第131話 グーシー曰く
東京の空が茜色染まる。首都東京にはスカイツリーと有名な電波塔が立っている。これに限らず可能な限り再現したらしい。
虎の門にある整備工場に電灯が灯る頃、グーシーから対話の誘いを受けた。ヨシカを充希とゼスに任せ、国樹は応じた。
どこか場所を変えるのかと思ったが、グーシーは大きく口を開けてみせた。
『中で話そう』
グーシーの腹の中に入るのは初めてだ。人が入っていいものなんだろうか。
「お邪魔します……」
恐る恐る足から突っ込むと、舌に導かれるようあっという間に中へと入っていた。
蓋を閉じたグーシーの中は、どこまでも暗闇に包まれていた。
ふっと灯りがつき、目と舌が眼前に現れる。
「おお、なんか別世界だなここは」
謎に浮いて怖いが、すぐ座布団的なものを下に敷いてくれた。どういう原理だ。
「少し暗いな。もう少し明るくしようか」
「へ?」
突然声が聴こえ、大きく戸惑った。周囲を見渡すが誰もいない。あるのは目と舌だけだ。驚きいるとはこのことか。まさかグーシーの話し声を聴けるとは。
「いや、話せるならなんでもいい。高い声だな、中性的というか」
「そうか。私に性別はない。それに、いつも中で話していたぞ」
そういうことは早く言ってくれ。ペンとボードは忙しいだろうに。
「二人きりで多賀朗が中に入ると周囲の様子が分からない。まあ気に病むな」
眠たそうな目を向け、グーシーはいつも通りだった。
「そうね。一応初めましてだな」
「我々の間には一応が多いな。初めましてだ」
懐かしい、あの頃はなにも分からず突っ走ってた。あの対話は実に有意義だった。
「思えば懐かしい。そう古い話でないのに不思議なものだ。よく私と対話する気になったな」
「うーん、言われてみれば」
ゼスの通訳から相当冷静であることは理解していた。それに、たぶん俺より知識があり頭もいい。今は確定した事実となっている。
「しかし、私の所有者が外務省の役人だとよく気づいたものだ。外交の話などほんの少ししかしていない」
「まあなぁ、外交関連が一番可能性が高そうだなと思っただけだ。商社も頭にあったんだ。多言語と話し方、表現だな」
基本勘だよ、と付け加える。
「制約はもうない。私は多くの事柄に答えられる。外交機密も含め、君が聞きたいというのなら話そう」
さすがにそれはいい、と言いたいところだが機会はあるかもしれない。「機密も含めていいんだな」と念を押すと「当然だ」と彼は応じた。
この答えは重要だ。
つまりグーシーはここを日本国と認めていない。
「君の所属した組織も国も、所有者もいない。そういう認識か」
辛い事実だが時代の違いだけは手の施しようがない。
「当然だ。いつ戻るかも分からない。外宇宙に後継国家や勢力は存在するだろうが、私のことなど誰も知らないだろう」
そうか。それはとても寂しいことではないのか。自分は所詮旅人で、いつどうなってもいいとどこかで思っていた。だがグーシーは尽くすだけ尽くしたはずだ。
「君になにがあったか一部は判明したな」
「ああ、そんなことだろうとは思っていたが、実際聞くと妙な気分だ。私は一度活動をやめ、誰かが修復し再生させた」
西暦2150年前後にあった大きなトラブル、アイナによると日本絡みで複数存在する。更にそこからインドも絡むとなれば、一件しか該当しない。
「疑似フレアパルス。太陽フレアを地上で再現するとは、大規模テロと言っていい」
東京、ニューデリー、シドニー。日印豪を対象にした三カ国同時多発テロ。対象になった理由はともかく、凄まじい技術だ。
電磁パルスや太陽の活動は想定していたが、いくらなんでも大がかり過ぎる。
「各国の国防、外事、外務省の情報網にかからずやり遂げる。大したものだ」
「他人事だな。君はそれに巻き込まれたんだぜ」
「そういう仕事だ。所有者が無事でよかった。私を保護し保管した理由も分かる」
確かに、業務上得た情報や本来表に出せないものも含めれば、色々知り過ぎているのだろう。
――在インド大使館一等書記官。記録によると、以前の所有者はテロ被害に遭っていない。没年も確認出来た。不幸な死に方ではなかったらしい。
「私の持つ機密を保護するため一度日本に持ち帰ったのだろう。問題はそれ以降。なぜまたインドに戻ったのかが分からない」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます