第122話 首都への道2

 苛立った国樹はバギーを助手席側から下り、スパイダーを睨みつけた。


「お前らなにがしたい? 日本人の俺が国内のどこを移動しようと自由だろ。それともここは軍事基地か?」

「警告無視により、強制排除を実行します。もう一度警告します――」

「責任者は誰だ。責任者連れて来い。いるんなら話がある。いないなら、お前ら一体なにもんだ。それを説明しろ」


 小型無人機が三体、国樹を囲むよう近づいてきた。射出させるようなにかを突き出し、一目でスタンガンだと理解した。

 そうまでする権利が自分達にはある。

 その役割を担っていると。


「いいけど、手を出すならそれなりに抵抗するぜ。そのそれなりを想定しろよ」


 代償を払う覚悟は出来ているのか?

 国樹は不適な笑みで、スパイダーと対峙していた。

 多脚型戦車は微動だにせず、動いたのはやはり小型無人機だった。


「痛っ! 熱いなもう! なにこれ、なにすんだよ!」


 ゼスの悲鳴が響く。スタンガンに触れてしまったらしい。

 刹那、スパイダーの挙動に変化があった。動いてはいないが、内部から音が聴こえてくる。

 換装している?

 そう思った矢先、一体の無人機が近づいてきた。咄嗟とっさの判断、軽く蹴りを入れ遠ざけた。ゼスじゃあるまいし、スタンガンに耐えられるわけがない。

 それにもし食らえば、グーシーの防衛機能が働きかねん。それだけは避けたい。


 気がつくと周囲の無人機が目を赤く光らせていた。実際はレンズ、カメラの類か。警告の更に上、怒っているぞと言わんばかりだ。

 そしてもうひとつ、厄介な奴が細長い主砲の下になにかをぶら提げていた。


 本気でやる気か。ただ蹴りを入れただけなのに。

 こっちは説明しろと言っている。ただそれだけのことで、本当に国民を撃つのか?

 いや、そもそもやはり、ここは日本国ですらないということなのか。

 憮然とし、国樹はゼスに声をかけた。


「万が一でもこっち来るなよ。グーシーを守れ――」


 ふっと後ろを振り向いた瞬間、低く乾いた音が鳴った。

 視線を戻すと、大きな塊がこちら目掛け飛んでくる。

 凄まじい速度でありながら、国樹はなぜか冷静に見切っていた。

 こいつ本当に撃ちやがった、と。


「暴徒鎮圧弾とはね。いいぜ、もういいキレちまったよ」


 着弾の瞬間、国樹は久野の言葉を反芻していた。


 ――なにかが起こる。なにかは知らないが。


 強い衝撃、視線が揺れ頭がくらついた。景色は回転するよう変化し、国樹は吹き飛んだ。

 だが正面から撃たれたはずなのに、彼は横に吹き飛ばされていた。

 充希か。久野さんから譲られた石の力を今一度確認したかったのに、やはり難しい。みんな俺を守ろうとする。致し方なし、ありがたいと素直に受け取るべきなのだろう。


 そう思ったのに、首に提げている石は強い光を放っていた。

 そして地面に身体がつく瞬間、視線の先にいたのは分厚い腕をした彼女ではなかった。

 細い腕をしたヨシカがなぜかそこにいた。



 ――彼女は悲痛な顔をしていたが、目が合うと寂しげな笑みを浮かべ吹き飛んだ。なぜ充希やグーシーではない。理解出来ない。

 頭部に直撃を受けたヨシカは、バギーまで吹き飛ばされグーシーの舌にくるまれた。

 訳の分からないそれを見て、国樹の怒りは頂点に達する。


「なにやってんだ充希! てめえ!」


 なぜヨシカを守らない。ヨシカは立派な日本国民だぞ。そもそもお前なら――


「警告は受け取った。発砲も対暴徒用とはいえそちらが行った。さすがは旧型、所詮そんなものか」


 充希が平板に言い放つと同時、スパイダーの主砲が吹き飛んだ。

 一瞬の移動、周囲に細い砲身が粉々に飛び散っている。多脚型戦車を半無力化した充希は、取って返しこちらに戻ってくる。


「警告する。我々は日本国政府に用がある。貴様ら玩具に用はない。通信を回復し指令部に繋げ。直接話をつける」


 次に周囲を見回し、


「私でよかったな。比較的運はいい」


 充希の一言で小型無人機達は動きを止めた。


「国樹殿、一瞬ですが通信を回復し連絡を取っていました。やはりコントロールタワーは存在するようです。都内ですね。場所も特定出来ました」


 彼女は至って静かな口調で報告してきた。違う、それはいいそうだろう。お前がやればそうなると思っていた。

 でもお前がそれを望まなかった。

 仮にも日本国の軍用機、交戦はなるべく避けたい。

 やるにしても明確な理由が欲しい。

 先に首都圏に入ってもいいかと――


 それを認めず、傍に置いたのは自分だ。

 確かにそうだが、明確な理由は俺が作ってやった。

 暴徒でもないのに暴徒鎮圧弾を撃たせた。

 なのにどうしてヨシカなんだ、なぜ止めなかった守らなかった!


「なぜ、とお聞きになるでしょう。ヨシカ殿が望んだのです。理由までは分かりません。止めました。しかし、どうしてもそうせねばならぬ理由が彼女にはあったようです」

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