第124話 国家
外務省のゲートは固く閉ざされていた。無人の都心に国旗がたなびいている。誰が誰に向けてやってんだ。
ゲート前にバギーを停車させると、真っ先にグーシーが降りた。
そしてゲートを押し倒し、自ら先頭を切る。
三人で眺めていたが、なにも言わずそれに続いた。
外務本省もやはり無人だった。選ばれたエリートがいたはずのここも、周囲同様無人である。
グーシーは受付も無視し中を進んでいく。
どうやら記憶があるらしい。建物の配置、部署を把握しているのだろう。
彼は最初、アジア大洋州局へと向かった。だが案の定なにもない。だだっ広い部屋にはデスクもなく、局長室にもなにもない。
彼は踵を返し『大臣室に向かう』と記した。
埃もない階段を上がりグーシーは進み続ける。
「充希、ヨシカは直せるんだな」
「奴らにやらせるつもりですが、不服ならグーシー殿がよろしいかと」
「不服だな。ぶっ壊すつもりだぜこっちは」
「はい、ではグーシー殿次第というところでしょう」
それでは困る。分かっているだろうに……隣を睨みつけると、充希はひとつ頷いてみせた。理解はしている、か。そうだよな、俺より理解している。自分が人間であることが恨めしくなってきた。
大臣の執務室に入るがやはり誰もいない。立派な机と椅子だけが物寂しく飾られていた。
グーシーの背中もやけに寂しく見える。彼は道具で人間にとって身近な存在だ。その人間が、いるはずの場所にいない。
「官邸にも執務室はあったよな。そっちにも――」
『もういい必要ない、全て終わった。多賀朗、私の所属した組織はもう存在しないのだ』
後ろ向きでそう記し、グーシーは目も見せてくれなかった。
『この騒ぎだ、通信も一時は繋がった。充希が阻止したが、監視はしているだろう。それでも誰も来ない。私でなくともいい、充希の迎えも来ないのは、つまりそういうことなのだ』
珍しく多弁で、感情の昂ぶりを感じる。思うところがあり過ぎる、彼の心情は理解出来た。
『全ての制約は無効となる。私の役目は終わった。
そうして久しく聴かなかった、ずずっと重い音を立て振り向いた。
『彼らの権限は無効となった。手間をかけた。多賀朗、君の質問に全て答えよう』
「お待ちを、通信です。グーシー殿、受信出来ますか」
ヘルメットを上げた充希は耳元に手を当てていた。
『ああ、受け取った。多賀朗、国会からお呼びだ。どうする』
国会だと……国民は確かに存在するが、無人の首都圏にある国会からお呼びがかかるとは。やはり監視していたな。
二人の真剣な眼差しを受け取り、
「いいぜ召喚されてやる。誰が呼び出したのか面拝みに行こう」
その顔潰さんといかんからな。
ひとつ呟き、国樹はゼスを確かめた。
もういつものゼスだ。こちらが頷くと、ゼスも頷き意思の疎通はすんだ。
国会へ殴り込む、まさかこうなるとは思わなかった。
――バギーを走らせ五分、この国の中枢を担っていた国会議事堂が見えた。今度は門も閉まっておらず、どうぞと招かれているようだ。
相手が誘ってきた、堂々と入ればいい。
正面入り口の前にバギーを止め四人で降りる。
次に乗る機会はあるかな。
振り返りふっとそんなことを思ったが、ここまでよくやってくれた。お陰でたどり着けた。ネリーに感謝し、国樹は最後尾から国会へと入った。
議事堂内部、充希とグーシーは構造を理解しているのか、迷う様子もなく進んでいく。どうやら衆議院議場を目指しているらしい。左手に進んでいく。
まさか自分が本会議場に赴くことになるとは。中に入ったら一席ぶってやろうか。聴衆のいない中、虚しいだけだなと嘲り笑う。
そうして内部が見えてくる。
議場に席はなく、壇上に議長席もない。席という席が存在しなかった。
なるほど、議席が存在しない。
今の日本を正しく表している。
ただし壇上の後部に、見慣れぬ大きなモニターがあった。
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