相田の秘密
相田が学食から出て入れ替わりに
「おやおや幼馴染お二人さんだけ? 相田と幼馴染の三角関係いがみ合いを見物しようと思っていたのに」
「そんな昼ドラのようなドロドロ起きていないから」
「いやぁこの時間ならちょうどいい時間ですし、起きてもおかしくないと。まあ起きなくてよかったよかった。というわけでアリーのお弁当いただき」
ひょいと一瞬の隙を見逃さず有果が持っている弁当から玉子焼きを一つ摘まみ口の中に放りこんだ。
「うむうむ。今日はちょっとしょっぱめですな。この前は砂糖多めの玉子焼きだったのに」
「それ俺が作ったやつだからな」
「ありゃりゃ、よく見たらお弁当の大きさが違うや。ごめんね渡会あとでジュースおごるよ」
「私の時には何もなくいつも玉子焼き盗っていくんだ食い逃げさん」
「あっはっはっは。では今までの分を分割でお支払いしましょうか。それともドーナツで一括払いのほうが」
「一括払いで」
意外と手厳しい裁定だことで。うぅっと自業自得であるのに今月の小遣いのことで悩みだす安宅であったが、何かを探しているかのように学食内を隅から隅まで見まわした。
「相田はもういないのですかね」
「もう学食から出て行ったぞ」
「そうかタイミング逃したか」
「何か聞きたいことでもあったのクリちゃん?」
「うんにゃちょっとストーカーでもしようと思いまして」
「えーっと自己申告の場合の犯罪はどうなるのかな」
「嘘です嘘です。学生の身分で前科持ちはご勘弁を、じゃなくて真面目な話。相田ふなみが学食を出た後どうしているか探しているのですよ」
「自分の教室に戻ったんじゃないの」
安宅は首を横に振った。
「うちの放送部、昼休みの直後は音楽をかけて放送案内をしてからお昼休みに行くのが通常なんですよ。だから昼休みになると十五分過ぎとかにお昼ご飯になるんだけど、彼女それよりも早く着ていてましたよね」
「じゃあ交代とかじゃないの。お昼に流している曲を取りに行くとか」
「いやどうも引っ掛かるんだよね。お昼のこともそうだけど、彼女クラスでも深い所までは教えてくれないことが多いらしくて。でもその一方で、クラスの男子が呼んでいた漫画にすごく
「その話題はやめてくれ、俺に効く」
「ごめんごめん。でも色々不思議なんだよね。うちの演劇を見学にくるのもファンになったからと思っていたら、渡会にばっかり注目していたりとかね。私も一端の乙女ですし、あれは間違いなくホの字だと思ったんですけどね」
安宅の意見で色々思い返してみると、相田にはちぐはぐなところが多くみられる。
演劇に詳しいにしては、全体の演劇や他の役者により俺の所にばかり集中してみてくる。しかも俺が裏方に回っている日には、すぐに帰る徹底ぶり。
安宅に指摘されなくても、他の男子ならば惚れてしまったと勘違いするにはおかしくないだろう。
「ミステリアス少女か、恋愛駆け引きをする魔性の女か。謎だね相田ふなみ」
ちょうど俺のお弁当を食べ終わって手を合わせた有果が訝しげる。すると安宅の眼がきらりと光った。
「で、どうよ渡会よ」
「なにが」
「ミステリアス少女の秘密、ちょっと探ってみないかい?」
***
見える曲がり角から、じっと放送室から相田が出てくるのをみつめる。
安宅の誘いに乗って放送室にまで来たまではよかったが、中かから鍵がかかっていた。中の様子を盗み聞きするにも防音を施している放送室では相田が何をしているか何も聞こえてこないので、しかたなく彼女が出てくるタイミングを見計らって安宅と共に監視していた。
「ふむ、星は出てくる気配がありませんぞ警部」
「今度は
「監視と言えば刑事でしょ。アンパンと牛乳はありますか」
「持ってないし、さっき昼飯食べたばかりだし」
「自主的に参加した癖に気が利かない上司ですね」
悪かったな。まあ、ここまで怪しい行動がてんこ盛りだと俺も気にならないわけがない。相田ふなみの一貫しない行動がどこから来ているのか、どうして俺を「勘違い」という言葉で済ませて振ったのか。そのわけを一端でも探り当てたい。
しかし待てど暮らせど放送室から相田が出てくる気配は全然なく、あと十分もしないうちにお昼が終わってしまう。参ったな次の授業の先生一分でも遅れたらマジギレするんだよな。
「ねえねえ、ちょっと話変わりますけど、ここ数日アリーと仲がよろしいことですね。もしかして乗り換えましたか?」
不意に飛び出してきた有果との仲に、胃の中のサンドイッチがひっくり返りそうになった。いやこういうことは部長の時でも経験したのだが、直球高めに来るのだから内蔵に悪い。
「お前な。そういうこと直接言うか普通」
「私に常識と真面目さをお求められても困りますね。で、で、どうなんです?」
「付き合ってはない。あれはいつも通りのこと。今日弁当作ってきたのは試しだ」
