第93話 勉強
「謙人くん、お勉強をしましょう」
今日は月曜日。体育祭の振り替え休日で、家でごろごろしていたわけだが……。
「えっ……、今日も涼風とゆっくりしようと思ってたのに……」
そう、俺の頭の中には勉強という文字など存在していない……はずだった。
「昨日、一日ゆっくりしたじゃないですか。それに、来週はもう、テストなんですよ?」
うちの学校はなかなかに鬼なのだ。体育祭の翌週にはテストが待ち受けている。一体、いつ勉強しろというのか?
「そうだったなぁ……。仕方ない、やるか」
俺はしぶしぶテーブルの方に移って、教科書などを開き始めた。涼風も隣で準備をしている。俺はふと、彼女に抱き着いてみた。
「け、謙人くん?どうしたんですか、いきなり?」
ほほう。俺の急なアタックにもそこまで動揺しなくなってきたとは……。やるな、涼風。
「ちょっと涼風成分を補充しとこうと思って。こうすれば、勉強頑張れそう」
「じゃ、じゃあ、私も、謙人くん成分を補充です……」
涼風も俺の背中に手を回した。しばらく二人で抱きしめあう。涼風のいい匂いが、俺の鼻をくすぐる。
本当なら、今日も昨日と同じように一日中涼風を愛でていたかったが、勉強モードの涼風たんはそれを許してはくれないらしい。
「け、謙人くん。そろそろやりますよ?私ももう、謙人くん成分補充できましたから」
もう少しだけこうしていたかったが、テストが悪くて補習になってしまうのも嫌だったから、しぶしぶ涼風に抱き着いていた手を緩めた。
「それじゃあ、始めましょう!謙人くんは、何から始めるんですか?」
そうだなぁ……。俺は、
「俺は涼風がなんでそんなに可愛いのかについて解明するところから始めようかな?」
涼風は顔を真っ赤にしてほっぺたを膨らませた。
「むぅ~!真面目に答えてくださいっ!私だって、怒るんですからねっ!」
こんなに可愛く怒るなら、毎日怒られてもいいと思ってしまった俺は、ドМなのだろうか?
とはいえ、涼風を怒らせてしまったなら謝っておこう。
俺は涼風を撫でながら謝罪した。
「ごめんね涼風。でも、俺が涼風を可愛いって思ってるのは本当だから。……それで、俺は数学から始めるよ」
涼風はまだ少し不機嫌そうにしていた。
「なんだか最近、謙人くんってば私に優しくすれば解決すると思ってませんか?」
「えっ?そんなこと思ってるわけないだろ?それに、俺は誤魔化すために優しくしてるんじゃなくて、涼風の事がとっても大切だから優しくしたいと思うんだよ?」
涼風にそう言うと、彼女はぷく~っと膨らんでいたほっぺたをゆっくりと元に戻した。
「そ、それならいいんですけど……。と、とにかく!お勉強を始めましょう!数学からでしたね!」
「あれ?涼風も俺と同じのをやるのか?」
涼風は当然と言ったように頷いた。
「はい。そうすれば、謙人くんに分からない問題があった時、教えてあげられるので。一応、一年生の時に、二年生の履修範囲も一通り学習し終えたので、大丈夫だと思います」
ハイ?コノコハナニヲオッシャッテルノ?
「え、え~っと、涼風?一年生の時に、今年の範囲も全部終わらせたっていうこと?」
「はい、そうですけど……?」
なんでそんなこと聞くの?みたいな顔をしないでくれ……。え?涼風って、めちゃくちゃ頭いいとは思ってたけど、これはレベルが違い過ぎないか?俺、こんな天才美少女と一緒にいて本当にいいのかちょっと自信なくなってきたよ?
「去年はお友達も誰もいなくて、やることがなかったんですよね……。それで、賢くなったら教えてほしいっていう人もいるかなって。それで、お友達になれたらいいなって心のどこかで思ってたんですけど、皆、私がいい成績とって自慢してる感じ悪いやつだって。かえって逆効果だったみたいですね……」
何が一緒にいていいのか分からないだ。何が自信なくなってきただ。俺がやることは決まっている。涼風を笑顔にすることだ。彼女に、一緒にいて楽しいと思ってもらえることだ。彼女を……幸せにすることだ。
そうと分かれば、俺のやることなど決まっている。
「なぁ涼風。この問題が分からないんだけど、教えてもらってもいいか?」
俺は涼風の呟きが聞こえなかったふりをして、涼風に質問した。でも、涼風には全部ばれていたようだ。
「謙人くんは、優しいですね。私に優しすぎますよ。これじゃあ私だけ、どんどん謙人くんの事が好きになっていっちゃいます」
「安心して大丈夫だ。俺も毎日、どんどん涼風の事が好きになる。周りが皆、涼風のことを悪く言ったって、俺だけは涼風の味方だから。どんなことがあってもな。だから、俺には何でも言ってくれ。愚痴でもいいし、楽しかったことでもいいし、頑張ったことも聞きたいなぁ。涼風の事、もっともっと教えてくれよ。そうすれば、俺はもっともっとも~っと、涼風の事が好きになっちゃうから」
涼風は少し、目を潤わせ、俺に抱き着いてきた。
「謙人くん……!」
咄嗟に彼女を抱きとめて、優しく優しく、彼女を撫でた。
「涼風は頑張り屋さんですごい子だよ。俺なんて、来年の予習しようなんて絶対に思わないもん。それに、涼風はとっても優しい子だ。今だって、俺のために勉強を教えてくれようとしてくれている。人のためにこんなに頑張れる子、なかなかいないぞ?」
涼風は肩を少し震わせて、俺の胸に顔をうずめた。俺は彼女を抱きしめる力を強くした。
ゆっくり、ゆっくりでいい。怖いのは当たり前なんだ。その痛みがなくなるまで、俺がずっと支え続けるから。
結局その日、俺が解いた問題は、涼風に質問をしたあの一問だけだった。
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さて、涼風にトラウマを与えたあの腹黒な方は、いつぶちのめされるんでしょねぇ?(ボソッ)
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