step15.ターニングポイント(3)
親しい友人が身を固めればそのたびに意識しないではなかったが、その後の浮気騒動や離婚騒動を聞かされれば、やっぱり面倒そうだなという思いを強くした。他人の体験を通して現実を知れば知るほど由基自身の結婚願望は薄くなったわけである。
それが三咲の言ったところのロマンチストゆえだとするならそうかもしれない。年を取れば取るほど恋愛と結婚の距離が縮まるから、恋愛さえ面倒だと思うようになった。
自由と引き換えのわびしさなのだと思えばおひとり様なことはまったく苦にならない。寒々しい部屋でひとりでカップラーメンをすすっていることだって、自分が好きでやっているのだから。
それをなんだ、寂しい独身中年だと思って、結婚なんて餌をぶら下げればよろめくとでも思っているのか? なめられたものである。こっちだって生半可に独身を貫いているわけではない。こういう生活を選んで独身なのである。ひとりはいい。自由だ。JKなどに割り込んでほしくない。
カップラーメンのスープを最後の一滴まで飲み干して由基はよし、と結論を出した。結婚? ないない。絶対にない。絶対に、揺らぐものか。
「ヨッシー、けっこん!」
「結構です」
「けっこん、けっこう? きゃは、ネタみたい」
「間に合ってます」
「んもう、由基の意地っ張り」
意地など張っていない。これが自然体なのだから。
「結婚て、好きな人とするんじゃなくて、結婚したいなって思ったときにそばにいる人とするものなんだって」
アコの言い方が微妙に気に障って、彼女を振りきろうとしていた足が止まってしまう。苛々した気持ちのまま振り向くと、アコは余裕な表情で由基を見上げていた。わかっていて言っているのか、この娘は。
「……俺はそもそも結婚したいと思っていないし、そういう考えも好きじゃない」
自分で思った以上に冷たい声音が出た。何スカしたこと言ってんだよ、と自分で自分に突っ込む。内心で揺らいだ由基とは反対に、アコの方は心から余裕な感じの表情を崩さなかった。
「ふふ、それならまずは結婚を前提のお付き合いだね。デートしよ」
「しません」
「デートしよ、で・え・と。まずはお互いのことをよく知らないとだもん」
「もう充分です」
結局のところ、そんなやりとりはこれまでと変わらずで、なのにこっちの消耗だけが二割増し程になった気がする。三咲はこれを「本丸に突撃しておきながらの消耗戦」と題していた。
「そりゃあ、体力も気力もないおじさんは白旗あげるしかないよねえ。屍になる前に降参したら?」
「うるさい」
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