step14.リグレット

step14.リグレット(1)

「どーして振っちゃったの?」

 久々に飲みに行こうと連れ出され、仕事帰りにやって来たいつものやきとり屋で三咲みさきに早々に切り出された。

 シラフでは話せそうになかったから、早々に今夜は代行を頼むことに決め、由基よしきもまずは生中のジョッキを手にしていた。三分の二ほどを喉に流し込んでから目を投げれば、向かいに座った三咲はお通しの枝豆を眺めながら彼女にしては珍しくぼそぼそと歯切れ悪い調子で言った。


「てっきりあんたは、ことちゃんと付き合うもんだと思ってたのに」

「むしろどうしてそう思ったのかこっちが訊きたい」

「気にしてたのは店長と従業員て立場なわけでしょ。あれだけの人材がいなくなるのは痛いけど、それはそれでプライベートでは大っぴらに付き合えるようになるわけでしょ。ウハウハじゃん。ピチピチのハタチだよ。しかもモロにあんたの好みだし。清楚な感じで素直で可愛くて献身的でハイハイ言うこと聞くタイプが好きなんでしょ」


「そこまで並べ立てられるほど偏ってないぞ」

「嘘。あんた自分で言ってたじゃん。大昔に」

 まったく覚えがない。が、じとーっと目を細めて睨み上げてくる三咲の恨みのこもった視線から察するに事実のようではある。

「そういう側面があるのは認めるが」

「認めるのか」

「でも、好みかそうじゃないかなんてさ、関係なかったりするだろ」


 ジョッキを空にして通りかかったスタッフに渡しお代わりにお湯割りを注文してから目を戻すと、三咲は飲みかけのジョッキを弄びながら力なく視線をさまよわせていた。由基の言いたかったことに察しがついたのだろう。当の本人が彼の「好み」とは真逆のタイプだったのだし。


「……でも、だからダメだったんじゃないの?」

 言われて「ああ」と思ってしまった。それもそうだといえるし、でもやっぱりそれは関係なかったのじゃとも思えて、説明するのが面倒で由基は黙っていた。琴美に説明できなかった「それだけ」ではないものも同じことなのだろうと思うけれど、やっぱりうまく説明はできない。


 だから、三咲に言われたことに驚いた。

「あんたはさ、ロマンチストなんだよ。だから逆に不感症になっちゃうんだよ」

「……は?」

「年くってさ、余計にひどくなってる。だから恋愛できないんだよ」

 意味がわからない。

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