高橋のFLO~お金のために、頑張ります~

@kaniclub

β-1

 下校中、車にはねられた。目覚めたときにはどこか森の中...ではなく、きらびやかな宮殿...でもない、病院でした。目が明いた、と傍らでする母の喜ぶ声はどこか遠く、なぜだか現実が現実としてとらえられない。まるで三人称の視点のような感覚にとらわれながら、母と会話する。どうやら僕は軽トラにはねられ、複雑骨折&入院。命に別状はないものの、リハビリ含め完全に退院するのは2~3ヶ月先になる。高校は、出席日数が足りなくなるので夜間や休日にも学校へ行くか、中退して高校卒業資格を取るか、などの選択肢がある。退院までの間、基本ベッドの上で生活することになるので、漫画でもゲームでも欲しいものは膨大な慰謝料で購入してくれるそうだ。…話をまとめると、こんな感じだ。

「良太は欲しいものある?」

「うーん、まだいいかな。」

「そう。ゆっくり決めていいのよ。」

 しばらく看護婦さんと話したのちに、何かあったらLOINしなさい、と言い残して、母は病室を後にした。

 改めて、静かになった周囲を見渡してみる。ベッドは四台のうち自分含め三台が埋まっていて、両方男が横になっていた。かたやおっさん、かたや高校生くらいの見た目をしているが、本当のところはよくわからない。

 小一時間くらいスマホをいじっていた。HeTubeで面白そうな動画を探すというのもあったが、なによりこの殺風景な病室で何をすればよいのか分からなかったというのもある。早々に面白そうな動画は尽き、急上昇に上がっている動画を流してみる。おお、これはなかなかいい。数があるのもそうだし、なによりそれなりに質が高いものばかりだ。そうやって延々と時間をつぶしていると、次の動画が流れ始めた。それは、新しく発売されるVRMMOのβテストに参加しませんかという広告だった。


 一週間が経った。今日はVRMMO『FLO』β版開始日。三日前にオンラインで購入し、昨日届いたばかりの新品ヘッドギアを頭に装着する。実用化されて8年ほどたっているが、いまだにその値段は高いまま。一つ4~20万円といったところで、もちろんこれは20万だ。13:00~スタートということで、先にトイレを済ませ、精神統一をし、深呼吸を繰り返してその時を待った。

 デジタル電波時計が12:59から13:00に変わったのを見計らい、ヘッドギアを起動。頭にそれをつけて、VRの世界へ踏み込んだ。



 気が付くと、白い空間にいた。目の前には妖精っぽいのが浮かんでいて、ほかには何もない。まるで生きているとしか思えぬそれに話しかけようとすると、待っていたといわんばかりに元気よく話しかけてきた。

「こんにちは!私はチュートリアル用AI8号のエリエルです。あなたの使用するアバターを設定します。この設定を変更する際はそれまでの使用していたキャラクターのデータが自動的に消去されます。よく考えて決めてくださいね!」

 自分の体が目の前に現れ、ゆっくりと回転し始めた。どうやら自由に変更できるようだ。うーん、どんな感じにしよう。とりあえず、眉のあたりをいじって...目元が釣り合わない…ああ、今度は口元…


 30分後そこにあったのは、素の顔から眉を少し細くし、顔を少し小さくし、髪色を栗色から黒に変えただけの姿だった。

 これで《決定》っと。

「次に人種、第一職業を選んでください」

 一覧が表示される。こんな感じだ。

【職業】  【人種】

 剣士    人間

 槍士    エルフ

 斧士    ドワーフ

 弓士    猫獣人

 魔術師   犬獣人

 鍛冶師   兎獣人

 調理師   馬獣人

 調教師   ホビット

 神官    鬼人

 商人

 忍者

 盗賊

 

 うーん、どれにしよう。せっかくのファンタジーだし、魔法使いたいなあ。

 人種は…ホビット?って小さいし、器用に動けそう。あ、でもエルフは魔法に適正があるのか…

 結局、エルフの魔術師にした。ほかの種族は一長一短みたいだし、製作スキルにデバフというエルフはよさげ。生産系は他人に任せよう。

「次に名前を決定してください!」

 うーーーーーん、リアルの名前をそのまま使うのもなあ。高橋良太……だめだ、いいあだ名が思いつかない。

 30分後、名前はお茶に決まった。

「これでよろしいでしょうか?これ以降に変更する場合には、キャラクターのデータが初期化された状態となります!本当に良ければYesを押してください!」

 Yes.

