第126話 Transparent Dark2

 国樹はそれを受け取り問いかける。


「事実かどうかはともかく大体の流れは理解した。その前にお前はなんだ。お前が負けた側の外宇宙勢力ってのはそうなんだろう。なんでそのお前がここにいる」

「自己紹介が遅れました。私はアイナレセプター搭載型人工知能、アイラと申します。この地球で計画、研究開発された人工知能の後継機に当たります。アイナと呼んで下さっても差し支えありません。事実上同じです」


 ヨシカのそれはセナレセプターだった。アイナレセプター、社会生活適応型とは名乗らなかった。


「そう、でどうしてここにいる。そもそもお前は人間と交わらない、そういう役割なんだろ。どういうことだ、話し合いはどう落ち着いた」

「我々は敗れ去り、彼らと講和を結び互いの情報を交換し提供し合いました。結果、我々の一部が地球に残り統治の代行者となり、取り仕切る役割を課せられたのです」

『つまり仮の統治者か。なぜだ、外宇宙の勢力を排撃するだけの戦力を持つなら、手を借りるまでもない』


 グーシーはそう記しこちらにも見せてきた。全く同感だ。なんで居残ってんだ、こいつ。


「戦力の差はあれど技術力は比べようもないからです。それは今後の禍根となり、地球人類にとって背負いきれない問題に発展しかねません。そもそも我々は戦争をしに来たわけではありません。

 確かに一部の者がレコンキスタ、再征服運動と称したこともありました。ですが決してそのようなつもりはありませんでした」


 この説明を聞き、充希は顎を上げた。見下すようアイナを見ている。


「ちょっと待って、こいつ外見ないの? なんで白い壁と話さなきゃなんないのさ」


 突然、ゼスが口を挟んできた。それは今関係ない。制しようとしたが、


「自分のことぐらいデザイン出来るだろ。自分をどう思ってるのか出せよ。グーシーなら出来るぞ」


 結構的確かもしれない。確かにそうしてもいいが、それで満足するのはゼスだけだ。


「分かりました」


 それでもアイナは素直に応じた。白い背景は黒くなり、それから機械的な若い女性が浮かび上がる。髪は白く、無機質なアンドロイドのようだ。


「私は恐らく、こう見られていただろうというイメージです」

「うん、分かった。女の子なんだ」


 ゼスが納得したらしいので、気を取り直し疑問点を挙げる。


「技術力に差があるということは、地球側の文明は君らと差があった。接点がないと言ったな、どういう状況だったんだ。なんでそれで負ける」


 機械的なアイナは、仕草だけ人間のそれらしくこちらを見た。目が合い、国樹は不気味の谷を感じていた。


「技術力は確かに差がありました。彼らはせいぜい紀元前から中世程度の文明でした。ですが、生命体としての強靭さはもはや人間の域を超えていた」

「化け物がうようよしていたと。なんだそれは?」

「未だに分かりません。正確に言えば一部そういう存在があり、それもまた地球に存在していたということになります」


 一部……一部存在した。妙だ、おかしな話だが俺はそれを知っているのではないか? 頭を悩ませたが、アイナは続ける。 


「経緯は未だに分かりません。聞き取りは行いましたが、なにも分からないのです。彼らがどこから来たのかは判明していません」

「それにやられたと。どうやって。お前ら宇宙船で来たんだろ?」

「はい。宇宙空間での戦闘により前線艦隊は壊滅。これ以上の戦闘は帰還に支障をきたし、また意味もないと講和に及びました」


 機械的にレポートを読み上げるようだ。だが、意味を理解しているのか? 事実ならそいつらは、宇宙空間でも活動出来るということになる。


「なんだそれは。聞いたことないぞ。それもう人類じゃないだろ」

「はい、我々はそれを破壊神の群れ・・・・・・と呼んでいました」


 破壊神――インド、ヒンドゥー文明圏で言えば、シヴァ。道理で、引っかかったのはこれか。


「シヴァ群と呼ぶ者もいました。それほどに彼らは異質であり強過ぎた」


 驚愕なんてものじゃない、心臓を吐き出したい気分だ。

 警戒してはいたが、事実なら蹉跌の塔の住人は破壊神の群れであった可能性が高い。だがじかに会ったゼスとグーシーは、怪物だったとは言っていない。


 ゼスの目でも見抜けない……封印を解いたばかりだったから?

 しかしならなぜ封印されていた。いや、そんな化け物をどうやって?

 国樹は心は落ち着きなく、心臓の鼓動も跳ね上がっていた。

 それでもどこまでも平然と、


「そう、お気の毒に。しかし経緯を端折はしょり過ぎだ。お前の知る情報を開示しろ。俺には正確な歴史を知る権利がある。俺の法ではそうなってる」


 機械的な存在と向き合っていた。

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