第98話 テスト勉強

「ただいま~」


「謙人くん、お帰りなさい!ご飯にしますか?お風呂にしますか?そ、それとも、わ、私にしますか?」


 うんうん、何回やっても恥ずかしがっちゃう涼風たんは最高に可愛いねぇ~。


「もちろん涼風で」


 俺は涼風を自分の方に引き寄せてそっと抱きしめた。


「榊原とは仲良くなれそうか?」


「はい。すごく優しい人で、話していてとっても楽しかったです」


「それなら俺も一安心だよ。俺には遠慮しないで、二人で遊びに行ってきたりしてもいいからね?俺とは家でいつでも一緒に居られるから」


 それでもやっぱ、寂しいもんは寂しいよなぁ……。ま、最優先は涼風が仲の良い人を見つけて孤立しないようにすることだから、俺の我慢は仕方のないことなんだけどね。


「でも私、どんなに仲の良い友達ができても、一番一緒に居たいのは謙人くんです。だから、私は謙人くんと一緒にいます!」


 そう言って彼女は俺にもっと強く抱き着いてきた。俺も涼風を強く抱きしめ返す。


「そう言ってもらえると、本当に幸せな気持ちになるよ。俺も涼風と一緒に居たいからね」


「はい!謙人くんとずっと一緒です!」


「そうだね。ただ、今はとりあえず家に上がってご飯を食べようか?」


 ずっとここでこうしてるわけにもいかないし、そろそろおなかも空いてきた。涼風を愛でるのは、食後にとっておこう。




「それじゃあ、召し上がれ」


「はい!いただきます!」


 今日の夕飯は肉じゃがを作ってみた。俺の中では料理の中でもかなり得意なほうの一品だ。とはいえ、毎回毎回、俺が料理を持ってくるたびに目をキラキラと輝かせて楽しみにしてくれている涼風には本当に感謝だ。毎日料理をしていて、とても楽しくなってくる。


「涼風、味はどうだ?」


「とってもおいしいですよ、謙人くん!私、この肉じゃが大好きです!」


 俺は思わず涼風の頭に手を伸ばして、そっと撫でた。


「いつもありがとな。涼風に美味しいって言ってもらえるととっても嬉しいんだ」


「それは私も同じです。朝ご飯、いつも謙人くんが美味しいって言ってくれるので、毎日作っていて良かったって思えます」


「俺たちって、考えてることも一緒なんだな」


 可笑しくなって、二人で笑いながら夕飯を食べた。彼女といると、ご飯が信じられないほどおいしく感じる。



「謙人くん、今日もありがとうございました」


 俺が皿を洗い終わってリビングに戻ると、涼風は机に向かって勉強していた。そういえば、テストが近いんだった。俺も勉強しなくては。


「よし!俺も勉強するか!」


 自分の勉強道具を持ってきて、涼風の隣に腰を下ろした。涼風を見ると、彼女は古典の教科書を開いていた。


「俺も古典でもやるかな……」


 教科書を開いて、今回の試験範囲のページに目を通す。ただひたすらに、教科書一面に文字が羅列してある。


「うげぇ……。ダメだ、意味わからん」


 この文章を書いた昔の人っていうのは天才なんじゃないかと思ってしまう。こんな難しい単語をたくさん使って、よくこんなものを書けたものだ。俺にはさっぱり分からない。


「なぁ涼風。助けてもらってもいいか?」


 熱心に勉強している涼風の邪魔をするのは気が引けたが、これでは全く勉強が進む気がしない。


「はい、何でも言ってください!」


「あのさ、この源氏物語って、どんな話なんだ?」


 今俺が開いているのは、源氏物語という作品のページだった。


「えっと、簡単に言うと、主人公の光源氏という人が、いろいろな女性と恋をする話じゃないですかね?他にも色々と書かれている内容はありますけど、それが一番じゃないかと」


 いろいろな女性と……恋だと……?


「なんて下劣な野郎なんだ!最悪すぎる!複数の女の人に手を出すなんて信じられない!俺はもちろん涼風一筋だからね!安心してね!」


「私は心配していませんから大丈夫ですよ。それに昔は、複数の女性と恋をすることはそんなにおかしなことではなかったんですよ。今とは大違いですよね」


 なるほど……。


「でも俺はたとえこの時代に生まれていても、涼風一筋だった気がする。他の人は全く興味がわかないよ」


 涼風が俺の方に近寄ってきて、俺にもたれかかった。


「そんなこと言われたら、謙人くんにくっつきたくなっちゃうじゃないですか。お勉強しないといけないのに……」


「ちょっとくらいなら大丈夫じゃないか?休憩だと思えば」


 俺は涼風を優しく撫でた。彼女は気持ちよさそうにして俺の腕に抱き着いてきた。


「私だって、謙人くん一筋ですよ。もしこの光源氏さんのようなすごくかっこいいと言われたような方がいても、絶対に謙人くん以外を好きになることはないです!」


 俺は涼風を抱きしめ、そしてそっとキスをした。久しぶりのそれは、涼風をより一層愛おしく思わせた。


「涼風、ありがとう。愛してる」


「私も謙人くんが大好きです……」


 そのまま今日はずっと……なんてこともなく、さすがに目前に迫ったテストに危機感を覚えた俺は、涼風に教えてもらいながら、着々と勉強を進めた。


 もちろん、教えてもらっている間、俺は机の下で涼風の手をずっと握っていたんだけどね?


 そうして、一日一日はあっという間に過ぎて、気づけばテスト当日になっていた。









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源氏物語の解釈は、この話を書くにあたっての完全なるご都合解釈ですので、捉え方は完全に偏っています。とても優れた文学作品だと思っておりますので、その辺りは誤解のないようにお願いします……。

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