step14.リグレット(2)
「今から付き合うなら結婚相手だなって思ってない?」
「う……そりゃまあ、考えるだろ」
「そうだよね。だから、愛情が続く相手じゃないとって思ってない?」
「……」
「もし飽きちゃっても、責任は取らなきゃいけないだろうしって思ってない?」
「……」
「バーカ」
「は? 誰がバカだと?」
「真面目に考えてんじゃないよ、バッカじゃないってこと」
下を向いてゆらゆら揺れながら三咲は淡々と話す。酔っているのだろうか。
由基のお湯割りと塩辛を運んできたスタッフに生中のお代わりを頼んでから、三咲は据わった目で由基を見上げた。
「結婚生活なんてさ、飽きるに決まってるし愛情だってなくなるに決まってるじゃん。愛の賞味期限は三年ていうでしょ。三年の間に愛情に代わる何かで関係を補強しないとならないわけよ。それをあんたは相手もいないのにその三年後の心配をしてるわけよ。なんだその転ばぬ先の杖みたいなの。バカだよね、バカとしか言えないよね」
「う……」
言われてみればそうな気もして、由基は反論できない。
「どんだけ夢見てんだよ。ひとりで勝手にハードル上げてそれで面倒くさくなってんでしょ? 失礼な話だよ、そんなあんたがいいって言ってくれてる子たちがいるのにさ」
ピッチを上げてビールを流し込む三咲の毒舌にエンジンがかかる。こうなると由基はおとなしく聞いているしかない。
「私だって、あんたが落ち着いてくれなきゃ次に行けないじゃん」
どういう意味だ? というか、もう次があるのか? 離婚して一年経つか経たないかだろうに。どこから突っ込めばいいのかわからなくて由基は無言で塩辛のイカを噛み締める。
「私なんかさ、失敗ばっかだって自分でもわかってるよ。みんな私が悪いんだよ。私がよくなかった。でもだから、やり直そうとかはまったく思えなくて、先に行かなきゃって思うし」
「前向きだなあ」
「でも、あんたがいつも横をチラチラしてる」
「そんなつもりはまったくない」
「だよねー」
くくくく、と肩を揺らして笑う様子に少し心配になる。まだそんなに飲んでいないはずだが。
「複雑なんだよ。あんたが不幸そうな顔してると心配になって、誰かいい人がいればいいのにって思うし、その反面ざまーみろとも思うし」
「おまえはそういうやつだ」
「フクザツなんだよ」
三杯目のジョッキを手にして三咲は目を伏せた。
「だからもう、とっとと幸せになってもらいたい」
「おまえの都合かよ」
「そうだよ。でないと私がすっきりしないって話」
ぴたっと由基を見据えた瞳は意外としっかりしていた。きっぱりした彼女の表情を見てようやく悟った。自分は今、振られているのだ。十四年越しに。
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