第132話 グーシー曰く2

 グーシーは共通語を解する。帰還した第二世代との戦争が終わり、この世界が創られる過程でなにかあった。だが記録も記憶もないらしい。

 しかしヨシカも含め、2150年の存在を西暦6020年の今までよく持たせたものだ。不思議で仕方ない。自分にとっては幸運だが。

 国樹は幸運をもたらした存在を見つめる。


「グーシー、君はアイナレセプターや超高度AIを知っているか」

「もちろんだ。アイナレセプターは超高度AIの初代であり、日本国の参謀と考えればいい。あんな形とは意外だが、あれは今の話だろう」


 銀髪の女だもんな。ったくどこもかしこも女だらけだ。


「どれくらい優秀なんだ。君やヨシカ、充希となにが違う?」

「アイナは統括AIだ。人工知能全体を統括管理する。量子コンピューター、超電導量子コンピュータなど桁違いの計算能力を持つ。手に入る情報次第では正確な未来予測も可能だろう」

「にしては随分お粗末だぜ」

「相手も同じ超高度AIだ」


 そりゃまそうか。この国にあるものが一番優秀ならいいのだが、それはそれでなんか嫌だな。


「多賀朗、アイナは必要な情報だけを開示した。いくつか補足がある」


 やはりそうか、国樹は頷き耳を傾ける。


「トランスペアレントダーク計画の存在は私も知っていた。2150年には既に計画されていた。表向きの目的は確かに太陽系の外、外宇宙への進出と調査だ。だが根本的には違う。恐らく彼らが帰還しない理由にも影響しているだろう」


 驚いた、理由が分かるということか。ひとつ頷き、続きを促す。


「TPDプランは文明の保護、保持を目的として計画された。言い換えれば、これは地球圏との決別を意味する」


 文明の保護……それがなぜ決別を意味するのだ。必ずしも当てはまらない。


「文明には寿命がある。どんな文化文明圏も必ず滅び、なにより変容する。その変質を阻止するため、彼らは地球という移ろう世界を脱したのだ」


 分からなくはない。そして確かに、それは可能かもしれない。また頷き話に聞き入る。


「多賀朗は理解しているだろう。我々こそが鍵となる。文明の担い手はロボットやオートマタ、アンドロイドに任せればいい。地球は移ろいやすい。どんな独裁国家や独裁AIが出てくるか分からない。最もシンプルなものは戦争や災害だ」


 そうだろうと納得はする。それは分かるが、違和感もある。


「確かに分かる、分かるがそれ悪用されないか?」

「否定しない。文明の保護を謳いながら実際は既得権を確立させるため、独立勢力として生き残るため参加した国家や企業、宗教組織もあるだろう。だが日本とて完全な国家ではない。比較的安定し、穏やかな国民性を持つ。ただそれだけであり、決して理想的とは言えない」


 あちらを立てればこちらが、と。確かにかつての日本もそれを模した今の日本にも問題はあるだろう。ないはずない。生きづらい人々は確かに存在する。例えば俺とか。


「人類は複数の問題を抱えながら存在していた。これからもそうだ。実際三度あった滅亡の危機は事実らしい」

「アイナがはっきり言ってたな」


 人類は三度滅亡の危機に陥った。

 資源戦争、大災害、最後は判明していない。この三つ目がポイントだ。理由も分からないほどの危機とはなんだ。そして実際、旧人類は地上から消え失せてしまった。


「私は外交の世界に関わり資源戦争の形をイメージしていた。デザインすることもあった。日印豪の同盟はそれに対応するため結ばれたとも言える」

「なんか大変そうだな」


 口から出たのは率直な言葉だ。今は世界を旅する箱となった。どちらが幸せなんだろう。


「資源戦争は避けられない。人類が避けて通れない通過儀礼のようなものだ」

「まあなあ。資源を買わなくなるんだから、そら揉めるわな」


 顎に手をやり、その様をイメージしてみる。

 今まで資源を売りにしていた国が、ある段階で必要とされなくなる。

 最低限は必要だろうが、ビジネスとしての規模は縮小を余儀なくされる。

 技術革新によって消える産業や業界のようなものだ。

 歴史はその繰り返しか。どっかで止まりそうなものだが。

 気がつくとグーシーがじっと見つめていた。そして話し出す。


「そう考えるのか」

「ん? 間違えたか?」

「いや正しい。争奪戦にはならないと、君は考えるんだな」

「最低限さえ確保出来れば、買わないよな。資源の効率化なんて科学技術の基本じゃないのか?」


 原油、水資源、食糧難、確かにそういう時期もあるだろう。しかしそんなもの、超高度AIと技術者がうまく対応すればたぶん結構解決してしまう。リサイクル技術もあるだろうし。


「人口爆発でもありゃ話は多少変わるだろうさ。実際はどうだった?」

「地域にもよるが、人口は緩やかな減少傾向を続けた。歯止めはかかったが。でなければ私やヨシカはいない。そうだな、我々がその証明か」

「ああ」


 人が必要とされない世界。労働力としての人間の価値は下がり続ける。これもまた避けようのない現実だったろう。


「君はかつての所有者に似ている。現実を突き放し観察する、冷徹な面を持つ」


 エリート外交官と俺が? あり得ない、ないないと手を振る。


「普通そうなると思っただけだ。無理やり需要を生み出す手法は必ず限界がくる。それだけのことだ」

「そうだな、そうだったよ」


 なるほど、揉めたのはここら辺りかもしれない。だが大規模テロの様はさすがにイメージしたくなかった。

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