第92話 君の手を取って

「それでは、これにて今年度の体育祭を閉会します!」


 代表の高らかな宣言のもと、俺たちの体育祭は幕を閉じた。皆、それぞれ労いあったり称えあったり、とてもいい雰囲気だ。ちなみに俺たちのクラスは、大健闘の末、準優勝を飾った。涼風との初めての体育祭で、準優勝。とてもいい思い出になった。そもそも涼風といられる毎日が、俺にとっては思い出なんだけどね?まぁ、そんなくさいセリフは、心の中に封じておこう。


「楽しかったですね、体育祭!」


「そうだね。色々あったけど、俺も涼風が一緒だったから、めちゃくちゃ楽しかったよ!」


 涼風は俺に抱き着いてきた。いきなりそんなことをするなんて……なんか涼風たん、大胆になってませんかね?いや、嬉しいんだけどね?


「涼風、どうした?」


「今日、座席で謙人くんを応援していた時に、一年生の方々が、「南先輩って、かっこいいよね……!あんな人と付き合いたいなぁ……」って言っていたのを聞いてしまいまして……。こんな独占欲が強い子なんて、謙人くんも嫌だと思うんですけど、でも……」


 俺は涼風の頭に手を置いて、そっと撫でた。


「涼風、落ち着いて?まず一つ。俺は涼風以外の人の事を好きになることは無いから。それと二つ。俺も独占欲は強い方だから、涼風が独占欲強いのは嫌じゃない。むしろ嬉しい。それと三つ。今の話を聞いて俺が思ったことなんだけど、涼風が可愛すぎる。愛してる……」


 涼風がこんなに俺を独占したいと思ってくれてるなんて!嬉しすぎて、喋り過ぎたか?


「あ、あの、ありがとう、ございます……」


 涼風は顔が真っ赤だった。


「さ、それじゃ、後夜祭もあるし、そろそろ移動しよっか?」

「あ、あの……!け、謙人くん!わ、私も、謙人くんの事、大好きです……。それと、今日の謙人くん、とってもかっこよかったです……」


 自分の顔がみるみる熱くなっていくのを感じた。不意打ちはまじで苦手だ……。しかもあんな嬉しいことをいきなり言われたら、耐えられない……。


 俺は恥ずかしがっているのを隠すために、涼風の手を取ってその場を移動した。そこにいた全員が、二人を見て「バカップル……」とつぶやいたのは、言うまでもない話であろう。







「それでは!いよいよ本当の体育祭のフィナーレ!後夜祭を開始します!皆さん、準備はいいですかぁ?男子の皆さんは、女の子は誘われるのを待っている子が多いですから、自分から積極的にアタックしてくださいね?」


「「「「うぉぉぉぉ~~~~!」」」」


 騒がしい……。なんで外にいるのに、こんなにうるさいと感じるんだろう?あいつらの声帯、どうなってんだ?


「それでは、ミュージックスタート!」


 そうして、いかにも外国の舞踏会で流れているような音楽が流れだした。とはいっても、いきなり踊りだす人はほとんどいない。皆、それぞれペアの人と、飲み物を飲みながら楽しく会話している。


 そう、後夜祭は、親睦会のようなものなのだ。距離を詰めたい人にアタックできる絶好の機会と言ってもいいだろう。ちなみに俺も、何人かの女の子から誘われたが、すべて断った。なぜなら俺には、最愛の人がいるからね。


 わざわざ惚気る意味があったのかって?今日くらいは許してほしい。


「涼風、体育祭お疲れ様」


「謙人くんも、お疲れ様です」


 俺たちは軽くコップを合わせて乾杯した。


「謙人くんにお姫様抱っこされた時は、びっくりしましたよ……」


「あのお題、だいぶひどかったよな……。作ったやつの気が知れない」


「で、でも、意外と私はいいと思いましたよ?謙人くんに、お姫様抱っこ、してもらえましたし……」


 コップで口元隠しながら、ぼそっと言うとか反則でしょ⁉可愛すぎ!


「お姫様抱っこくらいなら、言ってもらえばいつでもしてあげますよ?お姫様」


「あ、ありがとうございます……。わ、私の、王子様……」


 なんだか言って、恥ずかしくなって二人で黙り込んでしまった。


「おう!お二人さんよ!……ってどうしたんだ?二人で俯いて。喧嘩か?」


 康政……、お前、相手がいるんだろう?二人で話してればいいのに……。


「い、いや、何でもないよ。それより、康政は一人か?」


「いや……。お~い、こっちだ!」


 康政が後ろの方に向かって叫ぶと、誰かがこっちに歩いてきた。その子はなんと……


「俺が誘ったってのは、榊原だったんだ!意外だろう?」


 意外も何も、ねぇ……?


 涼風にもそこら辺の事は伝えてあるから、彼女もこの人が誰か分かったらしい。俺に思いっきり抱き着いた……というより、しがみついた。


 それを見て、榊原は……


「あはは!姫野さん、そんなの警戒しなくても、もうなんとも思ってないよ~!二人のラブラブっぷりを見たら、とてもかなわないと思ったよ。私は二人の事、応援してるから!」


 とりあえず、その言葉は信用して良さそうだ。涼風にもそれが感じ取れたらしく、警戒の色を薄めた。


「それで、何がどうなったら、康政が榊原を誘うんだ?」


「あぁ、それはな……、たまたまだ!」


 は?


「いや、本当にたまたまなんだよな~。誰か、一緒に後夜祭でいてくれる人いないかな~って探してた時に、たまたま榊原がいて、誘ってみたらいいよって言ってくれてな」


 お前、運使い果たしたんじゃないか?榊原を誘いたいって人も、結構いたと思うぞ?なにせ、クラスで一番って言われてたんだからな。そう、あくまでも言われてただ。俺の中では誰が何といおうと涼風が一番だから、クラス、いや、学校で一番は、涼風なんだ!なんだか周りもそう思ってるっぽいんだけどね……。


 そんな感じで、四人でああだこうだと喋っていたら、後夜祭も終わりに近づいてきたようで……、


「さぁ!皆さん、いよいよ後夜祭も、本当に本当のフィナーレです!後夜祭のジンクス、皆さんは知ってますよね?準備はいいですかぁ?」


 そう、後夜祭のジンクス。一緒に踊った人は結ばれる。正確には、曲が終わるとき、手を繋いでいたペアは結ばれる。


 だから俺は、隣にいた涼風の手を取った。涼風も笑って俺がつないだ手を握り返してくれた。気づけば、康政たちもそうしている。


「では……これにて……後夜祭を……終了します!」


 そんな宣言と共に、曲が止まった。




 俺は涼風とつないだ手を、しばらく離すことはせずに、ずっとどこでもない空の一点を見つめていた。



 何年か先、このジンクスが、本当に実現しますように。涼風と、将来結ばれることができますように……



 握る手にそんな思いを込めながら……。









~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

更新遅れて申し訳ないです!

さて、長かった体育祭も終了しましたね!なんだかいい感じに終わりましたけど、まだまだですよぉ~!甘~いイベント、どんどん入れていきます!

お楽しみに!

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