第100話 ピンク色の傘
お待たせしました!いよいよ100話です!
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「それじゃあ、今日はこれで終了だぞ~。今回のテストの結果をしっかり受け止めて、次回に繋げるように。……とは言っても、せっかく終わったんだ!今日は遊べ遊べ~!」
教育者がそれでいいのか?まぁ言われなくても今日は涼風と一緒にずっとのんびり過ごす予定だけどさ……。こんなこと言う教師、この人くらいじゃないか?
テスト返却も終わって、今は帰りのホームルーム。志賀先生が教壇に立って、俺たちに遊べと言っているところだ。
「あ、今回の順位だが、明日の朝には掲示板のところに張り出しておくから楽しみにしとけよ~。今回は意外な奴もランクインしてそうだしな……」
おい、先生。なぜ俺の方をガン見してくるんだ?それに、意外とはなんだ、意外とは。確かに自分でも驚いてはいるけどさ……。
俺の学校のテストの順位は、上位30位までの人が、テスト返却の次の日掲示板に張り出される紙に名前が書かれている。どうやら俺も、今回初めてランクインしそうな感じだ。涼風様には感謝しかないです、本当に。
「それじゃあ、今日のホームルームはここまで!じゃあな~」
先生も、どこか嬉しそうな様子で教室を出て行った。午前授業、しかも授業はテスト返却のみ。先生も楽だから嬉しいものなのだろうか?
「謙人くん!一緒に帰ってもいいですか?」
「今更、そんなに改まって聞かなくていいのに。俺も涼風と一緒に帰りたいよ。一緒に帰ろう?」
「はい!」
涼風もニコニコの上機嫌だった。
テスト後の、この開放感。この幸福だけは、何度味わっても最高だと感じると思う。
「涼風、帰りせっかくだしどこか寄っていくか?なんなら俺はお昼を外で食べてもいいけど」
すると涼風はもじもじしながらボソッと呟いた。
「きょ、今日は、早くお家に帰って、謙人くんにくっつきたいです……」
なんだこの天使は……。まじで涼風の後ろ側に後光がさしているように見える……。はっ!もしや、涼風の頭の上の輪っかは!
「あの、ダメですか……?」
おっと、いけない。うっかり涼風に見惚れすぎて返事を忘れてしまった。俺の答えなんて、もちろん……、
「ダメじゃないよ。俺も涼風とずっとくっついていたいからね。じゃあ、今日は早く帰ろうか?」
涼風もこの世で一番美しいと断言できるほどの笑みで大きく頷いた。
そして俺たちは、そろって昇降口まで出てきたわけなのだが……。
「おぉ……」
「あぁ……」
「雨、だな……」
「雨、ですね……」
そう、朝はあんなにいい天気だったのに、今では外は雨が降っていた。それも結構本降りといった様子で。
どうしたものか……。今日はまさか雨が降るなんて思っていないから、傘なんて持ってきているはずがない。折り畳み傘も俺は持ってないからなぁ……。
俺一人だったら迷わずに走って帰ってたけど、涼風がいるからな……。濡れて風邪でも引いてしまったら大変だ。
「どうしようか……?」
涼風はカバンの中に手を入れると、どこかで見たことがあるようなものを取り出した。
「私、折り畳み傘持ってました!これ、あの時謙人くんが拾ってくれたものですよ!」
そうだ!思い出した!どこかで見たことがあると思ったら、あの日俺が拾った傘じゃないか!まだ半年くらいしか経ってないのに、ものすごく懐かしく感じる。
「なんだか懐かしいなぁ……。これがきっかけで、俺たちは知り合ったようなものだもんな」
初めて話しかけたきっかけは、定期券を届けたからだったが、あれだけだったらこうして俺たちは仲良くなることは無かっただろう。そう考えると、やっぱり俺たちの恋のキューピットはこの傘なんだよな。
「謙人くんがこれを拾ってくれたから、こうして私は謙人くんと一緒に居られてるんですよね……。あの時は本当にありがとうございました!」
「あの時の偶然が、まさかこんなことになるとはな。世の中、分からないことだらけだな」
なんだかおかしくて、思わず笑ってしまった。それにつられたように、涼風も一緒に笑った。
「謙人くん、これを使って一緒に帰りましょう」
「そうさせてもらうよ。まさかこの傘にお世話になる日がくるなんてな……」
あの時、駅でこの傘を拾った時は、まさかこんな未来が訪れるなんて思ってもみなかった。それがこうして今、またこの傘を掴もうとしているのだから、世の中本当に分からないものである。
涼風から傘を受け取って、それを広げた。それは涼風によく似合う、ピンク色の、きれいな傘だった。
「俺が傘持つから、涼風も一緒に入ってな。濡れるといけないから、こっちにおいで」
傘を持っていないほうの手で涼風の肩を引き寄せると、涼風は顔を真っ赤にした。
「涼風、そんなに恥ずかしがるようなことか?」
「うぅ……。だ、だって、ずっと謙人くんと相合傘したかったんですもん……。それができて嬉しいのと、いきなりこんなに引っ付いたら、恥ずかしいのと……。もう頭の中がぐしゃぐしゃです……」
まじで何だこの可愛すぎる生き物は……。早く家に帰って可愛がるとしよう。
昇降口から一歩踏み出すと、頭上の傘に雨粒が打ち付けてきた。俺は涼風が濡れないように、もう一度涼風を強く自分の方に引き寄せた。
「謙人くん、今日はやっぱり、ゆっくり帰りませんか?謙人くんとこうして相合傘していたいです……」
本当に涼風たんは俺をどこまで悶えさせる気なんだろう?そろそろ俺、死んじゃうぞ?
「いいけど、風邪ひかないようにね。寒くなったりしたらすぐに言うんだよ?」
「大丈夫ですよ。それに、寒くなったらこうしますから……」
涼風はそっと俺の腕に抱き着いてきた。一気になんだか柔らかいものに包まれたような感覚に陥る。うん、耐えろよ俺の理性。
「寒くなくてもこうしてていいよ。こうしてればお互いに濡れずに済むし」
涼風はさっきよりも強くぎゅっと俺の腕に抱き着いてきた。右腕に伝わる温もりに、計り知れない幸福感を覚える。なんだか俺も、今日はすごくゆっくり帰りたくなってきた。
降りしきる雨の中を、ピンク色の傘を差した一組のカップルが、寄り添いあってゆっくりと歩いて行くのだった。
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さて、ということで、これが100話目になります!
ついにここまでやってくることができました!
今回の話ですが、少し前から100話目は絶対にこれにしようと決めていたんですね。というのも、この小説、タイトルが『ピンク色の傘』じゃないですか?それにもかかわらず、傘が登場したのがほぼ1話のみっていう……。これはまずいだろうと思って、100話ちょうどで、この相合傘の話を入れようと思ったわけなんです!
コメントでも頂いたように、二人の少し先の未来の話を入れるのも面白そうだと思いましたが、ここはやはり、一応タイトルに沿った話にしておこうと思いまして……。
未来の話も、どこかで閑話的に入れられたらいいなと考えています!
ということで、これが『ピンク色の傘』、第100話になります!ここまで読んでいただいた皆さん、ありがとうございます!まだまだお付き合いいただけると嬉しいです!
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