第99話 テスト返却
「それじゃ、これから今回のテストの答案を返してくぞ~。名前呼ばれたら出て来いよ~」
俺は今、生きるか死ぬかの崖っぷちに立たされている。それも、答案返却という名の険しい崖の淵に。
たかが答案返却だろう?できなかったものだって次頑張ればいいじゃないか?
そんな風に思った君たち、現実はそんなに甘くないのだ。なぜなら、テストの点数が悪いと……、補習というものが存在してしまうのだ~!
しかも!補習期間は次の土日!
別にその日が普通の土日だったならば、俺だってここまで緊張することはなかったのかもしれない。でも、今度の土日は訳が違う。
なぜなら……、涼風の誕生日祝いの計画を立てているからだ!
もちろんこれは、涼風には言うことなく、完全に俺が秘密裏に計画していることだ。だから、仮に俺が補習になって、今回考えている計画がなくなってしまったとしても、涼風はそんなことなど知る由もないのだ。
だったらそんなに心配することないだろうって?
でもさ、でもだよ?恋人ができて初めての自分の誕生日、肝心のその恋人と一緒に居られないってのはどうなのよ?
もしかしたら涼風は、俺じゃなくても榊原とかが一緒に居ればいいのかもしれないけど、俺は涼風と一緒に居たい。彼女の誕生日、俺が一番に祝ってあげたい。
それに、プレゼントを渡すタイミングだって考えたらどっちがいいかなんて一目瞭然だと思う。
誕生日当日。不意に俺が涼風に出掛けようと誘う。何も知らない彼女は黙って俺とのデートを楽しむ。いろんな所へ行って、写真を撮って、美味しいものを共有して……、そして夜は少しおしゃれなレストランへ。いい感じの雰囲気になったところで、そっと俺が彼女にプレゼントを渡す。そして言う言葉はたった一つ……。
「この世に生まれてきて、俺と出会ってくれてありがとう」
ね?どうよ?一応、補習だった場合もやってみる?
誕生日当日。いつものように朝食をとって、俺だけ玄関へと向かう。それも全て、補習に行くため。
「じゃあ、悪いけど、行ってくるから」
俺はあえて彼女に対して何も言わずに家を出ていく。それから四時間ほど、俺はただひたすら補習を受け、涼風もまた、ただ一人の誕生日を過ごす。そして、いよいよ補習から解放された俺は、いつものようにスーパーで買い物をして帰る。玄関にはいつもと変わらず涼風がいる。俺は彼女をそっと抱きしめて、スーパーの袋と共に彼女にプレゼントを渡す。そして言う言葉はたった一つ……。
「補習、ようやく終わったよ……」
いや、何よこれ!ダサすぎっていうか、最悪でしょ⁉何が「補習、ようやく終わったよ……」だよ!涼風の誕生日なんだよ?彼女と一緒に居たいでしょう?一個目みたいな素敵な感じがよくない?
ってなわけで、俺は非常に緊張しているのです。
「次~。姫野~」
おっ!涼風の番だ。相当いいと思うけど、いったいどれくらいの成績なんだろうな……。
彼女は自分で一度確認すると、俺の方に駆け寄ってきた。
「謙人くん謙人くん!学年順位、一位でした!」
ハ?イチイデシタ?
「え、えっと……、総合一位だったの?」
「はい!そう書いてあります!」
涼風は嬉しそうに俺の方に紙を見せてきた。そこには本当に総合一位と書かれてあった。
この子、凄すぎませんかね?っていうか、本当にこんな完璧美少女っていたんだね……。
それにしても……、
「な、なぁ涼風。数学と古典、満点だったのか?」
そう、彼女の数学と古典の欄は三桁の数字が書いてあったのだ。
「そうみたいです!自信があったので嬉しいです!」
美人で優しくて、古典文学の知識もある……。光源氏さん、負けました。でもどうか、涼風だけは盗らないでください!
俺はそう、光源氏さんに祈るしかなかった。
それにしても、本当に驚くばかりの成績だ。それ以外の教科も、ほとんど全部90点を超えている。超えていないのは……保健体育……。
うん、これは追々ってことで大丈夫だと思う……。多分ね……。
「それじゃあ、次は、謙人~」
はっ!つ、ついに俺の番に……!や、やばい!心臓が!
