第16話 白猫の秘密☆
えーっと……トゥイッターでバズるためにはっと……。なるほど、フォロアーを増やしたりハッシュタグを付けていくんだな……。どんなのがウケているんだろうか?
ネットサーフフィンに夢中になってパソコンをしていたせいか、時計を見ると昼の1時を回っていた。サラリーマンのころからそうなのだが、こういう作業をすると夢中になってしまうのは悪い癖だ。
普段なら12時を過ぎたあたりにミイコがご飯を用意してくれている。だが、猫は気分屋だ。時々カップラーメンだけを置いてどこかに消えている事がしばしばある。
なんだよ、今日はミイコはどこかに行っているのか。
置いてあるカップラーメンを探して台所に向かうと、テーブルの隙間から白い毛が見えていた。
「あれ? ミイコいたのかよ?」
声を掛けても反応する様子が無い。もしかして珍しく寝ているのだろうか?
「ちょっと、ミイコ……」
白いモフモフに近づいてみると、他の色が飛び出してきた。
「なんだ、サブローさんかよ……」
俺がそういうと、モフモフが動き出しこちらを見る。
「なんやってなんやねん、おったらあかんのかいな?」
「別にいいですけど……」
案の定、テーブルにはカップラーメンが置いてあり、炊飯器を見るとご飯が炊けているのが分かる。
「ちょっと、ご飯を食べようと思ってるんですけど……」
俺がそういうと、サブローは隣の椅子に乗りかかった。
「ほう……カップラーメンかいな?」
「なに? サブローさんも食べたいんですか?」
そういうと、サブローは炊飯器に目をやる。
「わしは、冷えたスープをご飯にかけたのがええなぁ……」
「なにその猫まんま……」
「ようみてみい、猫やがな?」
サブローの言う通り、彼は猫だ。猫が猫まんまを食べることに何の違和感もない。とりあえずそれをスルーして俺はポットにお湯を入れた。
「あー、神さん? ご飯入れて冷やしといてほしいんやけど?」
「どうせ猫舌だからとかいうんでしょ?」
「ようみてみい……猫やがな?」
サブローは気に入ったネタを何回もやりたがる。おっさんだからそれは仕方のない事なのかもしれないが、こういう時はちょっとめんどくさい。さらには三回目に何も言わないとキレだすと言うのも最近理解してきた。
お湯を入れ、しばらくして俺はラーメンを食べ始めた。隣の席ではサブローがゴロゴロ言っている。これは触れたら負けだ。つっこんだらどうせもう一回言う気なんだ。
無視してラーメンをすすっていると、ゴロゴロ言いながら少し近づいてきている。そろそろ言わないと後がめんどくさいので、仕方なく言おうとすると、先にサブローがしびれを切らした。
「ようみてみい……猫やがな?」
「なんで先に言うねん!」
「お? 神さん、腕あげたなぁ……」
「もうええわ!」
麺を食べ終わると、リクエスト通りに冷やしていたご飯にスープをかけて出した。
「おおきにおおきに」
サブローはうまそうに猫まんまを食べだす。
「そういえば、今日はミイコの奴はおらへんのかいな?」
「まぁ、カップラーメンが置いてあるときは大体出てますよ?」
「どこいってんやろか?」
「買い物もして来るけど、ミイコにきいても猫には事情があるって教えてくれないんですよ」
サブローは少し首をかしげる。
「猫の集会とかじゃないんですか?」
「今日はどこも集会あらへんのやけどなぁ……それにミイコが集会に顔出してるの見たこと無いで?」
たしかに集会なら、付き合いの多そうなサブローの方が色々行っているだろう。ミイコは集会に顔を出していないとなると本当にどこに行っているのだろうか?
「買い物っちゅうことは人間の姿で行ってんねやろ?」
「まあ、少なくとも帰ってくるときはそうですね」
サブローは何かをひらめいたように声を上げた。
「ちょっと見に行ってみいひんか?」
「いやいや、それはプライバシー的によくないでしょう?」
「猫にプライバシーも糞もあるかい! どうせうんこでもしてテンション上がって出かけとんねん」
「ミイコのイメージが崩れるからやめてもらっていいですか?」
「次行くとき舎弟呼んで尾行するで!」
なぜかテンションの上がったサブローに乗せられ、ミイコを尾行することになった。ちらほらと参拝に来る人はいたが、特に叶える様な願いが無く暇だったからかもしれない。
♦
それから、サブローは次の買い出しの日に合わせ顔をだした。パソコンをしている俺の隣に来ると彼はボソリと呟いた。
「今日やな!」
ミイコの動向が気になっていた事も有り、俺自身もどこかテンションが上がっている。娯楽の少ない生活の中で、探偵ごっこの様なものが出来るのは楽しい。
彼女が境内を歩き出すと、俺たちは動き出した。作戦は簡単、そこら中にいるサブローの舎弟たちが、見失わない様に張っている。それをサブローのネットワークもといネッコワークで随時共有されることになっている。
境内を出ると、顔に傷のある黒猫がいた。
「兄貴、星は左へいきやした」
「おう、ご苦労やな!」
正直姿が猫じゃなかったら、探偵というよりはヤ〇ザにしか聞こえない。形からはいっているのか普段通りなのかはよくわからないが楽しんでいるのは間違いない。
「楽しなってきたでー!」
サブローはそう叫んで、左にまがると、先の方にまた別の猫がいる。サブローの舎弟は何匹いるのだろうかと、余計な事を考えながら後を追う。
同じように猫伝いの尾行を繰り返すと、最後に耳の黄色い白猫が待っていた。
「おう
「はい、すぐそこにいるっすよ!」
彦助と呼ばれるこの猫は、少し若そうに見える。というか彦助で猫……。
「それで彦にゃん、ミイコは何をしているんだ?」
「神様、彦にゃんはヤバいっすよ……権利的に……」
「いざとなったら●で対応するから大丈夫!」
「まぁそれならいいっすけど」
「ミイコ姐さんは、花屋にいますよ」
「花屋? なんでまた?」
「それがよくわからないんすけど……人間の男と喋っているみたいっす」
「え? なんで?」
「おい、彦助! それはほんまなんか?」
「ええ、ホントっす!」
「それはヤバいで!」
サブローはわくわくしたのかテンションを上げて叫びだした。
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