「これにてキャラメイキングは終了!それではFantasy Legit Onlineの世界をお楽しみください!」


 エリエルがそういうと、画面が暗転し、プロローグが始まった。


 遥か昔、大陸の東に位置するアルディア王国に悪魔の軍勢が攻めてきた。

 長い間平和に暮らしていた彼らは敵に対抗するための戦力があまりにも少なく、極めて高度に発展した文明は崩壊した。

 なすすべなく次々に死んでゆく人々を哀れんだ神は、強大な力を行使して悪魔たちを封じ込めた。しかし長い年月を経て、封印の力は弱まり、彼らはもうすぐ復活するだろうということが分かった。

 さあ、プレイヤーのみんなで力を合わせて悪魔たちをやっつけよう!


 といった内容のことが古めかしい&遠回しな言葉で書かれていた。

 次から絶対飛ばすわ。長いし、内容もテンプレだった。

 


 さて、気が付いたら港町?みたいなところにいた。周囲にも同じように周りを見回してる人がちらほらいる。


 とりあえず、「メニュー」

 おっ、色々出てきた。とりあえず、「ステータス」


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 PN:お茶 Lv:1 エルフ 平常

 HP:10/10 MP:15/15 SP:0

 物攻:10 物防:10

 魔攻:15 魔防:15

 敏捷:10


 スキル:なし

 特殊スキル:なし

 称号:なし

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 おお、ちゃんと出てきた。

 じゃあ次に、「掲示板」


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 ここは掲示板です。


 ・誹謗中傷・スパム・悪質な勧誘など他者が不快になるような言動は控えてください。

 ・次のスレッドは950まで到達した時点で、AIが自動で立てます。

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 書き込みの多いスレッド:

 1.始まりの草原攻略スレpart8

 2.王都地図をみんなで作るスレpart2

 3.情報交換板part3


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 掲示板は……情報でお世話になりそうだな。

 これら以外は強制ログアウトとかヘルプとか通報とか設定とか、凡そ関係ないものばかりだ。じゃあ、とりあえず冒険者ギルドに登録しますかね。

 王都の活気のある人々の営みを横目に、マップに表示されている場所へ進む。

 そこにあったのは、ショッピングモールかと突っ込みたくなるほど巨大な建造物だった。周りの人たちも唖然としている。

 また、中もすごかった。ふつう、冒険者ギルドっつったら酒場とカウンターがあって県が飾られてるような……少なくともそこは「街の建物の中の一軒」だ。

 だが、ここは違う。

 1.床は大理石?のような白い石で敷かれていて、掃除も行き届いている。

 2.見た感じ、カウンター一つに窓口は15個くらいある。しかも、それが3つあって、1番カウンターは依頼を出す場所、冒険者登録をしに来る人用のスペースで、2番カウンターは依頼を完了させた人が納品しに行ったり、魔物の死体の持ち込みをする場所、3番カウンターは付属施設の利用受付&その他という分担ぶり。

 3.付属施設もまたすごく、見た感じ500M四方くらいある闘技場に、それを囲むようにして作られている観客席、魔物の解体スペース&解体する専門の人つきの場所、学食を彷彿とさせる食堂に、総数4080部屋の宿。


 …という内容を、並んでいる間にオッサn…おじさんプレイヤーから聞いた。

 これだけ詰め込んでいればそりゃあこれだけ大きくもなるよ。しかも、ギルドに所属する冒険者はすべての利用料4割引きというのだから、驚きである。また、このギルドの周辺にはその冒険者たちを相手にする店が立ち並び、それだけでここアルディア王都の経済の3割を担っているのだとか。


 おじさんが列から外れ、自分の番が回ってきた。

「依頼ですか?」

「冒険者登録をしに来ました」

「では……こちらの水晶玉に触れてください」

「はい」

 しばらくすると、段々と色が黄色に変わってきた。

「もういいですよ。お茶さんですね。では、ギルドカードを発行するので、三番カウンターで受け取って下さい」

 人混みの中を歩き、三番カウンターへ着いた。

 そういえば今話していた人もNPCなんだよな、と驚く。ほとんど人と変わらないので、ゲームの中である事を忘れてしまいそうだ。

 しばらく待っていると、順番が回ってきてギルドカードが渡された。それと一緒にギルドの施設の使用方法も聞かされたが、おおよそおっさんの言っていたことと変わらなかったので割愛する。

