第97話 ばったり

「よし!それじゃあ、帰るか!」


 涼風へのプレゼントも決まって、俺はようやく康政から解放されることとなった。とは言っても、プレゼント選びも手伝ってくれたし、助かったな。


「康政、なんだかんだでありがとな。助かったよ」


「これで、夏休み最後の方に俺がした頼みごとの貸し借りはチャラってことで」


 そういえば、そんなこともあったなぁ……。ま、ばれないならそれでいいか。


「うん、分かった。そうしよう」


 康政も満足そうに頷いた。康政は根は良いやつなんだ。どんなに俺を揶揄おうとも、俺が本当に嫌なことは絶対にしてこない。だから俺も、ここまでこいつに気が許せているんだろう。


「なぁ、あれゆめのんたちじゃないか?」


 見ると、すこし先の方を涼風と榊原が歩いていた。


「ホントだ。すごい偶然だな」


 俺たちは速度を上げて、彼女たちに追いついた。


「ゆ~めのん!」


 お前さぁ……、端から見たら女子高生に近づいてってるただの変態だぞ?少しは自重しろ!


「あれ?康政くんだ~!なんでここに~!」


 榊原が気にしないやつでよかったよ……。これで避けられでもしたら本当にあいつ通報されちゃうから。


 早速二人はお互いを見つけるとくっつき始めた。よくも人前で堂々と……。俺たちはそんなことしてないぞ?


「涼風、たまたまだな」


「謙人くんも高田さんと一緒だったんですか。私も夢乃さんと一緒にお喋りしてたところなんです」


 早速仲良くなれたようで良かった。榊原とは気があったようで何よりだ。


「良かったな、涼風。仲良くなれて。……それはそうと、俺は涼風に謝らなくちゃいけないことがあるんだ」


「私に、謝る、ですか?」


「あぁ。ごめん涼風!一緒に住んでること、俺口滑らして康政に言っちゃったんだ!」


「え、そんなことですか?」


 涼風はこれっぽっちも驚いていなかった。


「私は別にばれてしまっても仕方ないかなと思っていたので大丈夫ですよ。……ただ、謙人くんと二人だけの秘密っていうのも良かったですけど……」


 俺はたまらず涼風を抱きしめた。


「涼風、ごめんな。俺も涼風と二人だけの秘密が良かったんだけど、俺がバカなばっかりに……。本当にごめん!」


「そんなに謝らないでください。いっぱいある二人だけの秘密の中の一つがばれてしまっただけじゃないですか。まだまだいっぱい、私だけしか知らない謙人くんはいっぱいあるんですよ……?」


 涼風が可愛すぎるぅ!俺にだって、俺にしか知らない涼風はいっぱいいるぞ!俺が作った料理をおいしそうに食べてくれる涼風とか、眠そうにソファーでウトウトしてる涼風とか、寝起きのいつもより幼く見える涼風とか……。


 数え上げたらきりがない。俺の脳内は今、涼風で埋め尽くされている。


「俺も一緒だ、俺しか知らない涼風がいっぱいいる」


「じゃあ大丈夫ですよ!それに、一緒に住んでることなど、しばらくすればばれてしまうものです。それがたまたま今日だったということじゃないですか。それに、まだ知っているのは高田さんだけですし、あのお二人ならお家に来ていただいてもいいかと思っているので」


「涼風……ありがとう……!」


 俺はもう一度涼風を強く抱きしめた。彼女は俺に優しすぎる。これでは俺がどんどんダメ人間になっていってしまう。


 それはそれで、涼風に甘えられるし涼風にも甘えてもらえるし、ギブ&テイクでいいんじゃないか?


 とふと浮かんでしまった邪な考えを慌てて振り払った。ヒモになるなんて嫌だ。涼風の事は俺が幸せにしてあげたいし、何不自由なく暮らせるようにしてあげたい。そのためにも、俺がヒモになるなどあってはならないのだ!


「涼風……帰ろっか」


「そうしましょう。もう遅いですし、夜ご飯も作りますからね」


「そうだな。今日の夕飯は何にしようか?涼風は何が良い?」


 涼風はニコニコと「謙人くんが作るものならなんでもおいしいです」と言ってくれた。それじゃあ、今日はいつも以上に腕によりをかけて作んないとな。


 俺は涼風の手を取って家の方へと歩き出した。涼風は当然と言ったように腕を絡め、俺にぴったりくっついてきた。俺が涼風の方を見ると、彼女も俺の方を見ていて、目を合わせて二人で静かに微笑む。それだけで幸せだと感じた。



「なぁ、あいつら、ナチュラルに俺たちの事忘れて二人で帰っていったよな……。あれで何がイチャついてないだよな、本当に……」


「康政くん!私たちも早くあのくらいになろうよ!っていうか、いっそのこと私たちも同棲しちゃう?」


 あいつらを忘れて帰ってしまったのは、当然と言えば当然なのだろう。俺の目には涼風しか映っていないのだから。


 とはいえ、今日俺はひとつ学んだことがある。バカップルはバカップルを見て成長するらしい。そして俺たちはバカップルに入ってしまうようだ……。








~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

謙人くん、ここに来てようやく自分たちがバカップルであると分かったようです……。なんとも無自覚な人たちですよね。そして、謙人が涼風に選んだプレゼントとは⁉もう少ししたら明らかになると思います!



新作短編『彼女のやさしさに気づいた日』のほうもよろしくお願いします!

https://kakuyomu.jp/my/works/1177354054918682632

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