
おじさんは照れ臭そうに、そう言うと準備に戻った。後ろをついていく子猫がどこか愛らしく見えたので、声を掛けるとしっぽを振ってこたえてくれた。
帰り道にミイコはどこか嬉しそうな表情をしている。
「ミイコ、そんなに嬉しかったのか?」
「当り前ですよ! 世界にはどれだけの子猫が見つけられずに死んでいると思っているんですか?」
「急に重いはなしするなよ?」
「それも、あるんですけど何となく神様らしくなってきたのかと思いまして」
「どちらかといえば便利屋みたいな感じの事しかしていないけどな」
「それもそうですね。でも、現在の神様はそれでいいんじゃないですかね?」
「現在の? まあ、時代は常に変わっているからなぁ」
「ふと思い出しちゃいました」
夕焼けの空を見ながらそういったミイコは、どこか憧れの様なものを感じた。彼女が思い出した戸いったのは、もしかしたら先代の神様の事なのかもしれない。
自分自身、先代にはあったことが無い。
入れ違いになったのだから仕方のないことかもしれないし、もし引退することで社会復帰するのなら、新しい神様は知らない方がいいのだろう。
でも、このいつも辛辣なミイコか憧れている様な人なのだとしたら、一度会ってみたいなと思った。
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