拾「Transparent Dark」

第125話 Transparent Dark

 四人並び、横に広がり降りていく。警戒し周囲を見回したが、誰もいないらしい。グーシーも充希も、ゼスですらなにも言わない。

 正面中頃で止まり、奇妙なモニターと向き合う。

 音も立てず突然なにかが映り込んだ。しかしただ白くなっただけで、それ以外なにもない。

 そうして聴こえてきた。


「わざわざのお越しご足労おかけ致しました。ご無礼があったようで、形式上最高責任者を務める者としてお詫び申し上げます」


 女性的な声だ。電子音声とも違う。

 お詫び、形式上の最高責任者。肩書だけだが堂々と名乗りやがった。

 俺は今からこいつと話すのか。こんな場所で、この異様な国について。気持ちを静め国樹は口を開いた。


「不愉快ではすまんよ。責任者を名乗るなら責任を取ってもらう」

「後ほど適切な処置を施します。我々としても残念であり、遺憾でありました」


 政治家みたいな言い回しだ。いや役人か。それに我々と言った、複数存在する。警戒心を高め国樹は応じる。


「わざわざ呼び出して遺憾だと。それを伝えるために召喚したのか?」

「事情は理解しております。我々としても大変驚き対応が遅れました。こうなってはもう、隠し立てする理由もありません」


 一番右にいた国樹はゼス、グーシー、最後に充希と目を合わせた。

 こいつの表現には躊躇いがなく、ストレート過ぎる。さすがに状況は理解しているだろう。だがどういうつもりだ。

 充希が頷くのでそのまま国樹が問答を続ける。


「お前人工知能だよな。なんでお前が最高責任者なんだ。誰が決めた。お前そもそもなんだ、何者だ。この国の形も社会の有り様もお前が決めたのか?」

「私ではありません。経緯をお話し致します」


 散々隠し続け今更、などと言えるわけもない。忸怩たる思いを胸に仕舞い、重要なことを確かめる。


「その前にひとつ。破壊した国民は直せるんだろうな」

「可能です。よければ今引き取り処置に入らせます」

「ふざけんな殺すぞ」

「分かりました。ではお話し致します。全ては遠い過去の出来事、それは起こりました――」



 ――西暦三千年、地球と人類が危機を迎えた。

 そう連絡を受けた。

 結果戦争が起こり、我々は敗れたのだと。

 だからこうなった。

 これは敗戦処理であり、必要な処置であった。

 そう前置きし、語り始めた――



「西暦三千年、外宇宙に存在した我々は、地球圏から脱出した船からSOS信号を受け取りました。詳細は分かりませんが、環境の激変により地球圏の人類は滅亡の危機にあると報告を受けたのです」


 西暦三千年に外宇宙。これは太陽系の外という意味合いだろう。随分遠くに行ったものだ。事実なら、こいつは宇宙から戻ったということになる。


「地球圏の人類を救出するため編成された帰還救出船団は、千年の時をかけ地球へとたどり着きました。ですが時既に遅く、我々には手の施しようがありませんでした」


 淀みなく話すが、千年……どれだけ遠くにいたのだ。

 人類の危機は資源問題、環境の変化、最後は原因不明。この三つと言われている。こいつは環境の激変と言い切ったが、詳細は分からないとも言った。矛盾ではないのか?

 疑念を抱きながら、国樹は耳を澄ませる。


「既に人類は新たな活動を始めており、我々との接点を失っていたのです。我々は彼らがどこから来たのか調査を始めました。詳細を把握し、特徴を探れば歴史や事実関係が明らかに出来るはずだと」


 接点を失うとはどういう意味だ。

 疑念に疑問、それでも説明は淡々と続けられる。


「我々の調査は詳細に及び、遺伝子情報からやはり我々と接点がないことは分かりました。更に詳細な検査を行うため協力を仰いだのですが、結果彼らを刺激してしまいます」


 演出するよう間を置くそれの言葉を、国樹は待っていた。聞き入るという点で言えば誘導されつつある。


「彼らは強力な戦力を保持していました。我々は迂闊にもそれに気づかず、結果壊滅的な打撃を受け講和を申し込むこととなりました。

 そもそもが行き違いから起きた戦闘であり、争いです。対話の余地は複数の理由から存在しました。彼らも我々を殲滅するつもりなどなく、自己の安全を確保するための行動でした。

 率直に経緯を話した結果互いの友和は成立します。

 そうしてこの世界が生まれたのです」


 モニターからの音は止まり、説明を終えたかのよう静まっている。

 一方受け手側であるこちらには、妙な感覚と間が生まれていた。

 なにを勝手に終わらせてんだという当然の不服もある。話の流れも唐突過ぎる。なにもかも端折り過ぎだ。

 ゼスはともかくグーシーを確かめると、中でなにか書き記しているようだ。充希はこちらの視線に気づくと小さく首を振り、目で促していた。

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