第10話 貧乏神になりそうです……
「そういえば、サブローさん帰らないんですか?」
「なんや?」
「いや、元々どこかに住んでいたんじゃないのかなって……」
「なんや、ここにおったらあかんのか?」
「そういうわけじゃないですけど……」
サブローは、作戦の後そのまま神社に居る。縁側でひなたぼっこでもしている様にくつろいでいた。
「わしは元々野良猫やからなぁ、いる場所は自分できめてるんや」
「なるほど……」
のんびりと過ごしていると、ミイコが巫女の姿で現れた。彼女は買い出しなどの際は巫女の姿になるのだけど、いつもと様子が違う。
「ミイコ、どうしたんだ?」
「どうしたんだじゃないですよ!」
慌てているのか、どこか焦った様子で俺をみる。天気のいい昼寝日和にはふさわしくないほど慌てていた。
「神様……残念なお知らせがあります」
「なにそれ? また難しそうなねがいでも来たのか?」
「そうじゃないんです! 願いが来てないんですよ!」
「願いが来てないって、それだけ町が平和ってことじゃないか?」
「んもう……そうじゃないんです。願いが来ないってことは、お賽銭もないんですよ? だから……あと1週間でご飯が食べられなくなっちゃいます」
お賽銭が……ない?
そんなまさか、今までも何人か願い事の際にお賽銭は入れてくれているはず。
「なんでないんだよ?」
「当り前じゃないですか? 神様が来て何人解決してるとおもいます?」
「5人くらいは解決しているはずだけど……」
「5人ですよ5人! お賽銭なんて普通は5円です、多く入れてくれる人でも50円や100円いれてくれたらいいほうなんですよ!」
確かに……そう考えると日給5円……なんてブラックな会社なんだ……。
「ここはなにかお金になる事をしない生きていけません!」
神様も餓死するのだろうかと思ったが、餓死しないにしてもご飯の楽しみがなくなるのは困る。俺が大丈夫でもミイコやサブローはご飯が必要なのだろうと思った。
「よし、ミイコ! お守りを売ろう!」
「もう、神様……お守りは既にあります! だけど、だれが買うんですか? そもそも神社に来てないんですよ!」
確かに……それに、お守りはもうすでにあると言うのを初めて知った。
俺は隣で寝ているサブローを揺する。
「ちょっと、サブローさん! サブローさん!」
「なんやの?」
「うちお金がないらしいですよ!」
「そんなんわしは知らんがな……」
確かに、お金が無くなったところで、サブローはどこかでご飯くらいは確保するだろう。
「なんか、稼ぐ方法無いですか?」
「神社なんやろ? 祈祷するのが一番ええやろ?」
「祈祷? なんですかそれ?」
「神さんそんなんも知らんのかいな? お願いごとの上位互換や、お賽銭でポンポン願い叶えてはったから繁盛してるんかおもてたわ」
祈祷か……もしかしてお祓い的な奴なのか?
「ミイコ、祈祷ってなに?」
「そうですよね……猫神神社はほとんどしてないのですが、ふつうはイベント毎にあわせた収入源です。七五三や、厄払い、結婚式なんかがそうですね……」
「確かに大きな収入源になりそうだな!」
「でも……」
「なにか心配事でもあるのか?」
「ふつうは、そういったイベントは大きな神社か土地神様のところでやるのです……うちみたいに小さい神社で祈祷したい人はほとんどいないです……」
たしかに、厄払いに行くなら春日大社や明治神宮など有名なところに行くかもしれない。そもそも形式上なものでご利益なんて本気で信じている人はあまりいないのだろう。
「じゃあ……悪霊退治とか?」
「そんなんはほとんどおらんし、おったとしても晴明神社みたいな陰陽師が専門や……」
「じゃあどうすれば……」
「わかったわかった、わしがそういうの強いやつ紹介したるわ!」
「サブローさん、顔が広い!」
「顔がでかいだけや!」
「……」
「つっこまんかい!」
そして、昼から俺はサブローと出かけることにした。そういうのが強いってお金を稼ぐのが上手い人ってことか? 何となく気にはなるがここはサブローに従うしかない。
俺はモチモチと歩くサブローの後ろをついていく。しっぽが上がり間からは毛におおわれたふかふかの金玉が見える。
「去勢はされてないんだな……」
「ん? 今、なんかとてつもなく縁起悪い事いわんかったか?」
「き、気のせいじゃない? なんならお祓いでもしとく?」
猫に、去勢は禁句だったか……などと考えていると、何となく見たことのある道ばかりを通っていく。確かこの道って……。
するとサブローが止まった。
「ここや!」
「ちょっとまて、ここってあのおじさんに嫌がらせしていた詐欺師のところじゃないですか!」
「そうや、あいつやったら金を稼ぐ方法色々知ってそうやろ?」
「いやいや、でもそれって違法なんじゃ……」
「生きるか死ぬか言うてるときに何言うてんねん。ほれ、さっさといきなはれや」
サブローにそういわれ、また怪しげな階段を上がる。普通に詐欺師は事務所の中にいるのだろうか? 恐る恐るノックすると返事が返ってきた。
「どちらさまで……うわぁぁぁぁぁぁぁ!」
「あー、すみません」
「すみません、すみません、もう勘弁してください」
「あ、いや……」
この人、こないだの事が余程トラウマになっているのだろうな。
「いや、今回はちょっとお願いがありまして……」
「へ? おねがい? 私にですか?」
そういうと、中に案内をされる。
「あの……猫も入って大丈夫ですか?」
詐欺師は、サブローをちらりと見ると2回首で頷いた。
「こちらにおかけください……ところでお願いとは?」
普段願いを叶える側なだけにお願いするのは少し緊張する。だが、確かにお金を稼ぐのが上手そうな詐欺師に話してみるのはいい考えなのかもしれない。
「あの……お金を稼ぎたいと思っていまして……」
そういうと、詐欺師は驚いた様な顔をして固まった。
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