俺は遠ざかろうとする足をなんとか前に踏み出して、先生が手にもつ紙を受け取った。
「彼女効果って、やっぱすげぇのか?お前の成績、俺は正直びっくりしたぞ?」
返すとき、先生にボソッとそんなことを言われた。
えっと……それはどっち意味なんでしょう……?せめていいのか悪いのかわかる言い方をしてくれないと……。
それでも、もう確定しているものはどう足掻いても覆らない。俺は恐る恐るその紙を開いた。そこには……、
現代文 83点
古典 94点
数学 88点
理科 81点
社会 96点
英語 79点
家庭科 99点
保健体育 90点
エ?ナニコノセイセキ?
本当にこれは俺の成績表なのか?
慌てて名前を確認するも、やはり氏名は間違っていない。
え?俺がこんなにすごい成績を取っちゃったっていうの?
総合順位は……、なんと学年7位。いつもは大体50位くらいだったから、飛躍的な進歩と言える。
「謙人くん、どうでしたか?」
「自分でもびっくりしすぎて、ちょっと何て言ったらいいか分からない……」
俺は涼風に自分の成績表を手渡した。涼風の反応は……、
「す、すごいじゃないですか、謙人くん!ほとんどどれも、80点以上取れてますし、家庭科なんて、ほとんど満点じゃないですか!」
家庭科に関しては、改めて自分の主婦力の高さに驚いています。俺、まじで将来、ヒモになろうかな?俺が家のことやって、涼風に働いてもらった方が良い気がしてきた。
「おいおい謙人~。お前、どうだったんだよ~?」
俺の顔を見て、良くなかったと判断したのか、康政がニヤニヤ顔で迫ってきた。
涼風が康政に、俺の成績表を手渡した。
「ほほ~う。……って、なんじゃこりゃぁ!お、お前、こんなに成績良くなかっただろうよ!」
「うん、そうなんだよね……。自分でもちょっとびっくりしてる……」
「おいおい……。これはびっくりなんてもんじゃねぇよ……。俺はてっきり、お前が彼女にうつつを抜かして前までよりも成績を落とすと思ってたのに……」
これも毎日、涼風が勉強を見てくれたおかげだろう。彼女効果、本当にすごいと思う。
「だけどこれじゃあ、ますます謙人の株が上がっちまうなぁ~」
そんなことを康政に言われ、ふと周りを見渡すと、なぜか皆、同じように頷いている。
「かっこよくて、彼女思いで、意外と運動もできる、だけじゃなくて勉強もできちゃうとなぁ……」
「南……俺らのモテを全て奪い去りやがって」
「お前、いったいどんだけモテれば気が済むんだよ」
「涼風ちゃん、これじゃあ彼氏守るのが大変ねぇ……」
「他学年の女がほっとかないわねぇ」
え?なんでそういうことになってるの?俺はむしろ、涼風への感謝と愛情がより一層深まったっていうのに。
「ま、お前は無自覚だから、気づかなくても仕方ねぇよな。姫野さん、謙人の事頑張れよ?」
そう言うや否や、涼風が俺に抱き着いてきた。俺は何が何だかよく分からなかったが、とりあえず涼風を抱きしめ返しておいた。
「どうした、涼風?」
「謙人くんは本当に気づかなさすぎです。今の謙人くんは、とってもかっこよくて人気があり過ぎるんですからね?」
それは涼風の方だと思うんだけどなぁ……。涼風の秀才っぷりが他の学年にまで知れ渡ったら、涼風の人気度がまた上がっちゃう気がする。
「心配しなくても、俺は涼風しか見てないから。それよりも俺は、涼風の人気が上がっちゃいそうで心配だよ……」
「私も謙人くんしか見ていないので、心配いらないですよ」
無自覚な二人は、相思相愛なことによって、勝手に他の人を排除しているらしい……。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
ついに今回で、99話と!あと一話で100話達成です!
そして、評価のお星さまも、100個頂きました!皆さん、ありがとうございます!
そして、100話ですが、前からこの話にしよう!というのは決めていたので、いよいよその部分まで来たかと思うとなんだか嬉しくなってきます!
それでは皆さん、100話目をお楽しみに!
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