第123話 首都への道3
自己犠牲とでも言いたいのか。
ここまでなにもしていないから。
違う、それなら俺だってなにもしていない。ゼスはともかく、機能していたのはグーシーと充希だけだ。
充希の言葉は信じられない。なにを言ってる、それでも止めろよ。それでも守れよ。ただ鉄の塊から守るだけのことじゃないか。
「国樹殿、ヨシカ殿は無事です。頭部が少し傷んでいるだけで、肌も吹き飛びましたが無事です。意識はないようですが、問題ありません」
至って落ち着き払い、充希は告げる。だが頭に入らない。入れてはいけない。
『ガル、ゴルゴル』
「ゼス殿通訳を」
「へ、ああそうね。えっと、外傷はあるけど深くないって。ダメージは浅いかもしれないって」
「あとご自分のことを」
「そうね、多賀朗。私またこんなになっちゃって、翼はないけど」
グーシーの下にくるまれたヨシカは、確かにアンドロイドだった。肌が傷つき皮膚がめくれ、機械的な内部が見えてしまっている。見たくなかった、どうしてだ。
「グーシー、ヨシカは問題ないのか?」
『分からない。内部のダメージがどこまでか想定してみるが、確認した方が早いように思う』
「よしましょう。彼女はそれを望まない。そもそも強度のそれは人間とは違います。設計が細かいですな。素人が手を出すものではありません」
「お前さっきからなに言ってる」
苛立ちは更なる怒りを生み出す。怒りだけではない、充希に対する不信が生まれている。
「お言葉ごもっともです。責任は取ります。ただし、彼らにも責任を取ってもらわねばなりません。そのためにここまで来たのではありませんか?」
この女、なにを当たり前のことをべらべらと……天を見上げ、激情を咆哮の如く吐き出そうと――していたが、止められた。成人と化したゼスが、震える手を取り抱きしめてきた。
「多賀朗、充希は嘘はついてない。私は会話を聞いていた。充希も戸惑ってた。大丈夫、信じて大丈夫だから。ね、グーシー」
『中でのことだ、把握している。信じがたいかもしれない。しかし事実だ。録音もある』
そうじゃない、そうではないのだ。そう言ったとて守るのが君の役割ではないのか。充希、君はなんのための軍用機なのだ。
今一度ふざけた形のそれを見つめると、
「全て私のミスです。責任は私に存在します。奴らに相応の報いを与えるというのなら、出来る限りのことを致します。ですがまず、目的を果たしましょう。ヨシカ殿もそう望んでいるはず」
充希は真っ直ぐ見つめ返してきた。
正論なんだろう。そのために来たのだ。
しかし、まるで死んだかのような言い草だ。縁起でもない。
「納得したわけじゃない。それでもそうか、ヨシカはバグがあったな。これを見れば絶望的な気持ちになるのも分かる」
横浜は無人の荒野と変わらない。
遠めだが、都内ですら変わらない。人がいるとは思えない。見てみないとはっきりはしないが。
所有者の安否確認、端から分かっていたことだ。時代が違い過ぎる。彼女の確認作業だけは、もう終わったも同然なのだ。
しかし本当に優秀だな。役立たずは自分だけか、情けない話だ。
「グーシーヨシカを中に頼む。都内に入るぞ。場所は市ヶ谷か?」
「はい。しかし後回しでよろしいです」
「そうか。他に無人機は」
充希は首を振り「存在しないのと同じです」と告げた。
――沈黙の中走り続け都内が近くなると、その全貌が露わになった。
遠目からは建物のひとつも見えなかったのに、建物がある。高層ビル群だ。所謂首都高もあるらしく、高架橋が乱立している。
レールがあり、道路も整備されていた。信号もあった。
「偽装か。人間では分からんな」
「視覚的に誤魔化すものです」
「他愛ないか。理由はまあ、すぐ分かるよな」
「はい」
充希はヘルメットを下ろし、周囲を警戒していた。グーシーも同様で、緊張感がみなぎる。
「あそうか、私が言えばよかった。見えてたし」
すっかり中学生のようになったゼスが、助手席で手を合わせている。形は西洋人なのに、仕草は日本人だ。相変わらず分からない奴。
ともかくと、国樹は二人に向け確認する。
「グーシー、ヨシカがいない今、君からだ。場所は霞が関でいいよな」
『ガル』
「充希は市ヶ谷、少し離れてる。まあ十分ぐらいか」
返事はなく、車内にまた沈黙が降ってきた。
信号は黄色く点滅しているだけ、人気はない。
三十分も走れば目的地に着くだろう。
このふざけた国の内情を、白日の下に晒してやる。
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