第95話 お友達
「お、お友達、ですか……」
涼風は少し戸惑っているようだ。俺は彼女の背中をそっとさすった。
「涼風が自分で決めていいんだよ。もし涼風が友達を作ってみたいなら榊原はいい人だと思うから、きっと仲良くなれると思う。でも、涼風がまだ少し怖いって言うなら、無理はしなくていいからね。俺も涼風が嫌なことを無理やりさせたくないからさ」
涼風はこくんと小さく頷いて、榊原の方を見た。
「あ、あの、榊原さん……。私でよければお友達になってください……!」
榊原はそれを聞いてとても嬉しそうに飛び上がった。
「やったぁ~!ありがと、姫野さん!あ、もうお友達だから、涼風ちゃんでもいい?私の事も夢乃でいいから!」
「は、はい。私もいいですよ、夢乃さん」
すると榊原は、なぜか神妙な面持ちで俺の方を見た。
「ねぇ、南くん……。涼風ちゃんのこと、今日だけ持ち帰っちゃダメ?私もう、涼風ちゃんの可愛さに耐えられそうにないんだけど……」
あれ?俺、涼風に良い人とか言ったけど、この人かなりやばそうだぞ?
「涼風、榊原と友達になるのはやっぱりやめておいたほうが良い。危険要素が多そうだから」
「ね、ねぇ!嘘だから!冗談だよ冗談!絶対に持ち帰ったりしないから!」
榊原はすがるように俺の方に近寄ってきた。すると今度は……、
「あの、夢乃さん?謙人くんとの距離が近いような気がするんですけど……」
涼風さんちょっとご立腹ですね。
俺はご機嫌を取るために、涼風を抱きしめた。
「大丈夫だ、涼風。どんなに距離を詰められようが俺がこうしたいのは涼風だけだから。他の子にはこんなこと絶対にしたいとは思わないよ」
涼風は目をうっとりさせて俺にもたれかかってきた。
「なんだか、私女としての魅力がないって言われてるみたいなんだけど……」
「お前なぁ……、康政がいるんだろ?慰めてもらえよ?」
これ、俺が言うってのもどうなんだろうな……。一応、榊原が落ち込んだ理由は俺にあるっぽいけど……。でも、仕方ないよね?涼風しか俺には見えてないんだもん。
「ね、ねぇ姫野さん。僕ともお友達になってくれない?」
はい出たよ~!一人いければ、皆いけるんじゃないかって思う人。しかも男子。
でも、俺はそんなことで動じたりはしないんだよ。なぜなら……
「お断りさせていただきます。その、私には、謙人くんがいるので……」
俺は慌てて涼風の顔を自分の胸にうずめさせた。
「け、謙人くん?どうしたんですか、いきなり?」
「涼風の可愛い顔をあんまり他のやつに見せたくないから。行けるかもとか思われたら困るからな」
涼風はぽっと顔を赤らめて、そのまま頭を俺にぐりぐりした。
「そ、そういうことをいきなり言うのはだめです!恥ずかしいですよ……」
可愛すぎるぅ!涼風のこういう反応は、何回見ても新鮮味があって、本当に毎回ドキドキさせられる。
「なぁ、南よぉ……」
「涼風はやらん。他をあたってくれ」
この期に及んで涼風を奪おうというのか。まったく、油断ならない奴らだ!
「ち、ちげーよ。俺が言いたかったのは、そういうのが居心地の悪い感じがするんだっていうことだ。ちょっとは自重しろ!……それと、少なくともこのクラスには、もう二人の仲を邪魔しようってやつはいないと思うぞ?皆お前らの事お似合いだと思ってるんだ。だから、姫野さんの事、幸せにしてやれよ、南!」
ここまで聞いて、一つ思ったことがある。鈴木、お前良いやつだったんだな!俺ずっとお前のこと、名字トップスリーに入る、涼風の事狙ってるきもいやつくらいにしか思ってなかったから、まじで驚いた!ありがとう!
……な~んて、本人には言わないけどね?でもこれだけは言っておこうかな?
「ありがとな、鈴木!」
「おう!……そのかわり、あの出来立てほやほやカップルは全力で邪魔するぜ……」
そう言って彼は、さっき慰めに行ってもらってからずっと二人でイチャついているあのバカップルのところへ行ってしまった。
うん、あいつやっぱ、根はきもいやつだわ。変わってねぇわ。
その日の昼休み。俺と涼風が今日も食堂で食べさせあっていると、隣に康政たちバカップルが来た。
「おう、お前たちか。二人で食べるのはもしかして初めてだったり?」
「そ、そうなんだ!だから、緊張しないように、謙人たちの近くにいようと思ってだな」
康政、こっちが見ても分かるほどに緊張してるわ……。分かるぞ、康政。俺も最初、あのショッピングモールで一緒にお昼食べた時はまじで緊張したから。
「こうしてお二人を見ていると、私たちが初めて一緒にお出かけした時のフードコートを思い出します……」
涼風!早く結婚してくれぇ!……おっといけない。つい気持ちが高ぶって本当に口に出してしまいそうになった。
「涼風、俺も今、おんなじこと思い出してた」
「謙人くんもですか!なんか、嬉しいです……!またあそこ、行きたいなぁ……」
涼風が可愛いんです……。ただひたすらに可愛いですよ……。
「今度、こいつらとも一緒に、ダブルデートってやつをしてみるか!面白そうじゃないか?」
涼風も嬉しそうに目を輝かせた。
「ダブルデート!してみたいです!是非、是非行きましょう!」
こうして、隣で初々しいカップルがお昼ご飯にドキドキしている間に、俺らの間でダブルデート計画がどんどん進行していくのだった。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
100話まで遂にあと五話です!こんなに続くとは……!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます