第五話 屍人の憧憬

00 レヴェナント

 レヴェナントは、アンデットに属する怪物です。

 語源は『戻りし者』や『幽鬼』の意味を持つ、エルフ古語と伝えられています。


 彼らは生前の恨みを糧に起き上がり、動く屍と化して復讐を遂げるのです。

 では、死者を蘇らせるほどの大きな恨みとはなんでしょうか?


 信じていた人に裏切られて殺されたら、憤るでしょう。

 大切な人を傷つけられたら、仕返しを誓うでしょう。

 宝物や尊厳を奪われたなら、取り戻したいと願うでしょう。

 あるいは身勝手な怨恨えんこんもあるのかもしれません。


 これは皆さんのなかにも、等しく芽生える感情です。

 誰かに嫌がらせをされ、家族や友人の悪口を言われたら、どうですか?

 きっと恨みを抱くのではないでしょうか。


 もちろん、誰もがレヴェナントになるわけではありません。

 死の淵から起き上がるほどの無念は、山よりも高く詰まれた悲しみです。

 想像を絶する傷が心に刻まれて、はじめて死者は起き上がります。


 あなたは誰かを傷つけていませんか?

 誰かを傷つける人から、目を背けてはいませんか?


 嫌なことをされたら、傷ついたと口に出して伝えましょう。

 正しくない行為を見かけたら、いけないよと注意してあげましょう。


 自分が指摘される側になると、なかなか認められないかもしれません。

 でも勇気をだして、自分をかえりみる時間をもちましょう。

 過ちを認めることは尊く、大きな成長の一歩となります。


 復讐を果たしたレヴェナントは、他の死体から怨念を得ようと墓を暴きます。

 もし死体に復讐の気持ちが宿っていれば、レヴェナントは何度もでも蘇ります。

 ですが見つけた死体が安らかであれば、やがて力尽きてしまうのです。


 悲しいことが絶えることはありません。

 けれど優しい心が繋がれば、世の中は明るく光に満ち溢れるでしょう。

 あなたがレヴェナントを知らずにいたのは、その善意の証です。


 隣人を慈しみ、家族を愛し、自分を大切にしてください。

 正しい行いを、女神ダヌはいつも見ておられます。


 愛にすべてを。星刻せいこく彼方かなたに導きがありますように。


 ――ゲラルト・ミュラー『おばけなんかこわくない』(ヌアザ教会児童館、一八一一年)


【登場人物】

 ユウリス・レイン:黒髪の少年。レイン公爵家の庶子。本編の主人公。十四歳。

 ヘイゼル・レイン:金髪の少女。レイン公爵家の三女。


 マライア:異教徒の老婆。

 スコット・ラグ:家鳴りに悩まされる男。四十二歳。


 ケーラ:教会のシスター。二十三歳。

 ナルニア・ブルックウェル:女医。二十七歳。


 イライザ・レイン:金髪の少女。レイン家の長姉。十五歳。

 セオドア・レイン:ブリギット国を治める公爵。ユウリスの父親。

 ウィリアム・アーデン:赤毛の男。ブリギット領邦軍の将軍。四十歳。


 ジェシカ・バーク:レイン家の侍女。二十九歳。

 ジェイムズ・オスロット:口髭の男性。ブリギット市警察の警部。三十八歳。


 ウルカ:怪物狩りの専門家。二十代の女性。


 登場人物イラスト(リンク先:近況ノート)

 https://kakuyomu.jp/users/nagarekawa/news/16817330654131674912

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