第94話 涼風友達作ろう作戦

「涼風、俺は涼風に同性の友達を作ってもらいたいと思う」


 次の日。俺は涼風にそんなことを提案した。


「友達……ですか?」


「そうだ、友達だ。涼風はいつも、当たり前のように俺と一緒にいてくれるが、たまには俺以外の人とも一緒にいる時間を作ったほうが良い。まぁ、男子だと俺が嫉妬しちゃうから、出来れば女子にしてほしいけど……」


 涼風が男子の友達を作りたいと言ったらどうしようか……。泣き叫ぶ自信がある。


「男性のお友達は、作る気はないですけど、どうして謙人くんはそんなにいきなり?」


 おぉ!ばっさり切ってくれてよかったぁ……。


「いや、まぁな。涼風もたまには女子トークみたいなのして、普段俺に言えない事とか話したいかなと思ってさ」


「謙人くんに言えないことはないですけど……」


 え、まじで?


「いや、なんかあるだろうよ。例えばほら、俺の愚痴とかないの?」


 俺、そんなにできた彼氏じゃないと思うんですけど……?


「じゃあ、逆に謙人くんは私に対して何か言いたいことありますか?」


「あぁ、あるぞ!」

「えっ……」


 涼風はひどく不安げな顔をしたが、俺は構わず続けた。


「まず一つ。涼風は可愛すぎると思う。そして二つ。涼風はいい子過ぎると思う。そして三つ。涼風はもっと俺に甘えてもいいと思う。さらに四つ……」

「も、もう分かりました!いいですから、やめてくださいっ!」


 涼風は俺の前でぶんぶん手を振って俺が喋るのをやめさせようとした。彼女の顔は真っ赤だ。


「それは、愚痴とかじゃなくて誉め言葉ですよ……。そんなにいっぱい言われたら、恥ずかしいです……」


 ほらね?涼風は可愛すぎるんだよ。自然体でこんなに可愛いとか、まじ天使だよね?


「ま、でも無理に作ることもないか。ゆっくりいろんな人と関わって仲良くなればいいよ。俺もずっと一緒にいるからさ」


 ちょっとこの可愛さを女子にも見せたくないなと思ってしまった俺がいた。


 え?独占欲強すぎって?いや、こんな顔見ちゃったら誰でもそうしたくなるって。




 ところがそんな俺の期待を裏切るように、教室に行くとある人に話しかけられた。


「あ!南くん、姫野さん!おはよ!」


 話しかけてきたのは榊原だった。まるで俺たちの会話をどこかで盗み聞きしていたのかと思うほどのタイミングの良さに、少し警戒してしまう。


「お、おう……。おはよう……」

「お、おはようございます……」


 俺も涼風も似たような反応になってしまった。それを見た榊原は……


「あははは!二人とも、仲良すぎでしょ!話し方もそっくりなんて~!」


 う~ん、こんなにテンション高い人だったっけな?この人?


「ねぇねぇ、康政くんもそう思うよね!」


 は……?こ、こ、康政くん……?


 そう呼ばれた奴は俺の後ろから登場した。


「そうだなぁ~。ほんとにこいつら仲良すぎるんだよなぁ~。でも、俺とゆめのんも仲いいんだよねぇ~」


 うん、どうやらこいつはここにいていいやつじゃなかったらしい。電話電話……


「おい謙人、どうしたんだ?俺の顔を見るなりいきなり携帯触って。写真でも撮るのか?」


 そう言って康政はレンズに向かってポーズを決めだした。本格的に頭がぶっ壊れたらしい。


「いや、教室に不審者がいるから、警察に電話しようと思って。クラスの女子の事を変な呼び方で呼んでる変出者がいますって」


「っておい!そりゃ俺のことか⁉」


 お前意外にいると思うのか?


「当たり前だ」


「待て待て待て待て!それはお前の誤解だ!じ、実はよぉ……俺さ、ゆめのんと付き合うことになったんだ~!」


 うん、どうやら俺の耳がぶっ壊れたか、康政がぶっ壊れたかしたらしい。だってねぇ?


「おい康政、それは正気なのか?お前のモットーは『女は一人よりたくさんいたほうが良い』じゃなかったのか?」


「あぁ~それな?もう、ゆめのんの事好きになったら、他のやつとかどうでもよくなったんだわ。だから、今はゆめのん一筋なんだ!」


「きゃっ!嬉しい、康政くん!私も康政くんの事、だ~いすき!」


 なんだこの空気は?非常に居心地が悪い。


 俺が自分の席に着くと、周りに男子どもが寄ってきた。


「おい謙人。あの二人を見た感想は?」


「非常に居心地が悪い」


「「「「俺たちはそれを今までずっと味わってきたんだからな、お前と姫野さんで!」」」」


 え、俺たちあそこまでじゃないと思うよ?


「涼風、俺たちはいくらなんでもあそこまでじゃないよな?」


 涼風が俺の方に来たので、俺は涼風を膝の上に乗っけて聞いた。


「はい、私もあのお二人ほどではないかと……」


 だがどうしたことだか、周りの奴らにはため息をつかれた。


「「「はぁ……。お前ら、本当に無自覚にそうやってんのな……」」」


 ん?無自覚?一体どういうことだろうか?


「ねぇねぇ、姫野さん!」


 唐突に榊原が近寄ってきた。当たり前のように康政もそれに続いてやってくる。それに伴って、クラスの男子どもの視線は康政に向けられ、そのほとんどが妬みの感情を含んでいたが、康政は見事なまでにそれらすべてを無視している。


 俺は絶対、あの視線の量には耐えられないな……。っていうか、榊原も一般的には可愛いんだもんな。そんな子が彼氏作ったんだから、周りの男子どもは妬むわな。


「姫野さん!私と友達になってください!」


 榊原は唐突にそんなことを言って涼風にむかってぺこりと頭を下げた。どうやら、涼風友達作ろう作戦は早くも成功したようだ。



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