「ほっほ~う。にしては凝った作りのようですね」
「見栄だよ。下手に惣菜一色なんて恥ずかしいからネットでレシピを見ながらつくったんだよ。男は料理するときはこだわるんだ」
嘘をついてごまかしたが、見栄を張りたい気持ちはあった。
間違って有果のを作ろうとした手前、最初豚の生姜焼きとか総菜のから揚げとかで詰め込もうとしたが、女子相手に肉肉しい弁当とかでいいのかと思い直した。とっさに『家庭科室の御厨くん』に出てきた彩り豊かなお弁当のことを思い出したのが幸いし、自分の記憶とネットに出ていたレシピを見ながら作ったものだ。
幸い、有果も相田も好評だったし俺のあの判断は間違いではなかったというわけだ『家庭科室の御厨くん』様様だ。
じ~っといつもは夏場の太陽のようにうざったらしい目が、ジトっとした怪しむ目で安宅は見つめていた。
「まあ、それで納得します。アリーは普段から渡会とくっついているものですからね。意外と天然無自覚ですし。でも友人からしたらアリーはありですよ」
「…………それは」
「ギャグじゃないですよさすがに。本当にアリーはいい子で優しくて、って幼馴染に釈迦に説法ですよねこれ。まあ同性からしても良妻賢母の優良物件、しかも幼馴染ですよ。幼馴染。ラブコメとかではよくある最高のカップルじゃないですか。今なら可愛い女友人も後ろからついてきますよ」
その女友達はノーセンキュー。
「いや、有。いや三田にはなちゃんとした恋人を作ってほしいから…………というか話してなかったかな、小中と俺と三田が付き合っていたの」
「うえっぇえぇえ!? マジスカ!? つかなんで二度も別れたの!?」
声が大きい。監視に声は禁物ではないのか。
しかしこいつの頭の中にはもう相田のことなどすっぽり抜けているようで、執拗に別れたことについて聞き出そうとして、終いにはグルグル俺の周りを周回し始めた。
「小学校の時にあいつから告白されて付き合ったんだけど、最初付き合うって意味を恋人としてと理解してなかったんだ。でも後になって、友達の女子に好きな人のことでちょっといじめに遭いそうなったことを知ったんだ」
「つまり、いじめられないように偽カレを演じていたという」
「うん。でも小学生だったから幼馴染の友達と変わらないやり取りでも十分周りからは恋人同士だと見られていたから、苦痛じゃなかった。相手が三田だからしつこく求めることもなかったしな」
二度目の時も同じだ。あの時も自分に好きな人がいないことに苦痛を感じたのだろう。演劇ばかりしか取り柄がない俺と恋人の関係を結んで満足してくれればそれでいい。
でも俺はあくまでつなぎ、有果に本当に好きになった人が現れるまでは俺はいつでもあいつの恋人としてやるつもりだった。しかしまさか俺自身に初恋が来たなんて思いもしなかった。そして、今回の第三次お付き合いがまさかあいつの方から、俺のためにしてくれることすらも思いもしなかった。
ようやく足を止めた安宅が少し俯き居心地悪く、反省する顔を見せた。
「そんなことがあったんすね。何か一人盛り上がってすみません」
「もう過ぎたことだから。だから三田とはもう……」
恋人として付き合えないと口にする寸前、背後から透明感のある声で「あんたたち何をしているのそんなところで」本日二度目の驚きを迎えた。そして人物は相田ふなみであった。
「おお、やっと出てきた。実は相田に次の演劇のことで誘おうと思ってな」
「そーなんですよ。ほら私たち演劇部って常にお客の反応を見ないとどこが良い悪いを判定しないといけないので。演劇にお詳しい相田に来てもらいたくこうしてお誘い申し上げたい次第で」
相田が出てくるのを監視していたのがバレないように即席で嘘をついたのだが、安宅はまるで事前に打ち合わせをしたかのように俺の嘘に合わせてヘコヘコと手もみをする。
「そうだったの。でもごめんなさい、演劇をする日は私用事があって行けないの。また次があったら行くわ」
「へい、またのご機会お待ち申し上げます」
えへへと安宅は怪しい商人のような笑顔を作って、相田が去るまでその顔を続けた。よかった安宅がLINEで返事しなさいよと言及されなくて。
そして相田の姿が再び見えなくなると気が揉んだのか、全身の筋肉の緊張がほつれた。
「ふぅ助かった。でも何の成果も得られなかったのは残念です」
「成果がなくても、被害がないだけ十分だよ」
ただでさえ、偽カノのことを隠しているのにこれ以上隠し事をしているといつかどこかでぼろが出ないかひやひやしてくる。
そしてちょうどお昼休み終了のチャイムが鳴ってしまい、数学の先生から雷が落ちるという被害が出てしまったのである。
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