step4.デート(6)
「ヨッシー大丈夫? 救急車呼ぶ?」
そんな大げさな。
「お店の人呼んでこようか?」
恥ずかしいから騒がないで。
「だって、だって」
寝不足と暑さでめまいがしただけなんだ。
「ほんとに」
休めば良くなるから静かに…………
一時、意識が途切れたようだった。完全に寝入っていたらしい。はっと目を開けると、木漏れ日をバックに心配そうに由基を覗き込んでいるアコと目が合った。
「ヨッシー大丈夫?」
「寝てた?」
「うん、すーすー言ってた」
「マジで。どのくらい」
「ええ? 二十分とかそこらだよ。気分どう?」
「少し寝入ったらすっきりした」
話しながら額に何か張り付いている感触があって手で触ってみる。濡れた布地のようだ。持ち上げて見ると赤いギンガムチェックのハンカチだった。
「アコちゃんの?」
尋ねながら、意識は今度は頭の下へと向いていた。仰向けに寝ている後頭部に感じる心地よさ。弾力があって適度に柔らかい。
「ん。あのね、知らないおばさんが頭を冷やした方がいいんじゃないって教えてくれて。そのおばさんがね、お水もくれたよ、ほら」
アコは未開封の水のペットボトルを持ち上げて見せる。
「え、買ってもらったの!?」
「んーん。あげるからって言われたけど、後でおじさんに怒られるかもしれないからってお金をちゃんと渡したよ」
「そっか」
由基はほっとする。何事も常識的で小市民な由基は見ず知らずの人に迷惑をかけたのではと何より気にしてしまう。アコならけろっとしてタダで受け取ってしまったのではないかと勝手なイメージを持っていたが案外しっかりしているようだ。
「そのおばさんがね。暑くてまいっちゃっただけみたいだから涼しくして休めば大丈夫だよって。だからアコ、不安だったけどおとなしく待ってたんだ。ほんとに大丈夫?」
「それで正解だよ。ありがとう」
「良かったあ。ヨッシー、お水飲んで」
深刻な表情から一転、頬をほころばせた笑顔が可愛いと思ってしまった。それにしても、頭を起こすのを残念に感じてしまうこの心地よさはなんだろう。
名残惜しく思いながらベンチの上で上半身を起こした由基は、今の今まで自分がどんな状態でいたかをようやく理解し自分で自分の頭を殴りつけたくなった。
「はい。ヨッシー」
かいがいしくキャップを開けてアコがペットボトルを差し出してくる。その彼女の丈の短いキュロットからすんなり伸びた瑞々しくむき出しの太ももに、由基は膝枕されていたわけである。JKの膝に、おっさんが。公衆の面前で。
先程とはまた別の、原因が異なるめまいに襲われ、由基はベンチから崩れ落ちたい気分だった。その場に穴を掘って入りたい。
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