 因みに、ギルドカードの裏側は画面になっており、そこで緊急の事態を知らせたり、どんな依頼があるか見たりすることができるらしい。

 この「過去に崩壊した高度な文明」設定は、都合のいいところでオーバーテクノロジー使えるから運営さんもこういう話にしたんだろうなあ。




 ところ変わって僕は草原に来ている。目標はゴブリン10匹討伐。早速5匹の群れと出くわした。あっちも気が付いたようだ。

 ここで気が付いた。魔法、使えないじゃん。これ結構まずいのでは?魔法使えない魔法使いって一般人と変わらないよね?ていうことは……逃げるしか、ないよね?

 踵を返した。ゴブリンたちが石を投げてくる。被弾を少なくするため、左右に動きながらの前方全力疾走。自分でも何やってるのかわからないが、まあ、混乱してたんだよそうだよ。

 そうして、やっと少し引き離せたかと思えば、今度は違うゴブリンの群れに。慌てて右にそれると、そちらにもゴブリン。あっという間にモンスタートレインが出来上がった。もはやなりふり構わず逃げるしかない。そう思って、とにかく遠くへ逃げた。


 ~15分後~

 おかしい、なぜ俺は森の中へきている?町へ向かったつもりだったのだが。

 オオカミっぽい奴とかゴブリンより強そうなデカゴブリンが追いかけてきている。

 ゲームの中とはいえちゃんと疲れるようにできている。もうそろそろ限界かな。

 あと、なんでウルフとゴブリンがいっしょにおいかけてきているのかだが、どうやらターゲットが俺一人に集中しているせいだったはず。どうにかできないかな…?

 そう思っていると、アナウンスが来た。


『レベルが上昇しました。ステータスの項目から確認できます』

『スキル:筋力上昇を獲得しました』

『称号:ランナーを獲得しました』


 おお!一気に走る速度が上がった!結構楽になるな、これ。


 ~30分後~

 やっと平原に返ってこれた!町まで戻れば怖くないさ!きっと冒険者の仲間がいっぱいいるはず!


『レベルが上昇しました。ステータスの項目から確認できます。』

『スキル:筋力上昇のレベルが上がりました。』

「ほんっと、たすかる、なあ!」


 必死に逃げる。どうやらスキルレベルは自分のレベルが上がった時じゃないと増えないようだ。素早さは確かに上がっているが、疲労は蓄積するし、結局は疲れないモンスターと変わらないくらいだ。


 …なお、この時お茶にはモンスタートレインを作ってあまつさえそれを始まりの町に突っ込ませるという極悪プレイをしている自覚はなかった。 


 ~更に10分後~

 城壁が近づく。すぐ後ろには疲れを知らないゴブリンたちモンスターの姿。いつの間にか強そうな、というか絶対強い色をした鳥や蛇までついてきている。だがもうすぐだ。もうすぐで町の中だ!町の中にはモンスターは入ってこれない……いや待て。説明には「オープンワールド」って書いてあったよな。あれ、町の中までモンスターが入ってこれないなんて誰も言ってないぞ?あ、やっべ。終わった。俺死ぬやん。いやでもきっと町の兵士さんがやってくれるはず!

 どうやら城壁の上からプレイヤーたちががこちらを見ているようだ。いやそんなことはどうでもいい!よし、門まで全力ダッシュ……!



 門は閉まっていた。堅牢な高鉄の扉のようである。まずい!このままでは死んでしまうっ!……しかしここでお茶に電流走る!

 門に突っ込む直前で横にずれた。門に突っ込むゴブリンたち。壊れる門。その上を通り抜けていく俺と後続のモンスター。いよいよ町の中に入ろうとすると、待ち構えていた様子の兵士たちが俺に向けて囲むように槍を突き出してくる。突き刺さる寸前で立ち止まり、なんとか槍の上を飛び越え、兵士の目の前に着地した。呆然としている兵を横目に、町の中へ走りこむ。後ろを見れば先ほどの彼らがモンスターたちに食われている光景であった。恐ろしいモンスターたちはなおもこちらをねめつけている。壁には何故か巨大なひびが縦に入っている。

 町にNPCやプレイヤーはおらず、ただただひたすらに中央広場へと駆けた。

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