第11話 詐欺師じゃないよクレーマーだよ!

「なるほど、お金を稼ぎたい……そうですか……」


 詐欺師はそういうと革のソファーにゆっくりと浅く腰を掛けた。


「本業の妖怪退治はあまり稼げないのですか?」


 そういえばこの人は俺たちの事を妖怪退治する人だと思っているのだった。無理もない、最初の出会いが妖怪を退治するという名目で出会っている。


「まぁ……そもそも妖怪があまりいないですからね」


 俺はそういって、サブローに目をやると、サブローはプイと外を見た。まさかあの妖怪がここにいる猫だとはこの人も思っていないだろう。


「そうですか、あの人が始めたことなので上手くいっているのだと思っていました」

「あの人?」


「はい、あの人は以前リサイクルショップを経営されていたんです……」


 あの人というのがおじさんの事だと言うのが分かった。なんにせよ俺も、神様の力で見たから知っている。たしか経営が軌道に乗っていたところこの詐欺師につぶされたのだ。


「あの頃、私も似たような古物商を営んでいまして……」

「え? そうなんですか?」


「はい、ですが私の方は資金を集めることさえ苦戦してとても事業と呼べるほどまでは出来ていませんでした」


「なんか、意外ですね?」

「いえ、それで……」


 そういった詐欺師の言葉に、俺は納得した。彼も別におじさんを陥れたいわけじゃなかった。ただ、ライバルに勝とうとしていただけなのかもしれない。


「それで、おじさんに嫌がらせを?」

「お恥ずかしい話です、あの時たまたま私が購入した時にトラブルが起きたので……もしかしたらそのままお客をこちらに流せるのではないかと……」


「最低ですね……」

「ええ、自分でも良くないことだとは分かっていました。だけど、思いの他上手くいきまして……もしかしたらクレーマーの才能が有ったのかもしれません」


 確かに、聞いたかんじだと詐欺師というよりクレーマーだ。世の中は声の大きな人が得をする世界。それはこういったところでも遺憾なく発揮されたのだろう。


「それで、その際、裁判などで資金を得た私は今の通販の事業を始めました」

「なるほど……通販では上手くいったんですね」


「はい、どうやら物事を自分で完結させるより、外部など別の人を使う経営の方が向いていた様でした」

「あー、なるほど、それでここには従業員がいないんですね!」


「はい、自分はお金に出来る様に方向性を決め外注に指示して運営しています」


 なるほど。なんだかんだで詐欺師は交渉力がものすごく高いのだ。それをあのおじさんとのやり取りで、気付き今の事業を成功させたのだろう。


「ですが……事業を作る事に関しては彼の方が出来ると思います」

「それはなぜですか?」


「彼はそれまで様々なアイデアで店を大きくしていました。たまたまお人よしだっただけで」

「あー、何となくわかります」


「すみません、自分が言うのもおかしな話なんですけど……」

「あ、そういえばおじさんとはどうなんですか?」


 俺は、少し聞きづらい内容だったのだが、気になっていた事を聞いた。あの後、どうなったのか? それと彼はちゃんと復帰できたのだろうかと思うところがあった。


「最初は拒絶されたんですけど、今はあの頃の賠償をする気持ちで援助させていただくことになりました……」

「いや、よく納得してもらえましたね?」


「まぁ、かなり頼み込みましたね、彼はなんだかんだいってお人よしなので」

「なるほど」


「というわけで、自分としては彼に協力してもらうのがいいと思います」


 詐欺師、もといクレーマーは、そういって席を立った。確かに彼の言うようにおじさんの方が協力してもらいやすいのではないか、それに上手くやってくれるのではないかと思った。


 彼にお礼をいって、ビルを出るとサブローがつぶやいた。


「あのおっさんのところに行くんか?」

「うん、そうしようと思っているけど、サブローさん的にはどう?」


「まぁ、あいつが嘘ついてるようには見えへんかったからええんちゃう?」

「そっか、とりあえずおじさんのところにいこうか」


 すると、サブローは足を止めた。ふかふかの三毛の毛が少し風になびいている。


「あー、その件やけどな。わしは今回パスするわ」

「いや、パスって……」


「あのおっさん所で相談するんやろ? それやったらわしよりミイコ連れて行った方がええんちゃうか?」

「ミイコを?」


 サブローは少し寂しそうな目でつぶやく。


「まぁ、いうてわしは野良猫。部外者みたいなもんやからな……」


 彼は、野良猫という事に誇りを持っているのかもしれない。前回も今回もたださすらった先で起こった出来事を楽しんでいる……そういった姿勢は崩したくないのかもしれない。


「うん、わかったよ。サブローさんありがとね」

「ええんや、また面白そうなことあったらいうてくれや」


 そういって、サブローは塀を上ると「ちょっとミイコとバトンタッチしてくるわ」と、もっちりとした大きな体とは思えないくらい颯爽と駆けていった。


「サブローさん、やっぱり猫なんだな……」


 そう呟いて、俺はおじさんのところまで歩くことにした。平日の昼間は人通りも少なくのどかな日常が流れているように見える。もしかしたらこの町は思っている以上に平和なのかもしれない。


 しばらく歩いていると、ミイコの声が聞こえた。


「神様! やっとみつけたにゃー」

「あれ? サブローさんに場所聞かなかったのか?」

「あの人が道案内をしっかりできるわけがないにゃ……」


 それもそうかと、ミイコと歩くのは久しぶりな気がしていた。


「おじさんのところにいくにゃら……こちらの方が良いですね!」


 ミイコはそういって巫女の姿になると、隣に並んで歩く。作務衣と巫女姿で歩く姿が、すれ違う人には気になる様だった。まぁ、当たり前なのだけど……。


 しばらくして、おじさんの家に付くと、彼は忙しそうに何かをしている。


「すみません!」

「ああ、猫神様じゃないですか? どうされたんですか?」


 その反応にミイコが少し驚いたように言った。


「あれ? おじさん神様が猫神様なの知っているんですか?」

「ああ、たぶん何かの教祖様とでも思っているんじゃないかな?」


「また、変な事に力を使ったんですか?」

「使ったというか、使ってあったのを利用しただけだよ……」


「どちらも同じです!」


 おじさんを置いてけぼりで囁きあっていると、おじさんは荷物を置き俺に向かって頭を下げた。


「先日は、どうも有難うございました」

「あ、いえいえ。なんか上手くいっているようでよかったです」


「あの、猫神神社の方ですよね?」

「あれ? 俺いいましたっけ?」


「その、隣の方の恰好が……」


 俺は隣を見ると、巫女姿のミイコが微笑んでいた。それをみて、なるほどとあっさりと納得する。


「でも、その神社の人がなんで自分のところに? お布施でしたら事業が落ち着いたら納めさせていただいますが……」


 その言葉に、ミイコが反応する。


「うちの場合お布施というか、玉串料という形でうけたまわっております、あのマタタビ料と言っていただいても構いませんが……」


「なるほど、猫神様ですからね!」

「それは、もちろんありがたいのですが、今回は少しご相談がありまして……」


「そうですか! それなら是非、中の方で聞かせていただきます。大したお茶はだせないんですけどねーハハハ」


 以前あった時とは雰囲気も、表情も違うおじさんに驚いた。本来はこんな感じの明るい方だったのかと思うと、神様を始めて良かったと思った。

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